本気と書いてマジ
篝によるエルリィ、リーシャ両名へのスパルタ訓練は熾烈を極めていた。
「ギャァァアアアァアアア!!?」
「ちょ、貴方、それ、出来るなら最初からやりなさいよ!?」
なんとラーズグリーズの能力全開で二人を追い詰めていた。
「エーテル消費が激しいんだ。長期戦だったら下手に使えない」
放たれるは銃弾、砲弾、爆弾等々。全て非殺傷用になっているとはいえ、直撃すれば激痛が迸る。
そんな猛攻に晒されてはたまらないのも無理はない。むしろ避けれる方が奇跡である。
「戦争が始まるとなると、敵は基本的に戦姫による近接戦を仕掛けてくる。だが、だからといって、稀に生まれてくる『遠距離タイプ』の戦姫に遭遇しないわけじゃない」
「遠距離タイプ!?」
「弓、拳銃、もしくは応用で遠距離攻撃に繋げられる奴。そういった手合いは接近すれば対抗する手段をもたない奴が多い。だから、上手く躱して接近すればいい」
「で、でも、篝さん、こんな猛攻の中で、一体どうやって―――」
「お前らの強さを鑑みての訓練だ」
(とはいっても・・・)
篝は、エルリィとリーシャの二人の動きの違いを観察する。
リーシャは、なんとかこちらに接近しようと猛攻を躱しながら、軽快にステップを踏んでいる。爆風によって動きを阻害されながらも、なんとかバランスを保ちつつ、こっちに接近しようとしていた。
しかし、一方でエルリィの方は酷かった。
「わぁああああ!!?」
情けない。その一言に尽きる。
地面を四つん這いで這いながら、振りかかる遠距離攻撃の嵐に何も出来ずに転がり回るだけ。終穹の能力を使えばすぐにでも逃げられそうなものだが、それをしないという事は抜けないのか忘れているだけなのか。
とにかくエルリィは酷い。
「おい」
そんなエルリィに、篝はただ一言声をかけた。
「え?」
そして無造作に拳銃で実弾を撃った。
それをエルリィは剣の腹で弾いた。
「・・・・」
「・・・・・・・い」
少しの沈黙。リーシャも呆気に取られている中、エルリィは叫ぶ。
「いきなり何するんですか!?」
「次」
二発目。
「わぁ!?」
これも弾く。そのまま三発目、四発目と次々にエルリィを撃ち殺すつもりで放たれた弾丸を全て、エルリィは叩き落として見せる。
「このっ―――」
それに頭に来たのか、終穹を引き抜いたエルリィが『終穹・絶影』を以て篝に接近する。
「やはり命懸けにならないとまともに動けないのか」
「あれ?」
しかし、接近して終穹で斬りかかった筈のエルリィはひっくり返っていた。
そしてそのままずどん!と背中から地面に叩きつけられる。
「ひぎぅ!?」
戦乙女流決闘術『流』
相手の力を流す防御技。上手くやれば見ての通りにひっくり返して投げ飛ばす事も可能。
「訓練だと力が入らないか?」
「うう・・・言ってる意味が良く分かりません・・・」
先ほどのエルリィの一撃には殺気が乗っていた。
『彼女、色々と変だよね』
アネットが篝に話しかける。
(ああ、訓練や練習だとまるでダメ。だが、一度『殺意』が乗ると別人のように動きが変わる。まるで、そういう風に造られているように・・・)
嫌な想像をして振り払う。そんな事は今考えていても仕方がない。
(とりあえず、いくら実戦で強いといっても、使える手札は用意するにこしたことはない。とりあえず今は―――)
篝が首元辺りに手を掲げると、そこに結晶の刃がやってきたので掴んだ。
「チッ!?」
「遅い」
「ぐお!?」
強烈な肘鉄が背後にいたリーシャの鳩尾に見事に突き刺さる。
そのままリーシャは想像を絶する痛みにその場で蹲る。
『リーシャの方はすごいね。本当の暗殺者みたい』
(そういう家業だ)
リーシャの動きは一見無駄なように見えて、実際は相手の油断を誘うための演技に過ぎない。
そうでなくとも一撃一撃が相手の命を刈り取る為の威力を備えている。
服の下は相当鍛えられた肉体があるのだろう。
(その為、正面戦闘も不意打ちも得意という有能な遊撃要員・・・編成する部隊を考えさせられる)
天才肌のエルリィと実直なリーシャ。正反対な二人ではあるが、上手く連携出来れば、強力なコンビとなるだろう、と篝は予想する。
だから、
「たまには連携したらどうだ?」
「あんな奴と連携できるわけないでしょ・・・!」
