第3章 邂逅する一人の干渉 2
僕達はクードルが用意してくれた朝食を食べた。どれも美味しかった。誰が作ったのかと質問すると、クードルは火花が作ったと答えた。火花はいつも早く起きて、クードルのために朝食を作るらしい。
僕達の食事が半分ほど進んだところで、火花がレストランにやって来た。彼女は僕達が座っているテーブルに着く。火花はクードルの隣に座った。僕の正面にクードルがいる。
「お口に合いましたか?」自分は食事をしないで、火花が尋ねた。
「美味しいよ」ルリが答える。「料理、得意なんだね」
「得意と思ったことはありません」火花は言った。「毎日作っているだけなので、人並みです」
「私もね、料理するんだよ。お菓子が得意なんだけど……」
そうなのか、と僕は思った。彼女からそういう話を聞いたことはない。
「何を作るのが好きですか?」
「一番はケーキかな。王道って感じで」
「では、今度食べさせてください」
「火花は、ちゃんとご飯食べてるの?」
「ええ、食べています」火花は頷く。「朝は食べませんが」
話題は自然と僕達の旅程に関するものになった。といっても、特別確認するようなことはない。前に聞いた道程の簡単な確認にすぎなかった。
「その工業地帯というのは、どんな所?」僕は火花に尋ねた。
「それなりの広さがある一帯のようです」火花は答える。「ここと同じく、海に面しています。しかし、工業地帯の多くは、もともと存在した土地の上に作られたものです」
僕は頷く。ルリは食事を進める手を止めなかったが、話は聞いているようだった。
「海外に輸出する工業製品が主に作られています。つまり、コンビナートのようなものです。また、ここと同じように、海の上に作られた港があります。その港に向かうのがいいと思います」
「そこに何があるの?」
「お二人が探しているものの、ヒントが得られるかもしれません」
食事が終わり、僕達はレストランの外に出た。食器はクードルが片づけてくれるらしい。いつもそうする決まりになっているそうだ。僕とルリは出発の準備をすることにする。
ルリは控え室に鞄を置いてあったから、それを取りに行く必要があった。僕は何も持っていない。よくもこんな軽装備で出かけるつもりになったものだと思う。ただ、この人工島も、学校から大した距離はない。
火花が僕達に保存食と飲み物をくれた。これは、さすがに彼女が作ったものではなく、市販されているものだった。
今日も人工島は開かれる予定らしい。だから、火花は業務を行なわなければならないみたいだった。しかし、観光客はほとんど来ないから、今の彼女の主な仕事は、いつ誰が来ても良いようにここを整えておくことにあるらしい。今朝行なっていた掃除も、それに含まれるのかもしれない。また、依頼された仕事を熟す必要もあるみたいだった。
水族館の外に出たタイミングで、ちょうどレストランから出てきたクードルに会った。
「死なないように」と、彼女は一言だけ僕達に言った。
火花とクードルに別れを告げて、僕とルリは水族館をあとにした。来たときに通った階段ではなく、水族館から出て右手に続く道を進む。そちらから反時計回りに進めば、人工島の出入口に戻ることができる。
錆びた金属製の柵の向こう側で、粘度の高い海水が大きくうねっていた。一定の周期で水が壁にぶつかる音が聞こえる。
頭の上には、緑色の直方体の構造物が通っていた。床も天井もすべて覆われているが、それは橋だ。人工島に入るためのもう一つの経路だった。
しばらく進むと、左手にアトラクションが姿を現した。この辺りは、道は微妙に違うが、最初にここに来たときにクードルに案内されて通った所だったから、なんとなく見覚えがあった。
僕達は人工島の出入口までやって来る。
巨大な門は、今は開かれていた。それを抜けて、僕とルリは人工島の外に出る。左側に、昨日歩いてきた海岸沿いの公園が見えた。
火花が言っていた工業地帯に向かうには、本来ならモノレールに乗る方法がある。しかし、今は利用できない状態にあった。モノレールは随分前から走っていない。
「私、歩くのは得意だから」ルリが言った。「散歩のつもりで、ちゃっちゃと歩こう」
「ちゃっちゃと歩いたら散歩じゃないじゃないか」
「じゃあ、ちゃちゃっと歩く?」
「サンバのリズムで歩いたら、どうなるかな」
「さあ」ルリは首を捻る。「好きにしたら?」




