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役に立つ異世界人募集中-異世界人、役に立たない-  作者: 氷見


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1/1

体毛の無い世界からの訪問者

この世界はもう異世界人に飽きていた。ホントのホントに最初に異世界からの訪問者があったのはいつなのかわからない、けれど、現在最初の訪問者とされてる彼女が来て、もう20年は経つ。

今では「衣服という概念の無い世界」と名付けられた世界からやってきた異世界人第1号の彼女は当時、大人気だった。見た目はとても可愛らしいのに全裸で、そしてそれが異世界人の文化なので、それを卑猥とするのは文化の否定で失礼に当たるだとかで彼女は例外的にテレビに出るのも全て無修正で許されていた。今、思えばそんなのはただの言い訳で美少女の裸を…それも性器さえも…無修正で堂々と放映するための方便だったんだろう。


同時期、当時は知られていなかったものの、彼女とは別に今では「魔王がいた世界」と名付けられた世界からやってきた異世界人第2号が実はやってきていた。異世界人1号さんは自分の意思でこの世界にやってきていたのに対して、2号さんは魔王に飛ばされてきただけで1号さんは2号さんを元の世界に還してあげようと何故そうなったのか未だに理解出来ないし理解したくもないけど、口にしたくもないような下品で卑猥な大会が開催され、そして2号さんは結果元の世界に帰還出来たらしい。卑猥な大会と元の世界への帰還に何の関係があったのかは知りたいとも思わないけど、それはウソでも何でもなく確かにその大会が関係していたとのことだ。


そして、1号さんも帰還して異世界人はいなくなった。と思ったのだけれど、2号さんが帰還したことでこの世界は何か目をつけられてしまったようで異世界への扉だか道だかが開きっぱなしの状態となったまま今に至る。もうあれから20年も経つけれど、この世界の住人に異世界へと通じる道だか扉について詳しい事がわかる人なんていなくてずっとそのままだ。理屈からするとこの世界からどこか別の世界へ行けるという事で、浪漫ある話でもあってずっと研究は続いているけれどこれも未だに実現していない。

だというのに異世界だか並行世界だかからは次々と人がやってくる。初期は盛り上がったらしい、1号さんのような特別な異文化交流が起こる事も期待されていた。けれど…

幸い、この世界に通じる出口は1か所しかないようで、いきなり見知らぬぬ異世界人が来ていたという事はない。もしこの出口を使わず1号さんのように勝手にこの世界に来てる人がいるのならわからないけど、いたとして問題を起こしていないなら何の問題もないのだ、そもそも。

そして、今日も…異世界からの訪問者だ。何号になるんだろう?多分公的機関はしっかりカウントしているのだろうけれど、一般人はもう何人目なのかなんて気にしてもいない。ただの日常なのだ、こんなことは既に。


担当者はモニターに映る男の姿を見て苦笑した。

「また来たか……」

その声には諦めと少しばかりの疲労感が滲んでいた。この数十年で何度この光景を見たことか。最初の頃は新鮮さもあったが、今ではすっかり見慣れた光景だ。

「ため息つかないで下さいよ。訪問者が無ければ何もしない楽なお仕事なんですから、そこ。おかしなおっさん達の面倒見てる人達なんて毎日毎日大変なんですよ」

何もしないのが楽なものかと内心思う担当者だが口にはしない。確かに面接担当は比較的楽な仕事なのは確かだ。面接してその後この世界の常識を教え…

「えーと、対象は男性、30代半ばといったところ、ハゲですね、ハゲ。特に危険な物品は所持していなさそうです。では面接開始します」

簡潔に報告を済ませると、担当者はカメラに向かって呼びかけた。

「ようこそ異世界へ。一応お聞きしますが地球、もしくは日本、そんな単語に聞き覚えは?」

部屋の中の男は突然響いた声に驚き、周囲を見回す。そしてカメラに気づいたか恐る恐るカメラの方に近づいてきた。

「え……あ、あの……ここは……」

困惑した表情で言葉を探している。これは自分の意思で来たパターンではないなとすぐにわかる。担当者は慣れた様子で続けた。

「混乱されているようですね。簡潔にお話しします。おそらくですがここはあなたの住んでいた世界とは別の世界です。次元の異なる異世界なのかそれとも並行世界なのか、もしくは同じ世界だけれど遠く遠く離れた銀河の別の星からなのか。そんな事は知りませんが地球や日本という単語を知らないのであればおそらくそういう事です」

担当者の説明を聞いているうちに、男の表情が次第に変わっていく。最初は恐怖や不安に満ちていたが、途中から何かを期待するような表情に変わっていった。そして最後には……