苦しそうにえずきながら立ち上がったリーシャ。同時に、彼女の周囲に結晶が現れ、成長する。
「貴方一人倒せないのなら、私の復讐は成し遂げられない・・・!」
「勢いは良い。だが、その程度の事で―――」
その時、背後からエルリィが斬りかかってくる。その斬撃が、篝の背に直撃した―――。
「な!?」
「え!?」
リーシャとエルリィが同時に目を見開く。
リーシャはエルリィが篝を斬った事に驚いた。だがエルリィは全く別の事で驚いていた。
手応えが無かったのだ。
「俺じゃなかったら死んでたな」
篝はいつの間にか、エルリィの背後にいた。篝はそのまま、エルリィの肩に右手を置くと、そのまま地面に叩きつけた。
戦乙女流決闘術『影写シ』及び『ドミノ崩シ』
(ぜ、ゼロ距離から力任せに地面に叩きつけた・・・!?)
「ったく、気絶している余裕はないぞ」
「ぴぎゃあ!?」
篝がスタンガンでエルリィを叩き起こす。
「今度は二人一緒に俺に攻撃を仕掛けろ。俺もお前たちを全力で迎え撃つ。かなり本気でやるから―――命懸けで抵抗してみろ」
篝が拳を鳴らしながら二人にそう忠告する。
「い、命懸けってそんな―――」
エルリィがいまいち理解していない様子を見せた瞬間―――
槍の切っ先がエルリィの眼前にあった。
ガァン!!!という音と共に、槍は高く上へと跳ね上げられた
しかし、そのまま真上へと挙げられた槍は、今度はリーシャに向かって全力で振り下ろされた。
「づっ!?」
篝の姿は、既に変わっていた。
ラーズグリーズからウルフランスへ。既にその身を槍の騎士へと変えていた。
「目標は、そうだな・・・俺からクロスライズを引き出してみろ」
二人は思った。
((本気だ・・・))
その時、エレンの時とは比較にならない地獄が待っているのだと、二人は悟った。
その未来を想像して、体が強張る。
そのまま、篝が拳を握り締めて二人に襲い掛かろうとする。
その時、篝の頭上から一機のエイオスが降ってきた。
「え?」
「は?」
「おっと」
エイオスはそのまま篝の真上に着地。その巨大な足が、先ほどまで篝がいた場所に叩きつけられる。
「か、篝さぁーん!?」
「ちょ、これ、一体どうなって―――」
「俺の心配をするなんぞ百年早い」
「「げし!?」」
悲鳴を上げるエルリィと驚くリーシャだったが、いつの間にか背後に回っていた篝の当身を喰らい、二人はその場に倒れる。
「ったく・・・」
『申し訳ありません、篝団長・・・』
「気にするな。『新型』・・・のストライクに乗っているという事は、お前がヴァンか」
『あ、はい。ジークフリート所属のヴァンです』
そのエイオスのコックピットハッチが開く。そこから現れたのは、黒髪の少年だった。
その少年を、エルリィとリーシャは見上げる。
「お前らも挨拶しておけ。お前らと同じように早期入隊でうちに来ているエイオスパイロットだ」
「あ、えっと、エルリィ・シンシアです」
「・・・」
「でこっちのむすっとしてるのがリーシャ」
「勝手に紹介するな」
「ぐえ!?」
脇腹に肘を撃ち込まれ再び悶絶するエルリィ。そんなエルリィを見下ろして、『ヴァン』と呼ばれた少年は、ぶっきらぼうに、
「どうも」
とだけ返した。
と、そこへストライクゲニウスが飛んでくる。その肩にはジルも立っていた。
『みんな無事か!?』
「申し訳ありません、篝様。新型機のテスト運用のつもりだったのですが、思いのほか勢いがついてしまって、こちらまで飛んできてしまったのです。誰かお怪我をされた方はいませんか?」
「安心しろ。俺だけ踏み潰されかけただけだ」
『なら安心か』
「安心なの・・・?」
篝が、新型のエイオスへと向けられる。
個人専用機故に個人に合わせた設計をもって造られ、尚且つあらゆる機体群の『初号機』としての意味合いを持つ機体群。それが『ストライクシリーズ』と呼称されるエイオスの機体群。
全てのエイオスの始祖にして原点である『ストライクゲニウス』は、パイロットであるユーゴに合わせて改造されているために、『汎用性』と『段階性進化』の特性を持つのに対して、ヴァンの乗るストライク―――『ストライクプログレス』はゲニウスと似通った体躯を持つ機体だ。
(確か、エイオスの後継機的扱いで、同じく『汎用性』と『段階性進化』、そして『格闘戦特化』だったか?)
