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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第七章 つかの間の安息
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歓迎会です5

話がなかなか進まない

「なるほど、エカテリーナ、彼女が上手くやってくれたみたいだね」

「どういうことだよ」

「他人に回答をもとめるよりもまず、自分で考えてみたらどうだい、ユヅル?」

 茶化すように、意地悪なことを口にして、クローデルは近くを通りかかったメイドに注文を済ませ、彼の回答を待つ。


「お前の死は、改竄されたもので、死体も偽物だったと。そう、言うつもりか?」

「そのとおり。死体は、あらかじめ私が作っておいた偽物。記録に関しては、エカテリーナが幻術でどうにかしてくれたのだろうね」

「なら、なんでこのタイミングで俺の前に姿を現した?」

 そして、いよいよ彼は、核心をつく言葉を口にする。

 いくらクーデターが終わったからといっても、このタイミングで彼女が姿をあらわすのはあまりにも不自然。姿をあらわすのであれば、彼が戦いに赴く前、もしくは戦いが終わった直後でいいはず。それなのに、あえて時間を空けて現れた意味は。


「少し、調べ物をしていたんだよ」

「テメェは相変わらず、自分を中心に物事を考えてるみたいだな。あいつらがどんだけ悲しんだかわかってねぇだろ」

「それは、とても嬉しいことだね。それだけ、私は彼らに思われ、君を中心としてまとまってくれたのだから」

「まるで見てたみたいな口ぶりだな」

「見ていたとも、君の戦いぶりだけでなく、彼女の死に様も」

 その言葉を聞いて、ユヅルはテーブルに自らの拳を振り下ろす。本気を出していたなら、テーブルが破壊されていただろうが、今回はテーブルの上に乗っていたグラスや灰皿を揺らすだけにとどまる。


「怒るなよ、あの場所に私が居ても、結果は変わらなかったはずだ」

「ああ、だろうな。だが、レンの悲しみは、少しは和らいでいたはずだ。それだけじゃない、ケイオスにセンザ、フジノ。あいつらも、テメェの死を悼んでた」

「それについては、彼らの勝手だよ。私のせいではない」

 注文したオムライスにおいしくなる呪文をかけてもらい、スプーンで口に運ぼうとする彼女だったが、その首元にユヅルの手が伸ばされる。


「どこまで、他人を馬鹿にしてやがる。クソ女」

「他人のことを馬鹿にされ、それを自分に置換して、怒る。よくもまぁ、そこまで、自分という存在を軽々しく扱える」

「お前の分析を聞いていると吐き気がする」

 手を引き、タバコの煙を吐き出しながら、彼は怒りを押しとどめ、

「このタイミングで出てきた理由と、それに関する説明だけして、すぐに消えろ」

「ふむ、感情を制御する。この一点においては、流石に優秀だ」

 クローデルはそんな彼に賞賛の言葉を送り、食事を開始する。


「これが、私の調べてきたものだ」

 そう口にして、彼女はテーブルの上にクリアファイルを投げ出す。

「星の皇に仕える十二の使徒。残り四名の容姿、戦闘傾向、能力に関して記載したものだ。まったく、これをまとめる為に、私がどれほど大変だったか、君に理解できるかい?」

「する気もない」

「釣れないね、まったく。でもさすがに、君といえど、この四名を相手にするのは、おすすめできないと判断せざるをえないね」

「だろうな」

 クリアファイルから取り出した資料に目を通しながら、ユヅルは彼女の姿を確認することなく答える。資料には確かに、彼女の言った内容が記載されている。ただ、その記載されている内容には、かなりの問題がある。


「一名ほど足りない」

「まぁ、それは大目に見て欲しいところだね。何分、時間が足りなかった」

 そう、四人といっておきながら、記載されているのは三人分のみ。四人目、彼らを束ねている中心人物の欄にはUnknownの文字が記載されているだけ。

「でも、三人分だけでも十分な収穫だろう。なにせ、相手は、時間、生命、空間を操る、能力者として見ても、十分すぎるほどの化け物だ」

 そう、記載されている三名は、時間操作、生命操作、空間操作といった具合に、神の領域に足を踏み入れた者たち。

「確かに、化け物レベルといって問題はない。だが、相手にできないほどじゃない」

 そんな相手に対しても、彼は不遜な態度を崩さない。

「生きているのなら、神であろうと、化けものであろうと、等しく付くべき弱点がある。局長の持論だったね」

「これが用件なら、とっとと消えろ。そして、二度と俺たちの前に姿をあらわすな」

「まだだよ、一番大事なことを確認していない」


 クローデルは口元をナプキンで拭い、

神滅兵装ティタノマキア、あれの代償を君は正しく理解しているのかい?」

「代償? 使えば、命を削ることを言っているのか?」

「ああそうだ、このままアレを使い続ければ、君は死ぬ」

「そんなことぐらい、理解してる。自分の体だ、ほかの誰かに言われるまでもない」

 その答えが気に入ったのか、気に食わなかったのか、彼女は席を立ち、


「ユヅル、人生は立ち向かうことだけじゃない。逃げてもいいんだ。一度しかない、自分の人生は一度きりしかないんだぞ」

 彼の襟元を両手でつかみ、立ち上がらせる。

「君は、それでいいかもしれない。だが、君が残すことになる人々はどうする。昔の、人と関わらずにいた君なら、まだよかったかもしれない。だが、今は違う。君は多くの人と関わりすぎた。君の命は、君の生き方は君だけのものだが、既にユヅルという存在は、君だけのものではない」

「そうだな、まったくもって、その通りだよ」

 ユヅルは、彼女の言葉を否定せずに賛同し、だが、次の彼の行動は彼女の顔にグラスの水を浴びせかけるという、真逆の行為。

「だがな、お前は大事なことを忘れてる。俺は、局長オヤジに拾われ、シムカやテレジアに鍛えられ、エカテリーナに叱られ、仲間を失い、仲間に支えられてる。俺は、クローデル・ハイドマンが知ってる子供じゃない。自分の足で立って、失敗して、立ち上がれる。俺が死ぬのは、敵と戦ってじゃない、あいつらに見送られて、だ」

 そして彼は、彼女の手を力任せに外して背を向ける。


「それがわかったなら、死者はどこへとなり行けばいい。俺にはもう関係ない。ただ、俺の思い出の中で、色あせずに輝いていれば、それでいい」


これで、彼の中で過去の異端審問局は完全に死にました

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