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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第二章 日常というもの
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デートにレッツゴー2

久しぶりにカナミと二人。


そして、筆者も絶叫系は苦手

 待ちに待った日曜日。

 二人きりのデートということもあり、カナミのテンションは相当なもの。もっとも、時刻はまだ午前六時を回ったばかりで、ユヅルに声をかけていない。

「よし、今日は絶対大丈夫なはずです」

 普段、いや、最近一週間で、二人の周囲、主にユヅルの周囲は大きく変化している。彼が着てから二週間の間は、二人でいることが多かったというのに。なぜか、彼はいろいろな場所で、自分勝手にフラグを立ててしまう。おまけに、それが女性がらみなのだから、尚更性質が悪い。

「でも、今日は二人っきりです」

 最近、部活に参加し始めたせいか、ユヅルは学校生活が忙しくなってきている。もっとも、そうさせたくて、クローデルは彼を日本の学校に入れたのだが。彼女のにしてみれば、そういった大人の事情は関係ないのだ。

 昨日一日悩んで、決めた服装に、普段はあまり念入りにはしない化粧もしている。これで、お弁当も持っていければ最高だったのだが、それは、昨日、母親に台所で大目玉を食らい、できなくなってしまった。それでも、今日は、二人っきりなのだ。

「さてと、それじゃ」

 そう言って、自室を後にしたカナミは、ユヅルの部屋の前まで移動。一つ深呼吸をして、ドアを開ける。なぜだか、彼女自身は知らないが、彼はドアに鍵というものをかけない。トイレは例外だが、彼が自分の部屋に鍵をかけたところを、カナミは一度もみたことがない。

 薄暗い室内、足元に気をつけることなく、カナミは室内に足を踏み入れる。彼の部屋には、ものがあまりない。いや、生活に必要なもの以外、殆どものがなく、味気ない。あるとすれば、灰皿ぐらいのもの。後、小さな写真たてが一つ。そこには、今と同じ仏頂面を浮かべたユヅルと、隻腕隻眼男性が笑みを浮かべて写っている。

 そんな室内で、ユヅルはベッドの中、静かに寝息を立てている。彼を知らない人間が見れば、特に驚くことはないが、知っている人間からしてみれば、結構驚いてしまう。そう、彼、寝顔だけは年相応の少年で、むしろそれよりも幼く見えて、可愛く見えるのだ。無論、この事実を知っているのは、この家でカナコとカナミの二人だけ。そう、最近現れた二人の女の子は、この秘密を知らない。そんな小さな優越感に浸りながら、カナミはベッドの前で膝をつき、彼の前髪に手を伸ばす。

「ユヅルさん、朝ですよ」

 耳元でカナミはささやくが、ユヅルからの反応はない。彼、自分で起きる時は、目覚ましを必要とせず、決まった時間に起きる。だが、特に、誰かに起こされるときに限っては、ちょっとやそっとでは目を覚まさない。

 そのことを知っていながら、あえて確認したカナミは、頬を軽く指でつつく。それでも、反応は返ってこない。完全に熟睡している。そして、彼女自身、この時間を完全に楽しんでいた。しかし、楽しい時間は長くは続かない。壁の時計を確認すると、時刻は午前七時を回ったところ。遊園地までの移動時間を考えれば、八時半に家を出れば十分間に合う。なら、もう少しこの時間を楽しめると、カナミは思ったのだが、

「何やってんだよ、お前」

 残念なことにユヅルが目を覚ましてしまう。少しだけがっかりしながら、カナミは立ち上がり、

「起こしに来たんです」

 少し頬を膨らませ、腰に手を当て、前かがみになって、寝ぼけているユヅルに声をかける。

「わかったよ、着替えたらすぐ行くから。待ってろ」

「はい」

 やはり、今日はテンションが相当高い。そのことを自覚しながら、返事をしたカナミは部屋から出て行く。


「ったく、がきじゃねぇんだから、もう少し落ち着けよ」

「そうですけど、一日を楽しむためには、時間は無駄にできないんです」

 チケットを入場ゲートで渡し、代わりにリストバンドを受けとった二人は、それぞれ右手につけ、遊園地に足を踏み入れたのだった。


「お前が乗りたいって、言ったはずだよな?」

「そうです、そのとおりです」

 ユヅルの問いに答えるカナミの言葉は、非常に弱弱しい。まぁ、テンションだけで苦手な絶叫マシンに乗れるわけもなく、乗った後の考えていなかったのである。当然の結果、体調を悪くしたカナミはベンチにもたれかかっている。

