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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第二章 日常というもの
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第九話 魔弾の後継者1

執行官VS執行官


はじまります。

「本当に、あれが席次の十三? いつでも殺せるぐらい、平和ボケしてる、一般人にしか見えないんだけど?」

 建物の屋上、スナイパーライフルのゴーグル越しに、ユヅルを見つめながら、少女はつまらなそうに声を上げる。

「信じられなければ、信じなければいい」

「なに、あんた、生意気なこと口にしてるわけ、情報屋」

「受け取った分の料金に見合う仕事は、きちんとしたつもりだよ。それでも気に食わないというなら、彼を殺した後、僕も殺せばいい。なに、君なら簡単だろ?」

 少女は、情報屋と名乗っている通話相手を、耳のイヤホンを外すことで無視することにする。

 情報屋。

 素性はまったく知らないが、金さえ払えば、迷い猫の情報から、国家機密すら手に入れる凄腕。そう聞いていたから、少女は、依頼したのだ。これが、間違いであれば、すぐさま殺しにいこうと思いながら、再び、少女はゴーグル越しに獲物を睨みつけ、

「お手並み拝見といきましょうか、席次の十三。せめて、逃げて、逃げて、命乞いさせるまで、生きて、お会いしましょう」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「しっかし、どうしたもんか」

 ガードレールに腰を下ろし、タバコの煙を吐き出しながら、ユヅルは空を仰ぐ。今回、席次の十二、この椅子に座った人間が、誰なのか、彼には皆目検討も着かない。ただ、以前、この椅子に座っていた人物は、非常に温厚だったことだけは覚えている。

「面倒なことになってきたな、まったく」

 愚痴をこぼしながら、ユヅルはタバコを投げ捨て歩き始めるが、次の瞬間、彼の目の前にあった建物が、爆音と共に火と煙を吐き出した。火の手が上がっていることから見て、爆発が起きたのは、建物の二階。周囲の混乱が起きるのは必然。あたりには火災報知機の音が鳴り響き、視界も悪い。

そんな中、彼は頭に衝撃を受けて、体制を軽く崩す。その場所に手を伸ばしてみれば、ヌメリとした血の感触が伝わってくる。

―えげつないことするね、まったく―

 おそらく、この、建物を爆破したことも、周囲の混乱も、彼を襲撃する作戦の一部なのだろう。日本だから、世界一治安のいい国だから、そんな常識の通じる人間が、異端審問局に所属しているわけがない。彼らはエゴイスト。自分の目的を達成する為には、己のエゴを貫く為なら、周囲の被害など気にしない。究極にはた迷惑な連中。それを、この、暖かい場所での生活で、ユヅルは失念していたらしい。

「間抜けは俺のほうか」

 自重しながら、新しいタバコに火をつけ、傷の手当をすることなく、歩き出した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「馬鹿げてるなんてもんじゃない、殺しづらさ(ダイハード)。まさか、ライフルの一撃で死なないって、あいつ、本当に人間?」

 自身の甘さを反省したユヅルとは対照的に、引き金を引いた側であるはずの少女は、狼狽している。少女自身、すぐに殺せるとは思っていなかった。ただ、ライフルの一撃を頭に受け、生きている相手に対して、どう対処すべきか。問題となってしまったのは事実。

「情報屋、きこえてる?」

「うん、聞こえてるよ。それにしても、さっきの爆発は君の仕業かな。ここは君のいた国とは違うんだから」

「うるさい、それよりも、あいつがあんな化け物だなんて聞いてないわよ」

 相手のたしなめる言葉を、強引に打ち切り、ライフル片手に少女は立ち上がる。

「おや? それぐらいのことを知っていて、君は動いたんじゃないのかい?」

―馬鹿にしてる。そんなことは、私だって知ってる―

 しかし、人づての話を聞いただけの少女は、動揺を抑えられない。ユヅルのことは、彼が日本に渡ってからも、度々、異端審問局で話題に上がっている。だが、その中で、彼の武勇伝が上げられるたび、少女は、どうせ、そんなたいしたことじゃない。そう、心の中でさげすみ、鼻で笑っていた。だが、彼女は実際に自分の目でそれを確認してしまった。

「だいぶ苛立っているみたいだね。作戦は、冷静に実行しないと、成功率が確実に下がるよ?」

「うるさい」

「席次の十二、ああ勿論、君の前の人だけど、あの人は、いい人だったよ?」

「うるさい」

 前任者のことを引き合いに出され、今度こそ少女は、通話を終了させる。そう、携帯電話を床に叩きつけて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 時刻は午後四時を回ったところ。

 一度目の襲撃以降、自分の存在を餌に、相手を釣ろうと、町を目的なしに歩き回っていたユヅルだが、当てが外れたらしく、ため息をついて、公園のベンチに腰を下ろした。

―簡単に諦めるような奴なら、楽だが。さすがに、そんな根性なしが執行官にはなれないしな―

 襲撃者の正体がわからず、釣ることもできなかったユヅルに残されている手段は、待つことだけ。ただし、リミットは残り五時間。エカテリーナが羽田に着くのが、八時。それからこの町に到着するまで、およそ一時間。それまで逃げ切ることができれば、彼の勝ちは確定する。むしろ、襲われているくせに、彼が負ける要因のほうが少ないという現状。

「でもそれじゃ、つまんねぇんだよな」

 リターンよりもリスクを、安穏よりも恐怖を、日常よりも、非日常を。

 現在、狩られる側に回っているはずの彼は、間違いなくこの状況を楽しんでいた。そして、あえて安全策を取らずに、危険地帯へ足を踏み入れる。それが、彼の欲望であり、本能であり、磨き上げられて牙。

 そんな時、ふと彼の視界に入った建物が砂煙を上げながら崩れていく。しかし、先ほどと違って、別方向からの攻撃が来ない。

―誘ってる、ああ、招待状代わりか―

 彼を襲撃した相手は、先ほどの襲撃で、彼の特性を大体掴んでいるはず。なら、他人を容赦なく見捨てる彼にとって、他者を痛めつけたところで意味がない。逆に、行動したことにより、自分の場所を、教えている。そう、彼は判断する。

「さて、お手並み拝見させてもらうぜ、席次の十二ルーキー

間に合うのか、エカテリーナ?

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