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うるせぇえんだよ

私の面子が丸つぶれのセリフだったな、と篠原は自己嫌悪している。


教師の唐突の話しかけに対する反応と、府川に駄作の跡を見られた時の声。


私は学年屈指の不良で居た。


でもそれは外見だけで、中身まではなり切れていなかったのかもしれない。



篠原は府川が前を向いた後に消し後の部分をさらに念入りに消した。


もう二度とこんな絵を描くものか。


どうせ府川は自分が上手いからって馬鹿にしてくるに決まってる。


それにしても私は何を血迷っていたのだろう。


篠原は机に突っ伏し、寝ようとした。


しかし先ほどの事が頭の中をぐるぐると駆け廻り眠気は全然襲ってこない。


前を見ると府川がまた何かを描いているようだった。


体を傾けて篠原は府川の手元を覗きこもうとした。


「おっと、見せられないな。」


覗かれた府川は途端にノートを閉じた。


そして黒板の内容を今度はちゃんとしたノートに写し始める。


篠原が黙って府川の背中を睨んでいると


「人の見たいなら自分のも見せなきゃな~。」


府川の横顔がにやりと歪んだ。


「ちっ。いいよ、別に見たくねぇよはげ。」


「は、禿げてねぇし…。」


「うっせぇ。このキモオタが。」


「えっ。」


「えってお前…。」


こいつ、馬鹿にされてるのに何とも思わないのか?


篠原は少し不思議に思った。



「別に良いじゃんオタクでも。何がいけないのさ篠原。」



かつての自分を思い返した。


自分がオタクを止めた理由。


それは偏見の目から逃げ、馬鹿にされたくなかったから、ただそれだけだった。


ただそれだけだがそれがどうしようもなく篠原は嫌だった。


でも不良になって以来もオタク自体は嫌いではなかった。


しかし仲間の内でこのことについて肯定的な事を言えば仲間はずれにされる。


だから嫌でも篠原はオタクを嫌っていた。


それがいつしか篠原に取って当たり前となり、オタクなんてどうでもいいと感じるようになってきたのだった。



オタクで何が悪い。


オタクが悪い理由なんて一つもない。


悪いと決めつけていたのは、私が他人に嫌われいじめられたくなかったから。



いけない、心が歪んだ気がした。


きっと私の中では無意識にもその素質が生きていたのであろう。



「っていうかさ、なんでお前ら不良って俺ら見たいなオタクを馬鹿にするわけ?俺らがお前らになにか悪い事をしたか?俺らが世間に悪い事をしたか?まぁ中にはアニメとゲームのやり過ぎっで変な事件起しちゃう奴もいるけどさ、でもそんなの不良が事件起す回数に比べたら断然少ないでしょ。万引きするし、レイプするし、未成年なのにたばこ吸うし酒飲むし、カツアゲするし、リンチするし、親に迷惑かけるし。そうやってなに?自分たちが偉いとでも思ってんの?社会に迷惑かけて何がしたいわけ?それに比べて俺らオタクは社会に貢献してるけど?自分がどう生きようと勝手だけど、人に迷惑かけるようなことしてたら俺らにとってはうざいだけなんだよ、お前らみたいなやつって。」


府川は自分が思ってるであろうことを全部言いきったようだった。


篠原はここまで酷く非難されたのは府川が初めてであり、かなり動揺していた。


あの頃の自分は不良に対してただ「怖い」という感情しかなく、逆らうことなんて微塵にも思わなかった。

府川はなぜ怖いはずの不良にここまで喧嘩腰になれるのだろう?


普通は怖くてこんなこと言えるはずがない。


だが府川がこう言えた理由はあまりにも単純だった。


府川は篠原のことを全くと言っていいほど知らない。


知らないからこそ、言えた、ただそれだけだった。


「で?オタクが悪い理由は?言ってみろよ、ほら。」


「う、うるせぇ。きめぇんだよ、お前ら。きめぇやつにきめぇって言って何が悪い。」


「じゃぁ、お前は相当 バ カ だな。おまけにその化粧、相当 キ モ イ。」


「っ!」


「なんだよ?お前自分で言ったんだぞ?本当に馬鹿だな。」



悔しい。


なんでオタクなんかにこの私が押されてるんだ。


篠原は目に涙を浮かべていた。


「うるさい…。」


「…はぁ。口喧嘩で負けそうになったらそうやって泣くのかよ。しょうがなぇ奴だな。」


「うるせぇぇぇぇんだよ!!!!」


「うっわ。」


篠原が叫んだ。


机を勢いよく拳で叩きつけた。


その怒号は恐らく隣にも聴こえただろう。



「お前ら二人、授業が終わったら職員室来い、いいな。」


教師がチョークを持ったまま篠原と府川を指さした。









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