第三十話 風雲アトラクション1
梅雨って嫌だよねぇ
「なぁ、これは一体なんの冗談だ?」
「冗談と言われても、私は困るのだが、ハイドマン君?」
「そこで困られても困る。つ~か、それならもう少し困ったフリでもしとけ。あと、俺はもうハイドマンじゃない」
「そうだったね、失礼、鳳君」
「そこですぐに訂正されてもこちらとしてはどうすればいいか、対応に悩むな」
「おいおい、そんな心構えで日本政治のフィクサー、鳳公康の養子になったのかい、君は?」
「心構えもなにも、クーデター終わって戻ってきたら勝手にそうなってたんだよ」
情報屋こと、品川ヘキルと生徒会室で軽口を叩き合いながら、ユヅルは目の前に置かれた書類と、窓から見える景色に対してため息をつく。
「話を戻すぞ、情報屋。これは一体何の冗談だ?」
「冗談と言われても、私は困るのだが、鳳君?」
「このやりとりはさっきもやった。いい加減、話を先に進めるぞ。あれは一体なんだ?」
「城、しかも西洋のものではなく、日本の武将や大名が作った城。だと、私は思うが」
「ああ、城だ」
「城だね」
「って、そうじゃねぇよ。なんでいきなり、城が校庭に立ってんだよ」
彼の驚きは最もである。
私立天膳寺高校の敷地面積は、他の高校がいかほどの面積を所有しているかはともかくとして、東京ドームが十個単位で入るほど大きい。その高校に、去年、途中編入という形できた彼なので、この学校の私有地に、どういった施設があるのか、その全てをまだ完全には把握していない。ただ、昨日までなかったものが、いきなり現れれば、さすがの彼でもわかるというもの。
「立派な城だよね」
「ああ、かつて、太閤が作ったって歴史で教わる一夜城よりも立派だろうよ」
「すごいね、壬生くん。こんなものを作ってしまうなんて」
「すごい、の一言で片付けるな、お前は生徒会長だろうが」
「もうすぐ任期も終わるけどね」
「もうすぐ終わるといっても、今はお前が生徒会長だ」
「あとは頼んだよ、副会長」
「責任転嫁のスピードが尋常じゃないな。あと、俺は強引に生徒会に組み込まれただけで、役職はないはずだが?」
「安心したまえ、きちんと手続きは済ませておいたから」
「頼むから、会話を進めてくれ」
怒ることはも面倒になったのか、彼はパイプ椅子に背中を預けて天井を仰ぐ。
事の発端は、簡単である。
天膳寺高校は、他の高校よりもイベント、お祭り騒ぎが大好きな学校である。そんな、この学校には長期の休み以外、確実にひと月一回というペースでイベントがある。今回は、六月。受験を控えた三年生、学校に慣れ始めてきた一年生。そんな彼らに息抜きを、刺激を与えてあげようというイベント、風雲アトラクション。それの実行委員を買って出たのが、壬生クレハであり、そのサポートにはレベッカ・サウザードがついて企画が進んでいた。
「そんで、首謀者の馬鹿二人は?」
「おそらく、あの中だろうね」
ヘキルの回答を聞いて、もはやため息すら出てこない彼は、
「じゃあ、お前の付き人派遣して、とっとと捕まえてこいよ。流石に、学校内、生徒がわんさかいる中で、あいつらも無茶しねぇだろうから」
いつも彼女のそばにいる二人のことを指していう。
「彼女たちなら、既にあの中だよ」
「手回しのいいことで」
「まだ、出てこないけどね」
「おい、行かせたの一体何時だよ」
「学校についてからすぐだから、八時前後といったところかな?」
「二時間以上前かよ」
そもそも、なんで彼が生徒会室に、しかもこの時間にいるかと言えば、この城が原因で、授業そっちのけで、生徒たちが城へと挑んでいってしまったから。
「っで、どうするんだよ?」
「材料を見たところ、軍用装備でも攻略するのに半日はかかるだろうね」
「無駄なところに金かけやがって」
「おまけに、上空から、及び途中階への潜入は迎撃システムによって、不可能に近い」
「本当に、無駄なところに力入れてるな」
天井を仰いだまま、タバコをくわえ、ユヅルは学校内だというのにも関わらず火をつける。
「結論は?」
「正面突破での攻略しか、ないだろうね」
「ああ、そうかよ」
完全に諦めた彼は、タバコの煙を燻らしながら立ち上がり、窓側へと移動。
「暇つぶしってレベルじゃねぇぞ、コレ」
「そこには、同意せざるを得ないね」
「はぁ、寝て起きたら全て終わってました。そんなノリにならねぇかな」
「夢オチは期待しちゃいけないよ?」
トラブルメーカー壬生クレハ