突き進む
篝が樹木の攻撃に晒されている最中、臨時小隊は一か所に集まっていた。
だが、先ほどの『ディア・ヴァイツェン』によってスレイ、エイミ、ストームの三人が戦闘不能に陥っていた。
まともに動けるのは、エルリィ、リーシャ、エレン、トモエ、そしてブリーズの五人。
しかり、
「しくじったわね」
リーシャは左腕を負傷していた。
「大丈夫か?」
「侮らないで。片腕が使えなくなっただけよ」
「だが止血はしておけ」
ブリーズが包帯を取り出し、リーシャの傷を手当する。
「だけど、この猛攻・・・あの人は大丈夫なの?」
リーシャが視線を向けるのは、エネルヒィの猛攻に晒されている篝の方だ。
部屋全体の植物を封じられたエネルヒィは、自身の近くにある樹木のみを操って、篝だけを執拗に攻撃していた。
篝を先に仕留める事で、後ろに控えているエルリィたちを仕留めるつもりなのだ。
「大丈夫よ」
「大丈夫」
そんなリーシャの疑問に、エレンは得意げに、アリスは当たり前のように答えた。
「私たちが作戦を練る時間はきっちり取ってくれるから」
それを聞いて、リーシャは怪訝そうな表情を浮かべた。
その一方で、エルリィの思考は既にエネルヒィをどうやって仕留めるかという事に耽っていた。
(トモエさんのコードスキルは、鬼人化・・・あの木を砕けるほどの怪力を使える。だけど、引き千切るのにはかなりの力が必要そうに見えた・・・)
リーシャの結晶では樹木を斬り裂けず、さらには葉による反撃に押し負ける。しかも左腕を負傷し、行動に支障が出ている。
エレンは動ける者の中でも最も重症。しかし、最も実力があるのもまた事実。
防御力に秀でているであろうコードスキルでならば、ある程度はエネルヒィの攻撃を防げるだろうが、決定打にはなりえない。
ブリーズに至っては論外な上に、本分は衛生兵。怪我をした者たちの面倒を見なければならない。
そして、エルリィは唯一の決定打である『終穹』が通用しない。
今、こうして悩んでいる間にも、篝は自分たちを守るためにエネルヒィの猛攻に晒され続けている。
(一体どうすれば・・・)
「やっぱり決め手はエルリィの『終穹』しかない」
そこで、アリスがそう言いだした。
「え?」
「エルリィ、よく聞いて。たぶん、貴方の終穹が通らなかったのは、エーテル量の差だと思う」
アリスは、一同に説明する。
「戦姫の基本戦術は近接戦。その理由は、戦姫は常にエーテルの力場とも言うべき領域を展開しているから、遠距離攻撃は全て軽減、もしくは無効化されてしまう。だから戦姫に通用するのは物理攻撃の伴う近接戦闘が主流。ここまでは知っているな」
「ああ」
「だが、両者のエーテル量が極端に差があると、例え物理攻撃であっても届かない事がある。無意識化でエーテルそのものが鎧の役割を果たすと言ってもいい。だから、その鎧を突破するだけのエーテルを使わないといけなくなる」
「つまり、私たちの攻撃が通らないのは、奴のエーテル量が凄まじすぎて私たちのエーテルが近寄れない。そういう事ね」
リーシャが分かりやすくまとめた。しかし、そうであるならば、
「エレンさんでも貫通させるのが関の山。だが、エルリィの終穹なら」
「奴の防御を突破して本体を叩けるって訳ね」
「ちょ、ちょっと待て!」
だが、エルリィが慌てて口を挟んだ。
「さっき私の終穹は止められたんだぞ?」
「話を聞いていなかったの?貴方、それ使う時どうやって剣抜いてるのよ」
「いや、普通に力を入れて抜いてるだけだが・・・」
「ああ、そういえば貴方エーテル放出とかそう言った基本技能、使えないんだったわね」
ここに来てエルリィは自分が情けなくなった。
エーテルの操作なんてもの、エルリィは今まで一度だって習ったことがない。それは一重に、エルリィがエーテルを体外に放出出来ない体質であるが故に。
「それについては考えがある」
だが、アリスがそう言いだし、リーシャの方へ視線を向ける。
「リーシャのエーテルの操作技術で、エルリィが終穹にエーテルを込めるのを手伝ってほしい」
「なんで私が・・・」
「お願い」
アリスは、真っ直ぐリーシャを見つめた。
その誠意の籠った眼差しに、リーシャはそれ以上は何も言えず、お手上げというようにため息を吐いた。
「分かったわ。でも時間がかかるわよ」
「安心しなさい。それぐらいは出来るわ」
エレンが立ち上がる。
そして、先ほどからストームの傍から離れないトモエの下へと向かう。
「盾を拾いなさい」
しゃがんで、視線を合わせて、エレンはそう囁いた。
「・・・・」
「話は聞いていたわね。なら、貴方のやるべきことは良く分かっている筈よ」
トモエは反応しない。しかし、体は微かに震えていた。
「務めを果たしなさい。軍にその名を連ねる事を選んだのなら」
「・・・・・っ」
トモエの肩が、震えた。
しかし、やがて、握っていたストームの手を離すと、すぐ傍に置いてあった盾を拾った。
「・・・行ってこい」
ストームが、トモエを見送る。
「・・・行ってくる」
トモエは、振り返って、一同の方を見る。
「二人を守ればいいんだな?」
「その通り。頼む」
アリスは、トモエの覚悟に応じて頷く。
「それじゃあ、始めるとしましょう」
エレンもまた、突き刺さっていたもう一本の剣を回収し、エネルヒィの方を見る。
「俺はこいつらの怪我を見ている。こちらは気にするな」
「任せた」
立ち上がる。そして、篝の下へと駆ける。
(―――おかしい)
エネルヒィは、ここに来て篝の異常性を認識した。
(こちらの動きが読まれているのは分かる。それをもって先読みされているのは分かる。だが、だからと言って、一切の攻撃を通せないのはおかしい!?)
