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気になるよなぁ

府川は相変わらず授業中に絵を描いていた。


殆ど人体だったが、そのポーズは全て篠原の妄想に基づいていた。


「ふふふ。」


府川は思わず自分の描いた裸体にニヤリと笑ってしまう。



篠原の筆箱を投げ捨て振り事件の次の日、篠原は普通に登校してきた。


府川はてっきり自分に何か文句や理不尽な暴言をはいてくるかと思っていたのだが、今日の篠原は昨日の事があったのか妙に静かだ。


篠原が朝教室に入ってきた時には、にぎやかだったクラスが一瞬静かになった。


そしてまた賑やかになった。


篠原は黙って自分の席に着くとそのまま机に突っ伏してしまった。


その後に府川が教室に入ると再びクラスが静かになった。


そして賑やかになった。


このクラスの中ではこの二人は異質な存在になってしまったのである。


府川が篠原の姿を確認すると、府川は自分の席へと向かった。


特に話しかけることもしなかったが、府川は朝のHRまでの時間がもったいないと思って落書きノートを広げて絵を描き始めた。


すると笹川がやってきて府川のノートを覗き込んできた。


「へー、お前って絵が上手いんだなぁ。」


篠原は寝た振りをしつつ、二人の会話を聞いていた。


「そう、俺はまだまだだと思うけどなー。」


「いやいや上手いって。俺こんなの描けねぇよ。才能あるんだなー。」


「そりゃぁ、笹川が絵を描かないからだよ。練習すれば誰でも上手くなるって。」


「そうかねぇ、俺にはできっこないや。」


「うーん、俺はそう思わないけど、教えようか?」


「遠慮しとくよ、そもそも俺は絵描くのそこまで好きじゃないしな。」


「あー…、そうすか。」


篠原は二人の会話を聞きながら昔の自分を思い出していた。


確かに府川は絵が上手い、私なんかより断然に。


でも私はもう絵を描く気はない。


今更描いたって、絵が上手くなるのは数年先なんだってことはわかってる。


そもそも二次絵なんか描いているのが友達にばれたらもう今の友達は間違いなくいなくなる。


結局絵に関して、友達を2回も失うことになるのだ。



府川は一旦妄想の中から退却して、黒板の内容をノートに写した。


さすがに授業をそっちのけで絵ばっか描いていると、成績に影響するからだ。


そして移し終えたらまた絵を描く。


学校にいながら趣味を充実させる。


なんてすばらしい日常!!


二次元最高いやっほう!!



篠原は府川にばれないように、こっそりと美少女を描いていた。


しかし絵の技術は中学を卒業して以来、止まっている。


実際描き始めたのは中1の頃からで、3年は描いていたことになる。


しかしその3年間の中で成長はほとんど見られなかった。


篠原は描き途中の落書きを消した。


下手すぎる。


下手すぎて泣きたくなる。


でもいいじゃないか、そもそももう絵を描く気なんてない。



「篠原今日は起きてるんだな。」



突然数学の教師が篠原を指名した。



絵を描いていた篠原は不意を突かれて思わず


「ふぇ?」


と何かのアニメのキャラクターを思わせるような声を出してしまった。


その声にクラスメイトが反応する。


あの篠原が? えぇ、うそ!? まじかよ…!


「まぁ先生的にはそのまま起きていて貰いたいがな。」


そう言って教師は授業に戻った。


この声に反応したのは府川もそうだった。


府川は後ろを振り向き


「今の声…なに…?」


予想外な反応に目を光らせた府川が聞いてくる。


「あ…。」


府川はそのまま篠原の手元のノートに注目した。


なにか消した跡が残っている。

それは府川も良く目にする光景だった。

この後は、絵を消した跡だ。


「んだよ?殺すぞ。」


篠原は府川を睨んだ。おまけにイスを蹴りあげた。

でも府川はお構いなしに続けた。


「篠原、お前…。」


府川はノートにある消し後を指さした。


「え?あ…。」


篠原は咄嗟にノートを手で覆い隠した。

この慌てぶりに面食らったのは府川だった。


「見ないでよぉぉぉぉ!」


授業中に響き渡った篠原の声。


クラス全員が再び篠原に注目したのは無理もない。


まーた篠原と府川かよ。 うるさいぞ。静かにしろ。 見ないでって何が?


クラスメイト達が不満を言う。


篠原は焦った。

この絵のことを言われてしまったら、私のメンツは丸つぶれだ!

お願いだ、言わないで!


篠原は願った。


「いや、ちょっと、ノートに…」


やめて言わないで!」


「俺のノートに書いてなかったところがあったから篠原に見せてもらおうと思ったんだけど、すげぇ篠原に怒られた。」


府川がクラスメイトに謝った。


お前篠原に嫌われてんだなー…。


憐みの声が飛んできた。


一応収拾はついたが、府川がそのままにするわけがなかった。


「ところで篠原。絵を描いてただろ。」


「か、描いてねぇよ。は、早く前向けよ。」


「まぁそう言わずにさ。」


「だから描いてないって…!」


「じゃぁ別にいいじゃん、ノート見せてよ。」


「~~~~っ!!」


しつこい府川にいらいらする篠原。


早く前を向いてくれ!


「わかったよ、あきらめるよ。」


府川は篠原のノートを見るのをあきらめた。

篠原がノートに何か絵を描いていたのは確かであるが、無理矢理見るのも気分が良いものではない。

自分にも同じ様な時期があったから、もしかした篠原もその時期なのだろう。


それにしても、どんな絵を描いていたんだろう。

あの消し後を思い出すに、人の顔だろうか。


でもやっぱり気になるよなぁ。

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