表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第二章 日常というもの
19/106

第八話 ショッピングです1

お買い物です。


そして、ギターがいっぱいでてきます。

「あれっ? 出かけるなんて珍しいですね」

「人を引きこもり、ニートだっけ? みたく言うんじゃねぇよ」

 天気のいい日曜日。

 玄関で靴を履いている私服のユヅルを見て、カナミは思わず声をかける。

「ほら、俺、軽音楽部に入ったって説明したろ」

「ええ、その他にも手芸部と創作部に入ったことをきいています。勿論、料理部にそのせいで入れなかったってことも」

 恨みがましくカナミにいわれ、ユヅルはどう答えていいものか悩んでしまう。結局、三つの部活動に参加することになってしまったユヅルは、料理部に入ることを拒否。さすがに四つも部活動をすることは、不可能に近い。そのことについては、きちんと説明したので、カナミは納得したものだと、ユヅルは思っていたのだが、どうやら違っていたらしい。

「その件については、きちんと説明しただろ」

「ええ、説明を受けましたとも」

「はぁ、まいぁいいや。そんで、軽音楽部に入ったはいいが、俺、自分のギター持ってねぇんだよ。だから、今日は楽器屋に行くんだよ。なんか、この説明もしたきがするな」

 靴を履き終えたユヅルは、朝からため息をつきながら、出て行こうとするが、そのとき、カナミに一枚のメモを渡される。

「なんだ、これ?」

「帰りにお買い物をお願いします。今日は、おかあさん、高校の同窓会に行って、夜は遅いんです」

「それはわかったが、これは?」

「だから、今日は私が腕を振るうことにしました。そこに書いてあるのは、夕飯に必要な材料です」

 その言葉を聴いて、彼の気分は朝から重くなる。料理部に所属しているものの、カナミの料理の腕は、素人と大差ない。むしろ、素人のほうが上手く作れるかもしれない。要するに、努力で才能の穴を埋めるには、時間が足りなすぎるのだ。それで、彼は日ごろ、強引に持たされている弁当を回避し続けている。しかし、それが家での食事となれば別。逃げ場はない。

「わかったよ」

「いってらっしゃい、ユヅルさん」

 メモをジーンズのポケットに押し込み、ユヅルは家を出る。

―処刑台に上らされる死刑囚みたいな気分だ―


 駅前に着いたユヅルは、その、人の多さにげんなりするが、目当ての人物を見つけたので、わき目も振らずに近づいていく。

「悪い、少し待たせたか?」

「いえ、僕もいま来たところです」

 頭を軽くかきながら、ユヅルが声をかけたのはアキタカ。同じ軽音楽部で、彼の予備のギターを使わせてもらっているので、選んでもらうのを手伝ってもらうことにしたのだ。

「本当に、僕なんかでよかったんですか?」

「分けわかんない奴だな、お前以外に誘うようなメンツいないだろ?」

「えっ、でも、校内新聞だと、天禅寺の女神三人と仲がいいって」

「女神ねぇ」

 二人は歩きながら、何気ないことを口にし、楽器屋へと向かう。そして、楽器屋に足を踏み入れた二人だが、

「そういえば、ユヅル君は、どんなギターが欲しいんですか?」

「えっ?」

 彼の不用意な発言が、アキタカの体を完全に凍らせてしまう。

「ちょっと待ってください、気持ちの整理をつけますから。確認しておきますけど、ギターを買いに着たんですよね?」

「ああ、そうだよ。って、ギターって、こんな種類あるのか?」

「まさか、テレキャスにSG、ファイヤーバードにムスタング、フェンダーやミュージックマンも知らないとか?」

「種類多いなぁ」

「嘘でしょう? さすがにルシールぐらいは知ってますよね?」

「知らない」

 その一言を聞いて、アキタカは絶句。チューニングも、弦の張替えもできるのに、ギターの種類をここまで知らない人間だとは、さすがの彼も思っていなかった。だが、当の本人はそんなこと気にせずに、店内を歩き回り、楽器とにらめっこを開始する。

「よさそうなのがあったら、弾いても大丈夫ですよ」

 ショックから立ち直り、彼を見つけたアキタカ。しかし、彼の視線の先にあるギターを見て、再び言葉を失う。そこにあるのは、俗に言う痛ギター。アニメやゲームのキャラクターがプリントされているギターである。

「さすがに、それは、勘弁して欲しいです」

「俺もさすがに、あれを人前で弾く度胸はねぇよ。ただ、なんか、見覚えのある絵だったから、気になっただけ」

「そうですよね、ハハハ」

 渇いた笑いを口にしながら、胸をなでおろすアキタカ。そして、ギターを見て回ること、およそ三十分。

「そういえば、お前の予備のギターって」

「ああ、あれは中古で買ったムスタング。ちなみに、愛用しているのは、SGです」

「なるほどね」

 そう口にしながら、彼が手に取ったのは、白のボディにピンクのラインが二本入っているムスタング。しばらく、ギターを見つめていた彼だが、決心したのか、構えて、近くにあるアンプとつないで、いきなり弾き始めた。勿論、店内には二人以外にも客がいるわけだが、そんなことはお構いなし。自分の思うまま、指が動くままに弾き続ける。

「やっぱりだ」

「そのギター、気に入ったんですか?」

「ああ、最初、不安だったんだけどな。弾いていて、確信が持てた」

「でも、そのギター、高いですよ?」

 値札がギターの置いてあったところにも、ギター自体にもつけられていないところを見れば、アキタカの経験上、相当な値段がする。

「アンプはあるから、あとはエフェクターか。でもさすがに、部活の備品を使い続けるのも微妙だな。とりあえず、アンプも一台探しとくか」

「いや、ユヅル君、人の話を聞きましょうよ」

 しかし、ユヅルは結局そのまま、ギターと、新たに選んだエフェクターを二つ。レジへと持って向かう。

「おっちゃん、これくれ」

 そう言って、無造作に、ただ、ギターだけは丁寧にレジカウンターに置くユヅル。店員は、彼と商品を交互に一度見たあと、無言でレジを打ち始める。

「アンプ一台に、エフェクター二つ、ギターを含めて、六十万飛んで、六千二百円になります」

「宅配サービスって奴を、利用したい」

「では、こちらに住所の記入をお願いします」

 言われるがまま、ユヅルは現在の住所をボールペンで書いていく。

「それで、お会計ですが」

「ああ、引き落とし一回で」

 財布のチェーンをもって、引っ張り出した彼は、その中のカードを一枚抜き取り、レジに置く。しかし、そのカードを見て、店員は絶句する。彼が置いたのは、LEGENDのロゴが入ったカード。このカードは限度額無制限で、この会社の重役、その親類、もしくは友人のみが持てる。そして、そのせいで持てる人間が非常に限られているカードである。

「あん? ひょっとして、カード使えなかったりするのか。それだったら、銀行から下ろしてくるけど」

 固まっている店員を不審に思い、ユヅルが声をかける。

「だっ、大丈夫です。使えます、使えますとも、はい」

 その声でようやく意識を取り戻した店員がレジをたたき、署名を求めてくる。それに、慣れた手つきで、きちんと英語で記入するユヅル。

「本当に、常識が通じないんですね」

 口にしたアキタカは、若干あきれていた。

人目を気にしない彼なら、使いこなせるはず。


当然のように続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