「はぁ、飲み物でも買ってくるから、おとなしく待ってろよ」

 そう口にして、ユヅルは売店のほうへと歩いていってしまう。彼がいなくなったことを確認して、

「本当、何やってるんでしょうね、私」

 大きくため息をついてしまうカナミ。楽しみでしょうがなく、はしゃいでしまったことが原因なのは、自分でも分かっている。後先考えないで行動してしまった自分が悪いのだ。

「ねぇ、彼女、一人?」

「良ければ、俺たちと一緒に遊ばない?」

 顔を上げてみれば、カナミに声をかけているのだろう。何人かの男性が近くによって着ている。まぁ、ナンパである。普段であれば、すぐに断ることができるのだが、現在、彼女は体調不良。すぐに言葉を口にすることができない。

「あんたら、何やってんだ?」

 そんな場所に、まったく空気を読まずに戻ってきたのはユヅル。両手には、売店で買ってきたドリンクが握られており、本当に、疑問をただ口にしただけらしい。

「なに、あんたこの子の知りあい?」

「ちょっと引っ込んでてくれる?」

 だが、男たちはユヅルの存在を好ましく思っていない。睨みながら、彼にここを立ち去るように、手で指示するのだが、残念。彼らが相手にしている男、ユヅルは、マイペース。男たちの言葉を無視して、ベンチに腰掛けて、両方のドリンクをベンチの上に置く。

「とりあえず、紅茶とコーヒー買ってきたから好きなほうを選んでいいぞ」

「あれ、優しいんですね?」

「お前が普段、どんな目で俺を見てるのか、少し分かった気がするよ」

 そう口にして、苦笑したユヅルはそのままタバコを取り出し、火をつけようとして、やめる。

「タバコ、吸わないんですか?」

「いや、さすがに体調崩してるやつの隣で吸うのはどうかと思った」

 そんな彼の言葉を聴いて、少し気分がよくなってきたカナミは笑みを浮かべる。

「おい、何完全に無視してくれちゃってんの」

「やっちまうぞ、テメェ」

 その存在を完全にユヅルは忘れていた。そう、服をつかまれ、強引に立たせられてようやく、思い出した。

「あのさぁ、一つ質問、俺の握力はいったいどれぐらいでしょう?」

「はぁ? そんなの知るかよ」

「こちとら、格闘技やってんだぞ」

 まともに質問に答えてもらえると思っていなかったが、想像以上の答えが返ってきたので、とりあえず、自分の服を握っている男の手を右手で軽く握る。

「まぁ、測った覚えなんてないんだけどさ」

 それだけで、男は苦しげなうめきを上げながら、ユヅルから手を離し、掴まれている手にもう片方の手を持ってきて、どうにか彼の手を引き剥がそうとする。

「今なら、俺のお願い聞いてくれるかな。消えろ、俺の視界から」

 ユヅルが右手を離すと、男の手にはきっちりと青あざが手の形を残し、そこにどれほどの力がこめられていたかを、雄弁に語っている。それが効果があったらしく、男たちはその場からすぐに去っていく。

「ったく、面倒くせぇ」

 再びベンチに腰を下ろしたユヅルは、空を見上げながら毒づく。

「さてと、それじゃ、次はあれに乗りましょう」

 そんなユヅルの右腕を取り、立ち上がったカナミは、メリーゴーランドを指差し、歩き出す。

「体調はもういいのかよ」

「大丈夫です」

 ため息をつきつつも、ユヅルは逆らうことなく、彼女に歩幅を合わせて歩き出す。それが、カナミにとっては嬉しかった。


次で、複線を少し回収する予定。


カナミのターンはまだ続きます。

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