歓迎会です6
シリアスパートにはさよならしました
「お待たせいたしました、ご主人様」
「遅くなってしまい、もうしわけございません、マスター」
クローデルが店を出ていってからすぐ、ラッピングされた大きな包をアカネが抱えて現れ、ヌイはユヅルの前にコーヒーとスパゲッティを置き、
「おいしく、おいしくなぁれ、もえもえ、きゅ~ん」
ご丁寧にも、美味しくなる呪文をかけて、彼の隣に腰掛ける。当の本人は、メイド喫茶体験二回目で、先ほどクローデルがいたこともあり、居心地の悪さを感じているご様子。ただ、ヌイは意外にも人気があるらしく、周囲からは彼に対して嫉妬混じりの視線が向けられている。
「ヌイ、少し詰めてください」
アカネもアカネで、ヌイを少し奥へ移動させると、彼の隣に腰掛ける。
「おい、なんで反対側が空いてるのに、わざわざ隣に座る」
「マスター限定のサービスです」
「本来であれば有料かつ、来店ポイントが規定数を超えたご主人様、お嬢様のみ利用できるサービスとなっております」
「いや、頼んでないから」
ご丁寧にメニュー表を開き、来店ポイントサービスの欄を指さして説明するアカネ。ちなみに、彼に対して二人が行なっているサービスは、来店ポイント二百ポイント利用して初めて、五分間のみという、極めてぼったくりもいいサービス。
「マスター、あ~ん」
頭を抱えたくなってきた彼に対し、スパゲッティを絡ませたフォークをヌイが、彼の口元にまで運んでくる。
「これは一体、なんの真似だ?」
「マスター限定のサービスです」
「いや、そのセリフはさっきも聞いたから」
「本来であれば有料かつ、来店ポイントが規定数を超えたご主人様、お嬢様のみ利用できるサービスとなっております」
「それもさっき、聞いたって」
辟易しながら先ほどの欄を見ると、来店ポイント五百ポイントからのサービスとなっている。
「マスター、あ~んです」
「いや、一人で食えるから。フォークを返せ」
「マスターは、私のことが嫌いですか?」
「いや、好きか嫌いかで答えろと言われたら、好きの部類に入るが」
「では、あ~ん、です」
「今の会話の流れにそれがどう関わってるのか、マジで説明してくれ」
ただ、現状、彼には嫉妬と殺意の入り混じった視線が向けられており、食べるという選択肢を選んでも、食べないの選択肢を選んでも、結果としては、視線の痛さが増すだけ。
「あ~ん、あ~ん」
「食べればいいんだろ、食べれば」
半ば自暴自棄気味になりながら、甘んじて口を開いて食事をする。その途端、ものすごい勢いで嫉妬が消え、完全に殺意のみとなった視線が向けられるのだが、ヌイは顔を赤らめ、とても満足そうにほほに手を当てている。
「ご主人様、あ~んです」
「いや、もうそれ、やったから」
「ご主人様は、私のことが嫌いですか?」
「ナニコレ、こういう会話の流れから、抜け出せないようになってんの?」
「ご主人様、あ~んです」
「もういいよ、抵抗するのに疲れたよ」
完全に諦めモードに入り、二人のメイドに奉仕されながら食事をするユヅル。周囲から見れば、羨ましい、殺してやる、っといった感じの意見が暴発寸前。ただ、本人に全くその気がないことを、その場にいる人間、誰一人として理解していないが。
「そういえば、ソレ、何が入ってるんだ?」
「「存じません」」
「簡潔な回答、ありがとうよ」
二人のメイドに奉仕されながらの食事を終え、タバコに火をつけようとした彼は、思い出したようにアカネが持ってきた大きな包に疑問を抱く。
「中身、一応確認しておくか」
本来であれば、プレゼントの中身を送られる本人以外が確認するのは、モラルに反する。ただ、クレハの悪ノリが加速した場合、はた迷惑な事態に進展する。そういった事態に何度か遭遇したことのある彼からしてみれば、これは保険である。自分に言い訳して、意を決してリボンを解いて中身を確認。
「あの女、一度脳外科に行って、精密検査受けたほうがいいんじゃねぇかな」
額に青筋を浮かべながら、中身を確認した彼は、ラッピングを元の形に戻し、拳を震わせている。
「仕方ない、プレゼントは別のものを用意しよう」
流石に、マネキンと一緒の勝負下着がプレゼントとあっては、義理とはいえ、兄としては見逃せない。そんなことを考えながら、会計を済ませて店内にラッピングされた猥褻物を放置したまま、足を外へと踏み出した彼だったが、そこで違和感に気づく。
「なんで、ついてくるんだ?」
「「メイドですから」」
「仕事中だろ、放棄するなよ」
「「店長と副店長ですから」」
「なおさらダメだろ、ソレ」
「「きちんとマネージャーにあとは任せてきました」」
聞かれたといに、あらかじめ回答を用意してきましたと言わんばかりに、二人は異口同音に答えてくる。そんな二人に対して、彼はもう、ため息を付くことさえできない。
「おかしいな、ドイツの時も、異端審問局の時も、俺、こんなに疲れた覚えないぞ」
メイドさんってば素敵過ぎ