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篠原の高校デビュー

篠原が中学3年生の頃の話。


彼女は現在の彼女とは全く逆方向の人物だった。


下手ながらもイラストを描くのが好きで、美術部に所属していた。


美術部には自分と同じ雰囲気を醸し出している友達がいっぱいて、居心地は最高だった。


いわゆるオタクと言われる集団の中の1人だった。


しかし、この頃、まだオタクという言葉は世間には広がっておらず世間から見たオタクの印象は良くはなかった。


そんなオタクを嫌い人種がいた。

それが現在の篠原の姿でもある、不良だった。


不良は何故かオタクを嫌った。


篠原が授業中にノートに落書きをしていた時の話である。


この時期は運悪く篠原の隣は不良だった。


その男の名前は酒井伸二さかいしんじと言った。


篠原は酒井が苦手だった。


酒井はとにかく口が悪い。

口が悪いというか、人を馬鹿にするのが好きな奴だった。



それに人相も良くなく、釣り上がった細い目に殆ど無いに近い細く薄い眉毛をしていた。


背も高いし、篠原にとっては存在するだけでも脅威だった。


篠原がノートに落書きをしていると酒井が隣からその絵を覗き込んできた。


篠原は咄嗟にそのノートを隠したが酒井に強引に奪われてしまった。

篠原は「返して」と言うことができなくただ酒井の表情をおどおどうかがっていた。


酒井が自分の絵を見ている。


この時の篠原が描いてた絵は、いわゆる美少女だったが、それが美少女と呼べるモノかどうかは篠原自身が一番良く理解していた。


だからこそ、見られたくなかった。


理解ある友達ならまだしも、オタクを忌み毛嫌う不良なんかに。


酒井はその時は何も言わずにすっとノートを返してくれたが、授業が終わったあと、激しく篠原を罵った。


「きっめぇぇぇぇぇ、なんだよこれ!ありえねぇぇぇ!!お前授業中にこんなきめぇ絵描いてんじゃねぇよ!お前こんなんしか描けないのかよ、才能ねぇなぁ!」



絵は才能じゃない、努力だ。

皆最初は下手だ。

篠原は自分にそう言い聞かせてきた。


上手い人は皆大人で、まだこの年齢であきらめるのは早すぎるんだ、と。



篠原は自分が絵が下手なのは知っていた、だが…。



篠原はその日の夜、絵を描こうとした。


でも、学校で酒井に言われたことが頭の中をぐるぐる回り描く気が出ないのである。


それでも鉛筆を走らせたが、出来たものはやはり、出来そこないの人間だった。


篠原は悔しくて泣いた。


「下手なのは当たりまじゃん…自分でもわかってんじゃん…なのに…。」



さらに嫌な出来事は次の日も続いた。


体育から帰ってきたら、机の中に落書き用のノートが無くなっているのである。


頭から血の気が引いて行くのがわかった。


あんな恥さらしのノートが誰かに見られたらどうしよう。


確かに体育の前の授業に私はこのノートに絵を描いていた。


元々持ってきていないなんていうことは絶対にない。


とすると、誰かに盗まれた、これ以外にあり得ない。


そしてこのノートを知っているのは私の友達と…酒井しかいない。


どう考えても私の友達がノートを盗むなんてありえない。



次の授業の時、篠原は酒井に尋ねた。


「あの、酒井君…私のノート知らない?えっと、昨日酒井君が見てたノートなんだけど。」


目は合わせられなかった。


「あぁ?しらねぇな。」



結局ノートは篠原の元には返ってこなかった。



そしてさらに次の日、篠原にとっての最悪な日々が始まったまさに一日目だった。


まず、げた箱だ。


篠原が登校して自分の靴と上靴を履き変えようとしたところである。


上靴の先に何か詰まっているようだった。


それは紙がクシャクシャに丸められているものだった。


なんだろうと篠原がその紙を広げてみると、それがなんなのか分かった。



篠原の落書き用ノートの一枚だった。



あの不細工な絵がびっちり描かれている、ノートの一枚だった。


しかもその絵には、マジックに殴り書きがしてある。


「きめぇ」「オタク」


篠原は茫然とその場に立ちすくんだ。


しかし上靴は一足だけではない、もう片方にも紙が詰められている。

嫌な予感しかしない。


篠原はもう片方の紙を取り出し、震える手でその紙を開いた。


予感は的中、またノートの一枚だった。


今までこんな絡まれ方はされたことがない。

あのノートが酒井にばれた日を境に、嫌がらせは始まっていたのだ。


だからもう犯人は酒井しかいない。


しかし、篠原は酒井に反抗するという勇気はなかった。



最終的にこの嫌がらせの犯人がノートをちぎって行くのが面倒くさくなったのか、彼女のノートはある日突然篠原の机の中に戻っていた。


篠原はそれから絵を描くのが嫌いになった。


絵を描いたらいじめられる、馬鹿にされる。


自分には才能がない。


オタクでいると嫌われる。


自分の絵は不細工、出来そこない、きもい。


自分は何を夢見ているんだ。


嫌がらせをきっかけに篠原は自分の絵に対してどんどんネガティブになっていってしまった。



でも篠原は今までの友達を捨てることはできず、絵を捨てたのは中学を卒業してからだった。



そして、それと同時に不良になった。



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