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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
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『氷撃』

「・・・・終わった」

エネルヒィとの戦いを終えた臨時小隊一同は、突入してきた『竜殺しの刃』によって保護された。

重傷を負ったストーム、スレイ、エイミの三人は真っ先に野戦病院へと叩きこまれ、『救命団』による治療を受けている。

今回の騒動の被害を受けたカルスルエの住民も同様だった。

最初の暴動、怪樹ハイマートの行動等によって破壊された町の中で、『竜殺しの刃』は生き残った人々を助けるべく、慌ただしく行動していた。

戦姫の機動力、エイオスのパワー、兵士の適格な行動によって、救助はことの他早く進んでいる。

そんな様子を、エルリィは放心した状態で見ていた。

「何を呑気に眺めてるのよ」

「んぁ・・・ああ、ごめん」

その隣でどうようにぐったりしながら休んでいるリーシャにどやされても、エルリィのぽかんとした態度は崩れなかった。

「全く・・・こっちは貴方のクソリンカーのせいでエーテルのほとんどを持ってかれたのよ。どうしてくれんのよ」

「エーテルは生命力と同等、だったっけ?だからエーテルを失うとその分疲労感を感じるとかなんとか」

「そんな事確認してこないで疲れる」

「そっちが始めたんだろう」

「何よやる気?」

「やらない」

そんな会話を続ける彼女たちの目の前で、あまりにも怪しく右往左往している少女が一人。

「・・・・ねえ」

「・・・・」

「貴方よ!トモエ・ソーンズ!」

「へぁい!?」

呼ばれて飛び上がってズッテンコロン。トモエは大慌てで立ち上がる。

「な、ななななんだ!?」

「なんだじゃない!こっちは疲れてぐったりしているのに、なんで貴方はいつまでもそわそわしてんのよ!目障りったらありもしない」

「だ、だって、ストームが手術中で・・・」

「『竜殺しの刃』の人たちは優秀だ。きっと大丈夫だろう」

エルリィはそう微笑むが、トモエの不安は払拭された様子はない。

ちなみに、ブリーズは野戦病院に行っている。人手は多い方が良いという事だ。

「それで」

そこでリーシャの視線はさらに別の方向を向いた。

「貴方は何をぶつぶつ言っているのよ」

見ればそこには膝を抱えて何かの独り言をぶつぶつと呟くアリスの姿があった。

「えっと、アリス?」

エルリィが恐る恐る声をかける。しかしアリスは気付いていないのか未だにまだぶつぶつと何かを呟いていた。

耳を近付けて聞いてみた言葉がこちら。

「お母さんに怒られるお母さんに怒られるお母さんに怒られるお母さんに怒られる・・・・」

「おかあさんにおこられる?なんのことだ?」

「何よお母さんって」

「お母さんって・・・ディーナ・シグルディングの事か?」

トモエがその名前を呟いた途端、アリスが跳ねた。

「「「跳ねた!?」」」

そのまま壁にびたんと張り付いて何かを恐れるようにきょろきょろし出す。

「ど、どうしたんだ?」

「しっ!お母さんに見つかる!」

「どれだけ怖いのよ貴方の母親!?」

何故かとんでもない事になっているアリスに、困惑してしまう三人。

一体何があったのだろうか。

「一体どうしたんだ?」

「だって、学生の分際で学生の部隊を指揮して、その上、何度も部隊の人たちに怪我をさせてその上最後は啖呵切った人に助けてもらった。お母さんが知ったら絶対お仕置きされる!私は知ってるんだ!」

「お、落ち着け!お前はちゃんとやれていた!私は、いろいろ助けてもらったぞ!ほら、あのデカくてパワーな女!訳してデカパジョの時なんか的確な指示で助かったし!」

「そうだ!あのエネルヒィの時だってしっかり指揮官してたじゃないか!」

「後ろで守られてばっかりだったけどね」

「うぐぁ!?」

「なんてことを言うんだ!」

「何よ事実を言っただけじゃない!」

必死でアリスを元気付けるエルリィとトモエだったが、余計な一言を言ったリーシャにエルリィが噛みつき、結果エルリィとリーシャが言い争う事となった。

そんな風に騒いでいると、ステラたちサハラ小隊がやってくる。

「何やってんのよアンタたち」

「あ、セラさんたち」

「やっほー、お疲れぇ」

ステラは変わらず間の抜けた喋り方で気の抜けた態度を貫いている。

フェザはまるで空気に徹するように無口で何もしない。目立つのはメイド服ぐらいだ。

「大変だったのに元気だね」

「ステラさん!どうかお母さんには私の事は内密にぃ!」

「うーん、それは無理だねぇ」

指揮の時とは打って変わって、情けない姿は流石にドン引きしてしまうエルリィたち。

そんなアリスをセラに押し付け、ステラはエルリィたちの方を向く。

「今日は初任務お疲れさま、トモエちゃんも突然の事で大変だったね」

「え!?いえ、そんな事・・・」

何かを言いかけて、トモエは口を噤んだ。そして少し何かを考えた後、恐る恐る口を開いた。

「正直、『竜殺しの刃』と、それも団長と共に戦えたことは、とても光栄でした。けど、今回の一件で、自分の無力さを思い知った。守るだけで、何も出来なかった。ストームに、重い怪我を負わせてしまった・・・」

拳を握り締めるトモエの表情は、とても悔しそうであった。

そのトモエの雰囲気に、エルリィはなんと声をかけてやればいいか分からない。

しかし、そんな彼女に、ステラはそっと触れた。

「力があって、自分はなんでもできる。そう思っている時が一番危険だよ。でも、君は今回生き残った。生き残ったのなら、今回の事を教訓にして生きてほしい。うちの団長は、案外脆いからね」

