水着×mizugi2
ナンパの成功率は、いかほど?
「すこし、遅れたか?」
「いえいえ、来てくれただけで御の字です」
二日後、学校へ登校はせず、ユヅルとアキタカは隣町の駅前で待ち合わせをしていた。勿論、このことを四人には二人とも知らせていない。
「それにしても、季節柄、こんなところにくるような奴は、馬鹿としか思えないんだが?」
「それは、僕を含めてですか?」
「勿論」
私服姿のユヅルは、パーカーのポケットからタバコを取り出して、火をつけて吸い始める。
「つ~か、ナンパしたいなら、別にこんな場所に来なくても」
「わかってない、ユヅル君は何もわかってない」
近くの柱に背中を預けたユヅルに対して、アキタカは彼の言葉を完全に否定する。
「いいですか、スパリゾート。この言葉に込められているのは、開放という名の水着。水着ですよ、水着。夏にしか本来拝めない、女性の至高の姿といってもいい。それを、夏ではなく、冬に拝める。しかも、開放的な空間に水着。これほど、ナンパに向いているシチュエーションはありません」
アキタカに力説され、あきれながらも文句を口にできないユヅル。それだけ、彼の言葉には迫力があった。
「まぁ、いいけど。おまえ、確か彼女いたよな?」
「それとこれとは、別問題。問題ありません」
―問題が山積みだろ―
そんなことを考えながらも、ユヅルは決して口には出さない。最近になって、彼自身気づいたことなのだが、軽音楽部のメンバーは、ユヅル以外全員彼女がいる。モテていないわけではない。だが、女性に対してはがっつく肉食系。
―本当、二ヶ月前の俺からは想像できないな―
自分が今までおかれていた状況を振り返り、ついつい自嘲してしまうユヅル。
「さて、いきますよ」
「あいあいさー」
適当に返事をしてチケットを受け取ったユヅルは、アキタカと共にスパリゾートへと歩き出した。
「これがスパリゾートねぇ」
「すっげぇ、水着天国です」
二人して、見ているものは同じはずなのに、口に出した感想はまったくの別物。建物内には、温泉の他、サウナに温水プール、ウォータースライダーに絶叫系のアトラクションまで完備され、これは一種のテーマパークといったほうが正しいかもしれない。
「それで、これからどうするんだ? 俺、ナンパなんてしたことないぞ」
「大丈夫、問題なしです。俺が女の子に声かけるんで、ユヅル君は何も言わなくて大丈夫です」
疑問を口にしたユヅルだが、アキタカはそれを一蹴。完全に、自信に満ち溢れている。
―どこからその自信がくるのか、教えて欲しいもんだ―
思ってはいても、彼から受け取ったチケットで遊びに来ている為、文句は口にしない。そんなユヅルを気にせず、アキタカは一人の女性に目をつける。
「ユヅル君、早速行きましょう」
「ああ」
生返事をしながら、アキタカに続くユヅル。
アキタカが目をつけたのは、黒のビキニを着た長身の女性。職業はモデルなのだろうか、スレンダーなボディは、腰でくびれており、健康的な色気が漂っている。しかし、そこでユヅルは気づいてしまった。
「アキタカ、あれは止めとけ」
「なんでですか。ここまで来て怖気づかないでくださいよ」
ユヅルの忠告を無視して女性に声をかけるアキタカ。その瞬間、ユヅルは頭を軽く右手で抑えてしまう。
「あのぅ、良ければ一緒にお食事でも」
「へぇ、僕に声をかけるとは、ね。いいよ、ユヅル様も一緒なんだろ?」
そう、アキタカが声をかけた女性は、雨竜カズキその人。途中で、ユヅルは気づき、彼を止めたのだが、とめられなかったことをその場で若干、後悔している。
「うっ、雨竜さん?」
「そうだよ、君の知っている雨竜カズキ。なにか、問題でも?」
気づかなかったアキタカを、嘲笑するように淡々と口にするカズキ。そして、気づいていたユヅルはといえば、
「まさか、ゆ~君がここにいるなんて。偶然ってすごいね」
カズキと一緒に来たのだろう、オレンジ色のかわいらしい水着を着たヒサノにつかまっていた。
「アキタカが懸賞でチケット当てて、誘える人間がいないから一緒に着たんだが。そっちは?」
「ここの社長さんとお父さんが知り合いで、偶然チケットを頂けたんです」
本当のところ、父親にお願いしてチケットを入手したヒサノだが、それは決して口にしない。
「そっか、そんで、お前ら二人だけか?」
「はい、何か問題でも?」
「いや、偶然が重なりすぎるのは、いかがなものかと考えていただけだ」
ヒサノとしては、カズキにも秘密でくるつもりだったのだが、二人がこの場所に来る日時を彼女に調べてもらった為、断りきれなかったのだ。それゆえ、これ以上ライバルは増やしたくない。それが彼女の本音。対してユヅルは、芋づる式に後二人着たら、どうしようかと悩んだが、そこまで深く考えなくてもよかったらしい。
「うう、僕の今日の希望が」
「いや、まぁ、がんばれ」
ナンパ失敗だけでなく、本日の行動予定が決定してしまったアキタカは、その場で膝を着いて落ち込んでしまっている。とりあえず、慰めの言葉をかけては見るものの、彼の反応はない。
「それで、これからどうするつもりだい、ユヅル様?」
「どうするもなにも、一緒にいたほうがいいんじゃないか?」
「本当ですか?」
カズキの提案で、いい方向に転んだ二人は心の中でガッツポーズをとり、左側からカズキが、右側からヒサノが、それぞれユヅルの腕を取る。
「ふふっ、両手に花だね」
「あれ、一緒に乗りましょうよ」
二人のテンションはかなり高くなってきているが、当の本人は歩きづらいだけ。それぐらいしか考えていない。
「はぁ、勝手にしてくれ」
志半ばにして、失敗してしまった友を尻目に、彼は羨ましい状況で休日が開始された。
しかし、残りの二人も黙ってはいません