「つまり……俺は選ばれたって事だな!…何か困って異世界の勇者であるオレを召喚したと」


面接官は男の言葉には反応せず、淡々と手続きを進めていく。こうした反応ももう何度も見てきた。

「そうですか。では続けて質問します。あなたは自らこの世界に来たのですか?それとも何者かに送られてきたのですか?」

男は少し考え込む素振りを見せたが、すぐに答えを出した。

「いや……違う。確かにオレは異世界に行く事は憧れていたさ。けど、自分の意思でどうこう出来るもんでもねぇし。気がついたらここにいた」

面接官はその答えに頷きながらメモを取る。このパターンもすでに把握済みだ。

「なるほど。では、お名前は?」

「オレの名は……そうだな、本名もいいけど異世界で新しい名前を考えるのもいいかも……」

「名前は?」

担当者は男の言葉を遮るように繰り返した。偽名でも本名でもそんなものは彼にとってはどっちでもいいのだ。記録するのに名前が必要というだけだ。番号でもいいのだが、覚えにくい。

「あぁ……斎藤だ。斎藤健一」

日本人みたいな名前だなと思いながらも、これも今までに存在していたパターンなので特に面接官は気にしない。並行世界というパターンもあるのだろう程度の認識だ。ただ、この斉藤を名乗る男は地球も日本も知らなかった、これもまた事実であり並行世界かどうかも実のところはわからない。


「で、いつまでこの面接もどき続けんだ?オレの力が必要だから呼んだんだろ?どこに行けばいい?」

面接官は男の言葉に特に反応することもなく、淡々と次の質問を続ける。

「何か特技はありますか? あるいは何か得意なことは?」

男は一瞬考え込んだが、すぐに自信に満ちた表情で答えた。

「特にないな」

その堂々とした態度に面接官は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに平静を取り戻す。このパターンも珍しくない。

「では、これまでの人生で特に力を発揮した経験はありますか?」

「いや、無いな」

男は相変わらず自信満々に答える。

「でも心配するな。オレはやればできる男だ。異世界人だし召喚されたんだし、きっと何とかなるさ」

その言葉に面接官は何も言わずにただ黙って頷いた。異世界人だから何か出来る、何故推定30半ばにもなってそんなバカな事が言えるのだろうとは内心思う。それであれば日本に出稼ぎにくる国外の人間は日本人より優秀なのだろうか。優秀な人もいるだろうけれど、その優秀な人は大抵の場合、わざわざ日本になど来ない。昔の日本であれば違ったのかもしれないが。そう、この国に来る奴らは落ちこぼればかりだ。故郷で上手くいかなかったけれど新天地でならきっと自分は力を発揮できる、そんな何の根拠もない自信でやってくる。日本から出ていく奴らにも同じような奴らはいっぱいいる。オレは本当はもっと出来るはずなんだ、この国がオレの力を理解出来ないだけなんだと新天地を目指す。

けれど、故郷ですら上手く出来ない奴らが新天地で何か出来る可能性なんてほとんどない。この異世界の男はそれと同じレベルだ。異世界でなら自分は力を発揮できると無条件に信じている、とても哀れだが、そんな奴らとばかり面接し案内する立場になれば、哀れだなんて思っていられない。


面接官はさらに質問を続ける。

「元の世界ではどのようなお仕事をされていたんですか?」

男は少し考え込みながら答えた。

「通じるかな……事務仕事だ。数字を扱う仕事なんだが」

面接官はその言葉を聞いて内心ほっとした。事務という単語が出た。どうやら、基本的な社会構造や文化がこの世界と似ている可能性が高い。異世界の文化が極端に異なる場合、その説明や適応に非常に時間がかかるのだ。

「それは良かった。こちらの世界でも事務作業は必要とされています」

面接官は淡々と続けた。

「貴方が役立つスキルを持っているのは助かります」

男は少し驚いたような表情を見せた後、「そうか! オレの能力が活かせるのか!」と自信満々に答えた。

「ん?いや、事務とか誰でもとは言わないが、特に優れた能力は必要ないっつうか」

やはり男の言葉を無視し面接官は続ける。

「では、これから貴方の住居へ案内します。異世界人用の集団住居になりますので、最初は集団生活になりますがご理解ください。よかったですね、まだ空きがあって。次の住居の建設は既に始めてはいるのですが…」

