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姉の策略①

 今日も陰陽寮で仕事をこなす雫を見守る斉藤。

斉藤が言う通りにし続けた彼女はパソコンの作業を覚えるのが早く、最初は1時間も掛かっていた報告書の作成も30分程でできるようになっていた。

 この調子なら研修期間も早く終わるだろうとの話を彼女にしていた。

 実践も雫に教えることはほとんどなかった。

百済雫という少女について斉藤が思うのは、随分と年の割には戦い慣れているなという印象だった。

 彼女が一族でどういう扱いを受けていたかは知らない。だけど想像はつく。

特異体質なんてものを持っていれば恐らく虐げられていたということは考えられる。

 それでも雫はそのことを表に出そうとしない。その辛さを誰かと共有しようとしない。

鬼天狗様があんなにも雫に心を砕いているというのに、その心を開こうとしない。

 そのことからも彼女の事情は聞かずともなんとなく分かっていた。


「お疲れ様。だんだん早くなってきたわね。もう教えることはないかしら」

『なんとかやってるだけですよ。斉藤さんのお陰です』


仕事の全肯定を終了した斉藤たちは帰る支度をした。

 

鬼天狗様との関係性を聞いてみれば婚約者だという話だった。

 妖にとって八尾比丘尼の娘は一族に繁栄をもたらす娘だ。

頂点となる鬼天狗がその娘を娶ろうとするのは別段おかしくない話。

むしろ自然だろう。ただ気になる点が1つあった。

それは本気で鬼天狗が百済雫に惚れ込んでいるということだ。

 これは自然なことではない。

 妖と人間。

この2つが好きこのんで関係を持つということはほとんどないのだ。

 だからこそ陰陽寮という機関が存在している。

両者の境界線を守る守護者。

 それが陰陽師という存在であり、陰陽法という法律だ。

だけど、妖の頂点に立つ鬼天狗は明らかに百済雫に対して本気だ。

 そのことを本気にされている本人は気がついていないようだけれど。

こんなにも分かりやすく愛情を伝えてきているというのに、どうして分からないのか。

 斉藤は疑問に思っていたが、彼女の生い立ちを予想すればそうなってしまうのも無理はないのかもしれないと考えた。


「雫、お疲れ様」

『兄ちゃん。今日は大丈夫だったんだ』

「まぁね。強めに術を施しておいたから」

『家で待ってればそんなことしなくて良いのに』

「そんなに待ってられないよ」


それでも、と思う。

あんなに愛おしい者を見る目をしているというのにどうして──

あれは本気の目だ。

なのにどうして雫ちゃん、貴女は応えてあげないの。


いつもの調子で帰りの挨拶をして別れながらも、斉藤は切なくなるほどそう感じていた。



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