第5章 活動する二人の関係 2
花火が部屋に戻ってきてから、僕達は食事をした。パスタはレトルトながら美味しかった。こういうとき、パスタ自体が美味しいのか、それともソースが美味しいのか、どちらか分からない。
「それで?」花火が言った。「何か訊きたいことでもあるのかな?」
僕達は黙って顔を見合わせる。ルリはソファに、僕とサヤはテーブルに着いていた。花火は制御盤の前の椅子に座っている。
「私達をここに呼び出して、どうしたい?」サヤが質問した。
「どうしたいということはない」花火は答えた。「君達が特異な存在だということは、もう充分分かった。本来なら、本当に透明になるつもりかどうか選択してもらうところだが、君達にはその必要はなさそうだからね」
「どうやって、僕達の存在を知ったの?」僕は質問する。
「観測者が、別の所で大気の在り方を観測している」花火は言った。「誰かが透明化を生じると、その者が大気と同化する分、いつもと大気の在り方が変わる」
「観測者?」ルリが尋ねる。
「君達が人工島で出会った彼女だよ」
「火花のこと?」
「そう……。私と彼女は、セットで機能している」
「透明化を生じた者が完全に姿を失ってしまったあとは、どうなるの?」僕は訊いた。
「そうなると、大気はまたいつも通りの状態に戻る」
「透明化は、どうやって阻止する?」
「ここにあるシステムで……」そう言って花火は上半身だけ振り返り、背後にある制御盤をフォークを持っている方の手で示す。「透明化を生じた者に対して、混信のようなものを起こす。大気と合流しようとする方向とは逆向きの力を加える、とでも言えばいいかな」
「僕達は、どうしたらいい?」僕は気になっていたことを尋ねた。「今後、僕達も透明化を進行させて、完全に姿を失ってしまうかもしれない」
サヤはもう料理を食べ終えたみたいで、頭の後ろで手を組んで天井を見ていた。
「その問いは、君が透明化を積極的には望んでいないことを意味している」花火は僕の質問に答える。「その時点で、君が姿を失うことはないと考えられる。なぜなら、透明になることを望むのは本人の意志だからだ。君は、姿を失おうとする意志をここに来る前から持っていなかったはずだ。だから、私の方から君に干渉する必要はない。もちろん、君だけではなく、ルリ君やサヤ君に対してもね」
「じゃあ、私達は透明化を望んでいないのに、なぜ、半透明になってしまったの?」ルリが質問した。
「それは、私も不思議に思っているところだ」花火は少し首を傾げる。
「そういう者は、これまでにもいた?」
「いや、いない」花火は首を振る。「君達が初めてだ」
花火は少し下を向いて、パスタを食べる。
「これまでに、どれくらいの人間が姿を失うのを阻止してきた?」僕は別のことを訊いた。
「三、四人程度かな」顔を上げて、花火は答える。
「それだけ?」
「そうだ。少ないだろう?」花火は話した。「透明になることを望まなくなるような者は、非常に珍しい。むしろ、それを一度望んだら、最後まで望みきるのが自然な流れといえる。それに抵抗しようとする者は、いわば変異的な存在だ」
「貴方は、その自然な流れに干渉しているってこと?」ルリが尋ねる。
「それが私の役割だからね」花火は頷いた。「私は干渉者だ。ただ見ているだけの観測者とは違うのさ」