「ステラ隊長・・・」

「こっからが頑張り時だよ。頑張れ」

そんな激励をかけて、ステラは一歩下がる。

「それじゃあ、これからロキシーちゃんの所に行かなきゃいけないから、この部隊の事は任せたよ、隊長」

「へ!?あ、はい!」

「なに固まってんのよ」

そんな風に慌ただしい彼女たちにステラは少し微笑み、振り返る。

「そういう事だから、後はよろしくね、団長さん」

「「「!?」」」

言われて、歩いて、現れる。天城篝がそこにいた。

「何がよろしくだ」

「か、篝さ―――」

「篝さんどうしてここに!?」

「どぅえ!?」

エルリィはアリスに吹っ飛ばされた。

「・・・・今回はすまなかった。そしてありがとう。今治療を受けている連中にも後で言うが、今回はお前らのお陰で首謀者を仕留める事が出来た。正規軍人ならそれなりの褒章が入るだろう」

「いえ、そんな。むしろこちらは我儘で迷惑をかけた方なので・・・」

「だが、お前たちが手柄を上げたのは事実だ。だから今回は良くやった。俺からいう事はこれぐらいだな」

「でも・・・重傷者を出してしまいました」

「だが生きている」

落ち込むアリスに、篝は尚も言葉を続ける。

「生きているのなら、この事実を糧にして進むことをやめるな。受け止めるのに時間をかけていると、周りに置いて行かれることになる。だから、生きて進むことが出来るのなら、進むことをやめるな。お前がそう望む限りな」

「・・・・はい!」

アリスは一度浮かない顔で俯いていたが、やがて切り替えたのか、しっかりとした表情で答えた。

その返事を聞いて、篝は頷いた。しかしすぐにどこか気まずそうな雰囲気で視線を逸らした。

「それでなんだが・・・」

「はい?何か・・・」

「―――アリス」


凍るような声だった。


「―――ッ!?」

リーシャは背筋が凍ったようにその体を強張らせた。

トモエは少し緊張した面持ちとなり、エルリィは首を傾げる。

その女性は、一つの集団の先頭を歩いていた。

『竜殺しの刃』とは一風変わった規律正しい制服と姿勢。

真白の軍服と腰に下げるサーベルに加え、その立ち居振る舞いもまた美しいまでに規則正しい。

アリスと似た髪質の長い銀の髪をなびかせ、アリスに似た形の瞳と、アリスより一層鋭く、氷のように冷たい眼差しが、場の雰囲気を凍らせる。


まるで、『氷の女王』。


(なんて、隙の無い・・・・!?)

リーシャは、その姿を見て、一目で勝負するのを諦めた。

圧倒的なまでの存在感と戦姫としての直感が、目の前の銀の女性を圧倒的な戦力差を感じ取ったのだ。

そして何より、その女性の持つエーテルの密度。

エーテルの総量は生まれによって変わると言うが、目の前の女性はまさに凄まじいまでのエーテル量をもっていた。

全身が総毛立つ。体が震える。戦いたくない。

(ここに来てからこんなのばっか・・・!)

そんな中で、エルリィも雰囲気を感じ取ったのか何も言わない。

銀の女性が、真っ直ぐこちらにやってくる。

そのまま、アリスの前に立つ。アリスは―――顔を真っ青にしていた。

「・・・・お」

「・・・・?」

「・・・・おかあ、さん・・・」

その言葉に、エルリィは少し間を置いて、

「お母さん!?」

思わず叫んでしまった。

一方のアリスは凍ったかのように微動だにしていなかった。

心なしか、ガタガタ震えているようにも見える。

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」

実際、震えていた。

「そんなに!?」

そんな風に体を震わせているアリスに、アリスの母親は―――

「アリス・・・!」

すぐに駆け寄って、アリスを抱き締めた。

「ふむ!?」

驚くアリスだが、体を包む暖かさに、思わず気が緩んでしまう。

傍から見れば、微笑ましい母娘の抱擁なのだが。

「・・・・あれ?」

「何?どうしたの?」

「なんか・・・強すぎないか?」

「何がよ?」

エルリィが違和感に気付き、それにリーシャが尋ねると、エルリィはアリスの母親を指差してそう言い返す。

「・・・・あの、お母さん?」

妙に、アリスの身体が仰け反っているように見えた。いや、それ以前に、アリスが母親の身体をぺちぺちと叩いていた。

「お母さん?つ、強い、ちょっと強すぎる。腕締めないで、苦しい、というか痛い!戦姫の身体で全力で抱き締めないでお願いお願い!」

「・・・・」

「お母さん!?聞いてる!?」

「・・・また、我儘を、言った、ようね?」

「ひぃ!?」

アリスの顔が篝の方を向く。

「か、かがりさん・・・!」

「あー・・・すまん、俺は何もできない。後で俺も叩きのめされるから・・・武運を祈る」

篝の目は、どこか遠い空を見ていた。

「そんなぁぁぁああ!!!」

アリスの悲鳴が響く中、エルリィはぽかんとした表情でその光景を眺めていた。

「・・・篝さん」

「なんだ?」

「えっと・・・改めて、誰ですかあの人」

エルリィは今起きている状況に戸惑いながらも篝に尋ねる。

「そうだな・・・あの人は、帝国軍陸軍のトップにして、帝国三大将が一人。『氷撃』の二つ名を持つ帝国最強の戦姫―――『ディーナ・シグルディング』大将。そして、俺の上司にあたる」

銀の女性―――『ディーナ・シグルディング』は、変わらない氷の表情で、娘を抱き締めあげていた。

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