旅行④
その日の夜は、2人仲良く布団を並べて就寝することになった。
貞操の危機は私は全く感じていない。
兄ちゃんだってまだ好きになってもらってもいない相手に手を出すような卑劣な男ではないだろう。
そんな男だったら私はここまで気持ちを知らないフリをする必要はなかったのだから。
誰よりも優しくて愛してくれるからこそ、私は知らないフリをして自分自身を保ってきたのである。変わることが何よりも怖かったから。
でももう必要ないのかもしれない。
私自身の気持ちを認めて、兄ちゃんの愛を受けれいれることをしても良いのかもしれない。もう変わることが怖いとあまり思わなくなってるような気がしている。
そんな夢みたいなことを考えながら眠りについた。
翌日。
最低限のものを持ち、私たち2人は宿から村へと向かった。
疲れは取れたもののやはり本能がこの村を恐れている為にまだ顔色は悪い。
昨日と同じように兄ちゃんは私をおんぶしながら村へと移動した。
「昨日の内に調べておいた。八尾比丘尼伝説の道のりを辿ろう」
この村はその八尾比丘尼伝説があるとされており、それが観光スポットにもなっている。
その伝説の事実は伝説ではなく、本当にあった話であり。そしてかなり違った展開になってしまっているのだが。
まさか呪いにまで転じて今の世にも八尾比丘尼と呼ばれる娘がいるとは思ってもみないだろう。
自分の行いが観光スポットになっているとはなんと皮肉なことか、私は淡々とそう思った。
しばらく私はおんぶしてもらっていたが、自身の足で歩いてみたいと強く思うようになり降ろすよう頼んだ。
兄ちゃんは不満気な顔をしていたが、渋々降ろしてくれた。
『ここ、変わってない』
「そうなんだ。…もう、ずっと前の出来事なのに土地が変わっていないのは凄いことだよね。」
『…そうだね』
八尾比丘尼伝説の元となった娘の記憶の場所をひらすら辿る。
私はなんとか本能に同情しないように必死に精神を保っていた。
しばらく辿ると本能の記憶にある海が見えてきた。
周辺の岩などは流石に変わっているが、ほとんど変化がない海がそこにはあった。
私は引き寄せられるように海の岩へと登っていく。
あまりにも自然な動きで動いていたものだから兄ちゃんは反応するのが遅れてしまったのだろう。彼は何も言わない。
本能ではなく、呪いにより身体が勝手に動いていた。
私は自身でも驚きながらどうにか身体の主導権を取り戻そうとする。
しかし、かかっている呪いは何百年と解かれなかったものだ。
陰陽師である私であっても逆らうことは難しかった。
やがて兄ちゃんが慌てて引き止める声が聞こえたが、式神が呪いを恐れてただの紙に戻ってしまい声を出す手段がなくなった。
身体が言うことを効かない以上、式神を出すことさえ叶わない。
どうしようと途方に暮れていると突然、海に引きずり込まれた。
「雫!!!」
兄ちゃんが叫ぶ声が、聞こえたような気がした。




