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半身切り捨て瑠璃色に染まれ  作者: 羽上帆樽
第4章 干渉する一人の活動
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第4章 干渉する一人の活動 4

 サヤが突然椅子から立ち上がった。僕とルリは同時に彼女の方を見る。


「どうしたの?」僕は尋ねる。


 サヤは答えずに、自分の唇の前に人差し指を立てた。静かにしろという意味らしい。彼女はそのまま目を閉じる。


 次の瞬間、サヤは姿を消してしまった。また透明になったようだ。


 足音も吐息も聞こえないから、彼女がどこにいるのか僕達には分からない。大気と同化するということは、周囲を取り巻く環境と化すということを意味する。つまり、見えたり聞こえたりする主体としてではなく、その主体が存在する舞台として存在することになる。


 いつの間にか、サヤはレストランの外にいた。


 僕達の正面にある硝子張りの壁の向こうに、彼女が立っている。


 僕とルリは立ち上がり、レストランの外に出た。


「どうしたの?」僕は先ほどと同じことを尋ねる。


「誰かが近づいてくる」サヤは辺りを見渡しながら答えた。透明になれば彼女は物体の位置を把握できるから、本当は見渡す必要はないのかもしれない。僕達に向けられたジェスチャーだろうか。


「僕達をここに呼び出した人?」


「たぶん、そうだろう」


「どの方向?」ルリが尋ねる。


「分からない」サヤは首を振った。「混信している」


「意図的に混信されているのかもしれない」僕は思いつきで話す。


 サヤはその場でぐるぐると回り始めた。足を前に出すことで公転するのではなく、片方の脚を軸にして自転する。彼女が立っているのは人工芝の上だから、芝と靴底が擦れる耳障りな音が生じた。


 外はそろそろ完全に日が暮れる頃で、暗かった。それまでずっと空を覆っていた雲はようやく立ち去ったようで、空は紺色の布地に橙色のインクを滲ませたような色をしていた。


 ルリは大人しくできないみたいで、サヤが自転する周りを公転し始める。さすがに、公転しながら自転までするのは難しいようだ。


 僕はそんな二人の姿を眺める。


 ふと、視界の隅に何かが映り込んだ気がして、僕はそちらを見る。


 左の方。


 僕が見ている先には、自動車が通れる道路がある。とはいっても、街中にあるような本物の道路ではなく、アウトレットパークの建物の間を通る擬似的なものだった。


 アウトレットパークの中に立ち並ぶ建物は、日本のものとは思えない外観のものが多い。パステルカラーのものが特に目立った。


 そんな異国情緒溢れる空間の中に、誰かが立っているのが見えた。


 ちょうど建物の陰になっていて、その姿はよく見えない。


 僕は目を凝らす。


 その人物は、上着のポケットに両手を入れて直立しているみたいだった。じっとこちらを見ている。なんとなく、写真の隅に映り込んだ宇宙人を思わせた。体型がすらっとしていることも関係しているだろう。


 その人物は、一歩ずつこちらに近づいてくる。


 僕が一方向を見続けているのに気づいて、サヤとルリは回転をやめる。二人も僕が見ているのと同じ方を見た。


 建物の陰の外に出ることで、その人物の姿がはっきり見えるようになる。


 彼は、上には黒い硬質なジャケットを羽織り、下にはフォーマルな灰色のズボンを履いていた。それらの衣装とは不釣り合いと思えるような、黒いキャップを被っている。首には緑色の太いマフラーを巻いていた。丸い眼鏡をかけている。靴は革製のものではなく、スニーカーだった。


 道路を渡りきって、彼は僕達がいる港のエリアに足を踏み入れる。


 僕達の五メートルほど前で彼は立ち止まった。


 彼は僕達のことを順に見る。


「ようこそ」と彼は言った。「透明人間の諸君」

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