歓迎会です4
彼が向かった先とは?
「それにしても、何を受け取ればいいんだよ、ココで」
近くの喫茶店でタバコを吸いながら、コーヒーカップを傾けているユヅルは、ため息混じりに、クレハから渡された紙切れに視線を落とす。書かれているのは近辺の地図と住所。そこまではいい。ただ、それが普通の場所であれば、である。
「本当に、こんなところでナニを受け取ってこいって言うんだよ」
メモをテーブルの上に落とし、視線を窓の外に向ける。そこには彼の目的地があるのだが、
「アイツ、本当に何考えてやがる」
タバコを灰皿に押し付けて火を消し、席を立ったユヅルは、しょうがなく、目的地である、秋葉原駅のすぐ近くにあるメイド喫茶へと足を踏み入れることを決心した。
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「お帰りなさい、ご主人様」
言葉とともに笑顔を浮かべ、少し経って頭を下げるメイド服の女性に、どう対応したものかと悩むユヅルだったが、
「まさか、このような場所に足を運んでいただけるとは思いもよりませんでした、ご主人様」
「本当に夢のようです、マスター」
出迎えたのがアカネとヌイの二人であったこともあって、大きく肩を落とす。
「クレハに頼まれてきたんだけど?」
「壬生様、ですか?」
彼の言葉に対し、ヌイが首をかしげるが、アカネは思い当たることがあったらしく、軽く手を叩いている。
「ヌイ、アレです」
「アレ、ですか?」
「ええ、きっとアレです」
「すまんが、店の入口で、当人が困惑するような会話をしないでくれ。視線が痛い」
二人が彼を無視して盛り上がり始め、席にも案内されず、店内の客から後期の視線にさらされ始めたユヅル。流石に、その視線を浴び続けることをよしとするほど、彼の神経は図太くない。
「失礼いたしました、ご主人様」
「お席にご案内します、マスター」
二人して頭を下げ、アカネは奥へ、ヌイはユヅルを席へと案内して、姿を消してしまう。喫煙席に案内されたのはせめてもの救いだろう。置いていかれた水に一口だけ口をつけ、とりあえずメニュー表を開いてみたものの、そこには彼の見たことのないメニューが並んでおり、軽く頭を抱えてしまう。
「相席、してもいいかな?」
「ああ、勝手にしてくれ」
そんな彼に声がかけられ、彼は振り向くことなく、そのことを了承。だが、その人物が視界に入った瞬間、言葉を失ってしまう。
「なんで、お前が、死んだはずだろ?」
「うん、そう思いたければ、そう思い込んでいるといい」
「ふざけるなよ、テメェ」
「ふふっ、それにしても、最初に連れてきた時には、あれほど嫌そうな顔をしていたのに。まさか、一人で入るほど気に入ってくれていたとは。なんというか、善行を施したらこういった満足を得られるといった感じだね」
目の前の人物は、ユヅルの怒りをそよ風のように受け流し、
「冗談はおいておいて、私が死んだと聞いて、少しは悲しんでくれたみたいで嬉しいよ。君は、誰に対しても感情を表に出さない子だったからね」
「うるせぇよ」
自分を落ち着けるために、タバコに火をつけたユヅルは、疑問をそのまま口に出す。
「公的な記録、死体も確認した。なのに、なんでお前が俺の前に現れる。これが悪夢だって言うなら、すぐに目覚ましを用意するところだ。そんなわけで、俺の質問に答えろよ、死んだはずの、この場所にいるはずのない、クローデル」
いるはずのない人物登場