篝が報告書で読んだストライクプログレスの事を思い出している間に、ゲニウスの頭部がヴァンの方を向く。
『ヴァン、それ上手く動かせるか?』
「大丈夫です。さっきはペダルを強く踏み過ぎただけです。次はちゃんとやります」
『あんま無理すんなよ』
そうしてヴァンがコックピットに戻ろうとした所、篝が待ったをかけた。
「待て、丁度いいからお前もここで俺の相手をしろ」
「「「え?」」」
『あ、丁度いいかもな』
「はい、エルリィさんたちも、エイオスとの共同戦闘は初めてでしょう。ヴァン様も対戦姫戦の練習になって大変よろしいかと」
「いえ、あの、そんないきなり・・・!?」
「必要な事だ」
勝手に話が進んでいく。篝は既に拳を鳴らして準備を整えていた。
「構えろ。まとめて相手をしてやる」
そうして、エルリィ、リーシャ、ヴァンによる、対天城篝実戦演習が始まった。
乗り込んでいるヴァン、そして戸惑っているエルリィはともかく、リーシャはとことん不満そうだった。
「制限時間は五分。それまでどちらかが戦闘不能だと外野が判断したらそこで終了。ただし、新型の性能判断の為、最初の四分はこちらから攻撃しない・・・分かったか?」
「分かりました」
『了解・・・』
「・・・了解」
エルリィは剣を構え、新型に乗るヴァン、そして結晶の剣を篝へと向けるリーシャ。
それに対して、対峙するのは篝一人。
「戦姫である二人はともかく、ヴァンは対戦姫戦の基本は覚えているな」
『それは、まあもちろん・・・』
「よし、なら、他二人には、エイオスを伴った戦闘を教えてやる」
「あら、そう」
その時、リーシャの身体が揺らめいた。
「教えてもらおうじゃないっ!」
リーシャがエーテル放出を使って、一気に篝へと接近していく。
「あ、おいリーシャ!?」
『いきなりかよ!?』
弾丸のような速さで篝へと接近したリーシャ。それに対して、篝が取った行動はなんと同じくリーシャへと接近だった。
「っ!?」
リーシャの意表を突くタイミングで飛び出した篝は、そのまま肩からリーシャの胴体に体当たりをかました。
「え、な、ぁぁぁああぁああああ!!?」
そのまま、派手に地面を水切りのように跳ねて飛んでいくリーシャ。
「リーシャぁぁあああ!!?」
『勢いのままに吹っ飛んだぁぁああ!!?』
「悪いが今日の俺は本気だ。四分待つといったが、お前らに直接攻撃をしないだけで反撃しないとはいってない。様子見するならこっちから仕掛けるぞ」
篝がぎろりとエルリィを睨む。それだけでエルリィの身体がびくりと震え、剣を握る手に力が入る。
(やはり殺気をぶつければその分だけスイッチが入る。ったく、難儀な体してんな)
「お前ら」
『はい』
『何かな~?』
『はい!』
『うむ』
『いつでもいいよ』
「いつも通り行くぞ」
篝が拳を握り締める。対して、エルリィとヴァン―――ストライクプログレスが武器を構える。
吹っ飛んだリーシャもまた立ち上がる。
「さあ、かかってこい」




