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半身切り捨て瑠璃色に染まれ  作者: 羽上帆樽
第2章 観測する一人の邂逅
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第2章 観測する一人の邂逅 2

 火花に提案されて、僕とルリはしばらくここに居座ることにした。もう大分遅いから、夜が明けてから出発することにしたのだ。


 火花は、僕とルリを従業員の控え室に案内してくれた。螺旋階段を上り、制御室の出入口の扉を抜けて、道を真っ直ぐ進む。すると、最初にここに来たときには気づかなかったが、そちらにも同様に扉があった。その扉の手前に、最初にここに来たときに通ってきた通路がある。


 控え室に続く扉は、制御室のそれとは色が反転していた。白色の表面が黒く縁取られている。火花が扉の横にある箱型の装置に触れると、ランプの色が変わって扉が開いた。


 制御室とは異なり、扉の先がすぐ部屋になっていた。階段で下に向かう必要はない。床と天井と壁がすべて同じ面積だから、立方体だ。


 部屋の中央に大きめのソファが二つと、円形の低いテーブルが一つだけあった。あとは何もない。窓もなかった。ただ、換気はされているようだ。どこかにそのための設備があるのだろう。


「シャワーを浴びますか?」部屋の出入口で火花が言った。


 僕とルリは一度顔を見合う。


「じゃあ、私は浴びる」ルリは火花の方を向いて、頷いた。


「貴方は?」火花は僕の方を見る。


 なんとなく面倒な気がしたが、ここまでずっと歩いてきたから、浴びた方が良いと僕は判断した。火花は、今度はどちらが先に浴びるか尋ねてくる。僕はレディーファーストでルリに譲った。


「では、少しお待ちください」火花は言った。「用意ができたら、クードルに伝えに行かせます」


 火花は部屋を出ていった。部屋の扉は室内から開けることができるから、僕達だけここに残されても問題はない。


「つっかれたあ」そう言って、ルリはソファに思いきり腰を下ろした。踵の部分だけローファーを脱いだ状態で、彼女は脚を前後にぶらぶらさせる。「私、なんでこんなことしてるんだろう……」


「君が言い出したんじゃないか」僕は言った。


「そうだけど、まさかこんなことになるとは思わなかったな……」


「とにかく、今日はもう寝よう。明日、ここを出て、火花が言っていた工業地帯を目指そう」


「目指して、何もなかったら、どうする?」


「さあ……。そのときに考えるしかない」


「もう、帰る?」


「帰りたいの?」僕は、それまでソファの背に腰を預けていたが、正面に回って、ルリの隣に座った。


「いや、君は面倒なのかなと思って」


「面倒ではない」僕は言った。「目的もあるし」


「目的があってよかったね」


「でも、旅は目的がない方が風情がある気がする」


「何、風情って」そう言って、ルリは目を細めてこちらを見る。


「まあ、よく分からないけど……」


「私は目的がないとやってられないな。何も考えないで歩き続けるなんて、馬鹿みたい」


 沈黙。


 ルリがこちらに倒れかけてくる。肩が接触した。僕が少し身を後ろに引くと、ルリはそのまま完全に倒れてしまった。彼女に下から見つめられる。


「ねえ」ルリは手を伸ばして、僕の頬に触れた。「このまま、本当に何も見つからなかったら、どうする?」


「どうって?」


「私達、どうなるの?」


「どうって?」


「今度は私達が行方不明になる番かもよ」


「そうかな」


「それでいいの?」


「君がいるから、まだましだよ」


「まし?」


「一人よりはずっといい」


「前に、一人の方がいいって言ってなかったっけ?」


「そう?」


「うん、言ってた」


 十数メートル向こうの方で扉が開く。扉の上部に設置されているランプが灯って、その下に立つ者の姿を照らし出した。


 クードルだった。


「シャワーの用意ができた」彼女はその場に立ったまま、少し大きな声で僕達に言った。「とっとと浴びろ」


「うーん」ルリが呻く。


「いちゃつくんじゃない」クードルが言う。「ここでは、そういうのは禁止だ」


「君も、火花と、なんかいい感じだったじゃん」


「当たり前だ」クードルは不敵に笑った。「私は、管理長の忠実なる下部だ」

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