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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第三章 執行官の誇り
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天使光臨3

戦闘開始

そこは、教会と呼べるほど広く、ある種の神聖さすら漂わせていた。

「ここが中心部で間違いないはず」

 ケイオスは異端審問局のサーバと、先ほどの部屋にあったデータを利用し、簡易的なマップを作成。術式を展開しているであろう場所を特定して、五人を引き連れてこの場所に足を踏み入れた。

「まぁ、天使様にはおあつらえ向きの場所かもな」

 ウインドが、先ほどケイオスにいわれたことも気にせず言葉を口にするものの、そんなものを気にしていられるほど、その場にいる人間に余裕はない。それにようやく気づいたのか、彼も緊張で体の意思を高めていく。

「へぇ、僕の後輩は、結構若いんだね。でも、それなりに場数は踏んでいるみたいだ。うん、これなら、少しは役に立つかな」

 軽口をたたきながら、いきなり六人の目の前、磔にされた救世主をあざ笑うように、十字架の上で足を組みながら、白衣にメガネの女性は歌うように告げる。ただ、それだけのはずなのに、この場にいる人間全員が、心臓を鷲掴みにされているように肩で息をしていた。

「挨拶は重要だよ、後輩君。僕の名前は、 徒草リカコ。異端審問局にいたときは、アンブレラに所属していて、当時の席次は一、称号は魔術師。これぐらいは知っているよね?」

 茶化すように、組んだ足に肘を乗せ、全員を値踏みしながら、彼女は顎を手のひらに乗せる。

「当然、僕の目的も知っているわけだよね。あれ、でもおかしいな、さっきまで人形を通してお話していた彼がいない。どこに行ったのか、教えてくれるかな?」

 その場にいる全員が凍りつくような笑みを浮かべるリカコ。だがそれに対し、

「俺様が知るかよ、そんなこと」

 いつの間に移動したのか、彼女の上から風を纏ったウインドが落下してくる。彼の能力である『風力操作』で移動したのだろう。そして、この攻撃には、迅さだけでなく重力による重さも加えられている。そう、回避するにも、防御するにも、相手を知覚する時間が足りなすぎる。

「うん? 君は育ちが余りよくないみたいだね。両親に言われなかったかい、人の話は最後まできちんと聞きなさいと」

 にもかかわらず、ウインドの攻撃は床へと突き刺さり、リカコはその場を動いてすらいない。

次元屈折現象シュレディンガー、使える人間がいるとは思わなかったよ」

「へぇ、少しはお勉強しているみたいだね、感心感心。それはそうと、僕の質問に答えてくれると嬉しいんだけどね、後輩君」

 舌打ちするウインドを視界に納めながら、ケイオスは内心、対抗策をどうやって生み出そうか悩んでいた。

 次元屈折現象。

 かつて、学者が提唱した猫箱を元に構築された技術であり、第三者を持ってしか、事実を突き止めることのできない理論を応用したもの。もっとも、その使用には非常に緻密な演算と、針に糸を通すほどの正確さが求められる為、現在では古代技術、『魔術』とさえ呼ばれている。

「ユヅルのことを言っているなら、彼は別件が入って、戻ってくるのは少し遅れる」

「なるほど、主役の登場はやっぱり遅くないと。ふむふむ、しかし残念だな、彼、僕の今から始める実験に間に合うかなぁ?」

 ため息をつきながら、思案に耽るリカコに対し、ケイオスは笑みを浮かべ、

「それよりも、自分の心配をしたほうがいいと思うよ、先輩。今あなたは、アンブレラを相手にしているんだから」

 その言葉とほぼ同時、彼女を下方向からセンザの斬撃が襲う。彼女の能力は切断。いってしまえば、何かを切る力。そう、切ることしかできない能力。だが、それゆえに一点特化した力は次元だろうが、結界だろうが切断する。

「うん、なかなかいい指揮官だね、君。でも、それだけじゃ及第点はあげられないよ?」

 しかし、それすらも嘲笑うように、リカコはセンザの隣に突如出現する。

「じゃあ、力ずくで合格点を奪うことにするよ」

 それをあらかじめ予測していたように、その場所に無数の線が飛び交う。発生源は、ケイオスの背後、彼の長身に隠れるような位置にいるハイドレンジア。彼女の両手の指から放たれた水の糸。振動を付与された水は、最高の硬度を誇る宝石、ダイヤモンドすら両断する。それが網のように放たれている為、彼女に逃げ場はない。

「うんうん、いいね。実に面白い」

 だが、その攻撃すら空を切り、リカコは再び十字架の上に移動して足を組む。

不確定理論アンノウンまで使うなんて、称号は伊達じゃないってことか」

「勉強熱心だね。君みたいに冷静に事態を見極め、作戦を実行できる人間、僕は好きだよ。まぁ、若干甘さは抜けきっていないみたいだけどね」

「お褒めに預かり、光栄だね」

 皮肉を口にしながらも、ケイオスは思考をフル回転し続ける。

 不確定理論。

 術式を組んだものにとって、不利益なことを無力化し、実益を得ることのできるものは実体化させることのできる、ある種のチートのような魔術。使用制限もなく、時間制限もないが、それゆえに莫大な演算能力とそれを可能とする知識が求められる。

「まいったね、本当」

 頭をかきながら、ケイオスの鋭利な視線がリカコへと向けられた瞬間、彼女の顔から余裕の笑みが消え、口から血液が滴り落ちてくる。

「これは、殺すつもりでやっと、殺さない程度にできる相手だ。僕としては、本当に遠慮したい相手だよ」

「随分と強かだね、後輩君。これは、とてもえげつない。知覚できなければ防ぐことのできない、不確定理論の穴を着いた、実にいい攻撃だ。でも、手の内を晒すのが早すぎたみたいだよ?」

「うん、それは僕もそう思った」

 ケイオスの能力は爆発であり、その基点となるのは空間座標に設置する爆弾。彼は、それを彼女の体内に仕掛けたのだ。それにより、リカコは内臓にダメージをうけ、吐血。現在に至る。

「うん、でも暇つぶしにはなりそうだよ、君達。天使が現れるまで、僕を楽しませておくれ」

 時刻は午後七時を回ったところ。

 天使が光臨するまで、残り四十二分十一秒。

カウントダウンは進みます

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