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受診の際はマスクの着用をお願いします

作者: TAKA
掲載日:2026/08/08

 ここは悪の手先から地球を守る正義の戦隊、マモルンジャーの秘密基地。ここには戦闘を行う5人の戦士のみならず、彼らをバックアップする多くの人達が働いている。


「ハックション、ハックション!」


「おや、レッド。風邪でもひいたかね?」


 基地司令の前で盛大なくしゃみを連発しているのは正義の秘密戦隊を束ねるリーダー、赤井護(あかいまもる)ことマモルンレッドだった。


「多分、俺の活躍にメロメロになった可愛い子ちゃん達が俺の噂をしてるのさ」


「レッド、寝言は永眠してから言ってくれる?」


「何なら寝てる間に濡らした雑巾を顔に被せて手伝ってあげるわよ?」


 得意げなレッドに情容赦ないツッコミを入れるピンクとイエロー。旗色が悪くなったと悟ったレッドは基地司令にアイコンタクトで救いを求めた。


「れ、レッド。体調管理も任務のうちだ。念の為医者で診察してもらってきたまえ」


「了解です。マモルンレッド、これより医療機関において医師の診察を受けて参ります!」


 綺麗な敬礼をキメたマモルンレッドは、脱兎の如く離脱してピンクとイエローの追撃を躱したのであった。


「えっと、赤井護さんですね。今日はどうされました?」


「くしゃみが連発して止まらない事がありまして・・・」


「では、この問診票にご記入をお願いします。あっ、お熱もはかって下さいね」


 手近な医療機関、野夫内科(やぶないか)にやって来たレッドは、看護師さんの指示に従って問診票を書き体温計で熱もはかった。


「ええっと、熱は平熱で既往症も無しですね。では順番にお呼びしますので。おかけになってお待ち下さい」


 レッドは大人しく待合室の椅子に座って順番が来るのを待った。しかし、少しして看護師さんがある事に気付く。


「赤井さん、当院ではマスクの着用をお願いしているのですが・・・お持ちではないですか?」


「あっ、マスクか・・・普段使わないから持ってないなぁ」


 レッドも医者に行く予定ならば持参していたかもしれないが、今回の来院は予定外の行動だった。故にマスクを用意していなかった。


「当院ではマスクを50円で販売しておりますが、ご利用になりますか?」


「50円かぁ・・・ちょっと高いなぁ」


 使い捨てマスクの相場は、1枚あたり3円から15円となっている。50円では3倍から16倍という事になり、レッドにはボッタクリ価格だと感じてしまったのだ。


「近所に薬局やコンビニも無いしなぁ。もう少し安くなりませんか?」


「なりませんね。今回の受診はキャンセルなさいますか?」


「とこかで買ってきても、順番を後回しにされるだろうし・・・そうだっ!」


 コンビニやドラッグストアに買いに行くという手もあるが、医院を出たなら受診の順番を後に回されてしまうだろう。レッドはそれも面倒で嫌だった。


「太陽よ、人々を守る力を!転装、マモルンレーッド!」


 右腕を天に伸ばした赤井が叫ぶと同時に、赤い光が彼の全身を包んだ。その光がはじけるように消えた後には、真っ赤な戦闘用スーツに身を包んだ変身ヒーローの姿があった。


「マスクを着用したので問題ないですね?」


「は・・・はあ」


 確かに、赤井の頭部はマモルンレッドの全頭マスクで覆われている。医院としては問題無いと言えば無いのだが、使い捨てマスクの代わりにヒーロースーツを着用する阿呆に誰もが呆れていた。


「赤井さん、赤井さーん。1番診察室にお入りくださーい」


「あっ、呼ばれたので失礼」


 丁度診察室から呼ばれたマモルンレッドは、呆れてものも言えない看護師や居合わせた患者を無視して診察室へと入って行った。


「赤井さんですね、本日はわあぁぁぁっ!」


「あっ、中身は赤井です。使い捨てマスクを忘れたので、スーツのマスクで代用しただけなので」


 平然と言われた医師は、心を無にして診察を終える事を心に決めた。自身の精神を保全する事を最優先に選んだ結果だった。


「くしゃみが多く出るとの事ですが・・・他に咳などの症状はありませんか?」


「これと言って無いですね」


「では心音と呼吸音を聞きますね。上半身を脱いで・・・脱げます?」


 普通なら上半身の服をはだけて心音や肺の音を聴診器にて聴くのだが、継ぎ目が見えないヒーロースーツでそれが可能だろうか。


「あー、上だけって無理っすね。このままじゃダメですか?」


「試しにやってみますか・・・何も聴こえん」


 投げやり気味にヒーロースーツの上から聴診器を当てた医師は、端的に結果だけを赤井に返した。追い返さないだけ心が広い医師である。


「それ、解除出来ない?」


「解除するとマスクも消えますよ。院内ではマスク着用、ですよね?」


「あー、はいはい。じゃあ、聴診はすっ飛ばして血液検査でもやっときます?」


 医師はとうとう口調まで投げやりになってしまった。看護師に指示して採血の準備をさせた。トレーの上に針とチューブ、血液を保管する容器が並ぶ。


「では左腕を出して・・・って、これじゃ血管の位置も分からないのだが?」


「でも、スーツを解除すると以下略」


 もしスーツの上から血管の位置が分かったとしても、採血用の針が最先端科学の結晶であるマモルンジャースーツを貫ける筈もないのだが。


 嫌がらせをしているとしか思えない、厄介な患者に温厚な医師も我慢の限界が近付いていた。それを知らぬ赤井は深刻そうに話す。


「これはマモルンジャースーツの改良が必要だな。先生、先生からもマモルンジャー司令部に報告を上げて改良するよう提言を・・・」


「誰がするかぁぁぁぁ、てめえが普通のマスクをしてくれば良いだけの話だろうかぁぁぁ!とっとと出ていけぇ!」


 堪忍袋の緒が切れた医師の叫びに慌てて診察室から出ていく赤井。怯えた彼はそのまま医院からも逃げ出してしまった。


 後日、赤井は野夫内科から診察費の未払いと威力業務妨害の容疑にて告訴される事になるのであった。


 皆さん、医療機関をご利用の際はマスクを忘れずに持参しましょう。

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