「集団住居?ん?オレ以外にも異世界からきた勇者がいっぱいいるって事か?」

「安心してください。衣食住は保障されています。ただし、将来的には貴方も働いていただくことになります。働き出して収入を得られたら家賃も支払ってもらいます」

男は少し不満そうな顔をしたが、それでも異世界での生活が保証されていることに安堵した様子だった。

「わかった。じゃあ、どこに行けばいいんだ?」

面接官は冷静に指示を出し始めた。

「これから私が迎えに行きますので、しばらく待っていてください」

面接を終えた面接官はため息をつきながら思った。異世界人が増えすぎる、住居なんて税金の無駄遣いだと文句を言う人々もいるが、勝手に来てしまうものは仕方がない。では来た途端に殺せとでもいうのだろうか。そうはいかないだろう。けれど住居も与えず放置すれば犯罪を犯しかねない…異世界人などと言ったところで、結局は不法入国の難民でしかない。たあ、実際には彼らは必要とされている。日本人が嫌がる作業を喜んで行ってくれる。最初は渋い顔をしていても、自分が求められているとしれば笑顔で、そして真面目にこなしてくれる。元々人口が減ってきているこの国だ、多少異世界の人間が増えたところで大した問題でもない、労働力が増えたと思えばどうという事もないのだ、そのための案内が面倒だというだけで。もちろん全員が全員真面目というわけではないが、少なくとも今回の男は使えそうではある。


「これから向かいますので、少々お待ちください」

男は少し落ち着かない様子で周りを見回している。この男は自分の世界に帰る事も出来ずこの世界で…おそらくは自分の居場所はここだ!と今まで隠れていた能力を開花させて大活躍そんな事を夢見ているのだろう…そしてすぐに現実を思い知り絶望することになる。異世界だろうと故郷だろうと能力など何も変わらないのだ、故郷で上手く行かないヤツは異世界でも上手く行かない…一瞬だけ同情の念を抱いたが、すぐに切り替えて自分の仕事に戻った。

数分後、面接官は再び部屋に戻ってきた。扉を開けると、男は驚いた顔で面接官を見つめていた。

「な、なるほど異世界人というわけか」

面接官は冷静に尋ねた。

「何か私との違いを見つけましたか?」

男はしばらく考えた後、面接官の頭を指さした。

「そこだ。それは……体毛……なのか?」

面接官は一瞬戸惑ったが、すぐに理解した。確かに彼は頭髪だけでなく眉毛すらない事は面接中気になってはいた。少し確認させてもらいますかと腕や足を見せてもらい確信した。

「なるほど。貴方の世界では体毛が退化しているか、あるいは存在しないのですね」

「退化?進化だと思うんだがな。おっと、気を悪くしないでくれよ、そちらさんが野蛮な原始人だと言ってるわけじゃない」

ふむ、と考える面接官。体毛の有無程度の違いならどうという事はない。そして男はその状態を進化だと認識している。


(『体毛が無い人間の世界』といったところか、どんな世界か調べる手間が省けたな)

「わかりました。では外に出ましょう。これから集団住居まで案内します」

男は部屋を出ると、目の前の風景に驚いたような顔をした。

「これは……オレの世界と変わらないじゃないか」

面接官は安心する、そうだろうとは思っていた。かなり文化レベルが近い、それであればこの男は即戦力かもしれない。

「どうしてですか?」

男は辺りを見回しながら答えた。

「建物や街並みがオレの世界と似ているんだ。まったく同じというわけではないが」

「それは良かったですね。適応しやすくなるでしょう」

男は少し戸惑いながらも、「ああ」とだけ答えた。

「もっとファンタジックや、魔法があったりみたいな事を想像しましたか?ちなみに魔法はありませんよ。魔法を使える方がこの世界に来た例はあるようですが」

男はさらに驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「…そうか、ま、まあ、どんな世界だろうと異世界は異世界だしな。安心してくれ、役に立ってみせるから」

「そうですか。それはありがたい」

面接官は歩き始める。この男はやはり元の世界では冴えず、その自分を受け入れていないタイプなのだろうと分析する。この世界でなら、もっと出来るはずだと思っているに違いない。その男のやる気を削がずに頑張らせるか、現実を見せるか…多くの場合、現実を見せつけた方が手っ取り早い。お前は別に選ばれた存在でもなければ、隠された力があるわけでもない、と。天才というものは確かに存在する、けれど多くの人間は結局のところ努力無しでは成功しない。それは異世界でも同じ事だ。それを教えなければいけない。努力の先にこそ成功があると。オレは出来るはずなんだ!などと夢想させ続けていてはそれこそ税金の無駄遣いとなってしまう。


「ところで、俺は何をすればいいんだ?」

面接官は少し考えてから答えた。

「とりたててやってほしい事があるわけではありませんが、多くの職場で人が不足しています。AIが人間の仕事を奪うなんて幻想で一度多くの仕事が解体され…技術が途絶えかけましたから、この世界では。あなたのような異世界の知識を持つ方を我々は求めています。


努力もせずに異世界で強大な力を振るえると勘違いしているあまりにも愚かな多くの異世界人たち。彼らに現実を教え戦力と為す、彼らを鍛えるのはまた別の担当の役割だ。けれど、面接官は思う。新天地は可能性のある場所であるのは確かなのだと。彼らが無条件に自分は何か出来るなどと妄信せずに真面目に努力すれば結果はついてくる、この世界へ来た事は決して無駄ではないはずなのだと。


「斉藤さん!…貴方がこの世界で…」

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