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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第三章 執行官の誇り
34/106

無貌の君臨者6

彼はどこにいるのでしょうか?

「しかし、一体どういった風の吹き回しだ。我が主が自らこの場所に足を踏み入れるとは」

「俺の視界を通して、世界を共有していたお前がそういうこと聞くか」

 イレイザーの後を歩きながら、ユヅルはふてくされたように言葉を口にする。

「大まかな用件は察しがついているんだろう?」

「ああ、だが、私は直接我が主からその言葉を聞きたい」

―面倒な奴―

 ユヅルはタバコに火をつけ、煙を吐き出しながら、

「俺自身にかけた封印を開放する為にきたんだよ」

「おお、我が主。ようやくその決意を持っていただけたとは、歓喜で涙があふれそうだ」

「勝手に溢れさせてくれ」

「まったく、我が主はつれない」

 軽口をたたきあいながら、二人は暗闇の中迷うことなく進んでいく。

「こんなところに我々を集めるとは、我が主は、よほど死にたいらしいな」

 道が開け、二人が大広間へと足を踏み入れた瞬間、ユヅルの背後から言葉と共に突き出される刃。

「自殺したいのなら、他でやって欲しいわよね」

 言葉と共に側面から、鼓膜を破りそうな大音量と質量を伴った衝撃が襲い掛かる。

「・・・・・・食べていいよね」

 上から、酸性特有の物質を焦がす臭いと共に落下してくる重量物。

 その全てが、イレイザーを避けてユヅル単体へと強襲してきた。

「ライプラース、スコール、グラトーン。貴様ら、主にむかってなんと恐れ多いことを」

 『中央悪魔皇』イレイザーの怒号すら、彼らにとっては涼風に。

「確かに我は、彼のものを主と認めた。しかし、こんな無様な姿をさらすのなら、死んだほうが、否、いっそ、我が手で殺したほうが」

 背後からユヅルを襲った男性、『東方悪魔皇』ライプラースは、つまらなそうに、

「ホント、こんな奴相手に敗北を認めた自分が嫌になってくるわ」

 側面から襲い掛かった女性、『西方悪魔皇』スコールは、苛立ちを隠すことなく、

「・・・・・・おなかすいた」

 上空から落下してきた少年、『南方悪魔皇』グラトーンは、特に意識もせず、

「まぁ、悪魔相手に真正面から来るなんて馬鹿以外の何者でもないですよ」

 にこやかな笑みを浮かべた青年、『北方悪魔皇』ベクトランは、少し遅れ、

 四人はそれぞれ、ユヅルを中傷するように言葉を吐き捨てている。

 しかし、

「そうか、なら、特別だ。本当は二秒の予定だったが、五秒にしよう」

 五人の視界に捕らえられていないユヅルの声と共に、その体は自由を奪われた。さらに、全方位からの攻撃で、サンドバック状態にされ、その後、強制的に加えられた重圧によって地面へとたたきつけられる。

「お前ら、自分を殺すのではなく、敗北させた相手に対して、もう少し警戒するということを学んだほうがいいぞ」

 そして、タバコの煙を吐き出しながら、ゆっくりと大広間へと足を踏み入れてきたユヅル。

「我が主、これはいったい?」

「さっきまでお前と一緒にいたのは、分身アバターだ。俺みたいな臆病で、狡猾な人間が、何の準備もせずに、現れるとでも思っていたのか?」

 未だ地面に縫い付けられたままのイレイザーに対し、ユヅルはつまらなそうに吐き捨てる。だが、イレイザーは、彼の言葉を聞いた後、膝を折り、彼に向かって忠節を示すように頭をたれた。

「それで、他の馬鹿四人は、この状況でも強がって、俺を殺すと口にできるか、一人ずつ聞いていくことにしよう」

 そう口にして、移動を開始するユヅル。

「さて、智謀を司る、東方悪魔皇ライプラース。お前に問う。お前は、自分を殺すのではなく、敗北させた相手が、何の準備もせず現れると、本当に思っていたのか?」

 その問いに、ライプラースは答えることなく、代わりに忠誠を誓う騎士を真似るように膝を折り、その場で彼に対して頭をたれる。

「さて、戦乱を司る、西方悪魔皇スコール。お前に問う。お前は、自分に勝利した相手が、そのまま自分が殺せるレベルのまま留まっていると思っていたのか?」

 その問いに、スコールは答えず、ライプラースに習うように膝を折り、頭をたれる。

「さて、悪食を司る、南方悪魔皇グラトーン。お前に問う。お前は、自分が食べることのできなかった相手が、餌ではないと理解できているか?」

 その問いに、うなずきながら、グラトーンは二人と同じような体勢をとる。

「さて、方向を司る、北方悪魔皇ベクトラン。お前に問う。お前は、自分が手を下すことなく、事が終わると思っていたのか?」

 その問いに、ベクトランは楽しげに笑みを浮かべ、皆と同じ体勢になる。

「ならいい」

 短く告げ、

「ライプラース、スコール、グラトーン、ベクトラン、それにイレイザー。俺は今から、俺が俺自身にかけた封印を解き放つ。すべては、くだらない茶番に幕を引くため」

 タバコの煙を吐き出し、投げ捨て、

「お前らは、悪魔にとって最大の屈辱である敗北を受け入れ、俺の力となった。故に、今回のことは不問とする」

 一歩だけ踏み出し、五人に背を向け、

「お前たちは、ただ俺について来い。俺の魂が、滅びを受け入れ崩れ落ちるまで。俺は決して、死なず、悔いず、負けない。俺がお前たちに、勝利し続けるという、甘美なる美酒をくれてやる。だから、お前たちは、遅れることなく着いて来い」

 そして、法衣を翻しながら振り返り、

「返事はどうした?」

「「「「「我らの魂。朽ち果てるまで、我が主と共に」」」」」

 五人の声に対して、彼は口の端を若干吊り上げるのだった。

そして、場面はもどります

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