第六話 デートにレッツゴー1
ようやくカナミのターン。
そして続きます。
それは、ある日の出来事。
いつものように高校へ行き、帰りに商店街で夕食の材料を買い終えたユヅルとカナミの二人は、小さなテントの前にいた。そこには、大々的に商店街福引大会。この文字が横断幕に書かれ、風に舞っている。
「福引ってなんだ?」
そんなことをユヅルが口にしたのがきっかけ。偶然にも、本日の買い物で、一回福引をするほどの福引券を二人は手に入れている。
「そうですね、口で説明するとどうも上手く言えないので、実際に一度やってみましょう」
カナミに言われ、二人して列に並び、いよいよ二人の番。ユヅルにしてみれば、初体験である。
「ここを握って、回せばいいと」
「はい、出てきた玉の色に応じて、その景品がもらえるんです」
説明を受け、視線を移動させてみれば、一等、二泊三日、ペアでの温泉旅行。二等、米一俵。三等、フルーツ詰め合わせ。まぁ、商店街の福引なので、商品としては順当なところなのだろう。とりあえず程度に納得し、ユヅルが回すと出てきた玉の色は、白。見事に外れであり、ポケットティッシュを一つ受け取り、彼の福引は敗北で終わる。
「なるほどなぁ、こういうもんか」
受け取ったポケットティッシュをユヅルは、ポケットに押し込み、家路へと着こうとするが、二人が横断歩道に差し掛かったところ、車が赤信号で飛び込んできた。ユヅルが瞬時に、カナミの腕を取り、体ごと引き寄せ、車は通過していく。
「怪我は?」
「だっ大丈夫です」
非常事態だったとはいえ、正面からユヅルに抱きしめられるような体制になり、カナミの頬は赤みを帯びている。
そんなとき、続けて今度はバイクが、ハンドル操作を誤って突っ込んできた。二人には関係ない距離だが、その先には、杖を使っている老婆の姿が。
「おばあさん」
考えるよりも先に体が動いたカナミは、老婆をかばうようにその場にしゃがみこむ。
―馬鹿が―
心の中で毒づきなら、移動したユヅルは、ドライバーを殴り飛ばし、それより少し遅れて、バイクを上に蹴り飛ばす。
「本当に、世話が焼ける」
腰を抜かしたドライバーと、落下してフロント部分が変形したバイクを見た後、ユヅルはカナミに手を差し伸べ、
「卵割れちまったから、もっかい、買いに行くぞ」
仏頂面のまま、言葉を口にする。そんなユヅルの手を握り、立ち上がったカナミは、それからすぐに老婆の無事を確認。
「無事で、よかったです」
「ほんに、ありがとうなぁ」
「さっさと行くぞ」
既に、興味のなくしているユヅルが先に行ってしまったので、カナミをあわてて後を追う。
そして、善行は善行となって帰ってくるのである。
翌日、土曜の夜。
学校から帰ってきたユヅルとカナミの二人。二人の視線は、石段より少し先に停まっている黒塗りの車に注がれる。以前、ヒサノの父がリムジンで訪れてきたことがあるので、少し警戒しながら、二人は石段へと近づいていく。
すると、車から一人の男性と、見覚えのある老婆の姿が出てきた。
「かあさん、この人たちで間違いないのかな?」
「ええ、合ってますよ」
一言二言交わし、老婆を車へと戻らせた男性は、二人の下へと歩いてきて頭を下げる。
「初めまして、先日は母を助けていただいたそうで。お礼に伺わせていただきました。お二人がいなければ、母は今頃、よくて病院のベッドの上、悪ければ、この世にいなかったでしょう。本当にありがとうございます」
男性は、礼を口にして再び深く頭を下げた。
「そんなっ、頭を上げてください。おばあさんが無事で、私たちも怪我はしてないですから。お礼を言われるようなことじゃありませんよ」
あわてて男性に対してカナミは声をかける。ユヅルはといえば、無関心を装い、完全に関わる気がない。
「それでですね、よろしければなんですが、こちらを受け取っていただけませんか?」
口ではそういいながら、カナミに男性は半ば強引に封筒を握らせる。中に入っていたのは、最近、近所にできた遊園地のフリーパスチケットが二枚。
「私、この遊園地の支配人をやっていまして。こんなお礼しかできなくって申し訳ありません」
そう口にして、男は頭をもう一度下げると、今度はそのまま車に戻り、去っていってしまう。どうやら、返却は受け付けてもらえないらしい。
「何もらったんだ?」
話に興味はなくとも、もらったものには興味があるらしく、ユヅルがカナミの手元を覗き込む。
「ふぅん、明日日曜だし、誰か友達誘って行って来れば?」
そんなことを口にして、ユヅルは石段を登っていこうとするが、
「じゃあ、一緒に行きませんか? 遊園地」
「俺と?」
「えっとですね、深い意味はないんですけど。ほら、ユヅルさんって、日本の遊園地に行った事ないんじゃないかなって、思いまして。そっその、突然なんで、予定があれば、別にかまわないんですけど」
自分でも何を言っているのか分かっていないのか、彼女の声は裏返っていて、そして、断られることが怖いのか、弱々しい。
「何時にここ、出ればいいんだ?」
「えっ?」
「だから、行くんだろ、遊園地。行く前に声かけろよ」
「はいっ」
まさか、一緒に行ってもらえると思っていなかったカナミは、彼の言葉に対して満面の笑みで答えるのであった。
ちなみに、ユヅルの予定は、
月、火に手芸部。水、木が創作兼軽音楽部となっております。