正面から叩き潰すのを阻止されるのはまだいい。地面に新しく張り巡らせた根を地上から寸分の狂いもなく切断されるのもまだ分かる。
だが、あらゆる絡め手をもってしても、篝を突破する事が出来なかった。
樹木の攻撃はメイスで粉砕され、蔓の一撃は拳銃の前に弾け飛び、葉の嵐は全て燃やし尽くされる。
この時代では忘れられた『焼夷弾』による攻撃が、効果的にエネルヒィの攻撃を牽制していた。
「何故、害虫である貴方が、これほどの力を―――」
「お前は『怪物』じゃない」
篝の身体は、幾度もの攻撃に晒され傷だらけだった。だが、致命傷は無く、見た目に反して動きは一切衰える様子を見せない。
「俺も『害虫』じゃない」
樹木の槍が篝に迫る。しかし篝はそれらをメイスの柄でいなした。
「そんなものは個人の感想だ」
「黙れ、喋る許可など―――」
続くように壁のように襲い掛かる樹木。しかし、それら全て、メイスの一撃で粉砕される。
「―――っ!?」
「どれだけ否定しても、されても、男も女も、ただの人間だ」
その言葉は、エネルヒィの癪に障った。
無言で、四方八方からエネルヒィの操る樹木の槍が伸びる。
しかし―――
「半分を頼む」
「任せなさい」
篝がエネルヒィへ背を向け、入れ替わるように一人、赤髪の戦姫がその背に入る。
そして、鉄塊と火炎が全ての樹木を薙ぎ払った。
「・・・もうよろしいので?」
「ええ」
赤髪の戦姫―――エレンが、炎を纏ってほくそ笑む。
そのエレンの隣に立ち、篝はエネルヒィを睨みつける。
「―――決戦の刻は来た」
砲撃が襲い掛かる。
降り注ぐ砲撃の雨が怪樹ハイマートに降り注ぐ。
とにもかくにも爆発して炸裂するものや質量で削り取る攻撃でハイマートを責め立てる。
その攻撃は効果的だ。何もさせやしない。
だが、黙ってやられているだけの怪樹ではなかった。
怪樹がその枝葉を揺らした。
『ん?』
そうして落ちてきたのは、木の実。
それらが落下したかと思えば、落下の途中で一部が破裂。そのままミサイルのように飛んで、周囲に向かって一気に拡散する。
『撃ち落とせ』
しかし、それらの木の実ミサイルとも言うべき代物は、待機していた戦姫とエイオスの火力の前に全て防がれる。
近接戦闘しか出来ない戦姫のコードスキルとエイオスの重火力の合わせ技。
正直な話、持ち込んだ過剰戦力がここに来て火を噴く。
この時代においては忘れ去られた『現代兵器』。この世界のおいては『旧』が付くが、男が兵士として活躍するこの地において、その火力はこの世界を一変させうるものだ。
『攻撃を途切れさせないでください。ひたすらに火力を浴びせ、何もさせないで』
削り殺す。傍から見ればそう見えるだろう。だが、本命はそこではない。
ハイマートが咆える。
同時に、地面が揺れる。
「来るよ」
ハイマートの木の枝が、更に伸びた。
伸びた木の枝が、一気に市街地へと襲い掛かる。
『篝に根の方固められたから上から攻撃してきやがった!』
「かなり力を入れているみたいね。動きが鈍い」
『けど、どうやらロキシーの予測はあっているみたいだな』
そこで、一同に通信が入る。
『お待たせしました。対象の解析結果を送信します』
ロキシーの下で、あの怪樹の分析を行っていた分析官からの通信だった。
「予想通り、自立稼働する為の核があったね」
「では早速そこを叩きましょう」
ジルが、身の丈以上の大鎌を構える。
その傍に、これまら黒と緑の装甲を持った犬のような機甲が傍に現れる。
「私たちが道を切り拓く」
「ユーゴ君は至近距離で切り札を叩きこんじゃって!」
『OK先輩がた、頼んだぜ!』
ゲニウスにステラ、ヒナも捕まり、ゲニウスがスラスターを全開にして飛び上がる。
飛び上がったゲニウスを感知したのか、ハイマートはすぐさま迎撃に出る。
木の実ミサイルではなく、木の枝そのものを射出してくる。それは矢のように飛来し、ゲニウスに向かって迫る。
それらを、ステラの風がいなす。
『出来る限りの攻撃は続行しますが、そちらへ飛んでいく攻撃は自力で回避してください』
『了解!出番だ先輩がたァ!』
ヒナとステラがゲニウスの手から飛び上がる。
「行くわよ」
「任せて」
ステラのコードスキルは『風』。風の流れを掴み、自在に操る能力。
一方のヒナの能力は―――紫色の炎。
「『デモンズフレア』」
ヒナの身体から紫色の炎が迸り、それらが無数の手の形を成して、迫ってくる枝矢を一瞬にして灰燼にしてみせる。
ヒナのコードスキル『魔炎』。異界の炎を以て、対象を焼き尽くす。
炎と風―――二つの属性を以て、機甲の巨人の道を切り拓く。
攻撃が当たらない事を悟り、ハイマートは攻撃の密度を引き上げる。しかし、絶え間なく降り注ぐ『竜殺しの刃』による集中砲火が、その気勢を削っていく。
よって、ハイマートはゲニウスの進撃をとめる事は出来ない。
『・・・・ん!?』
しかし、ゲニウスのセンサーがハイマートの異変を察知する。
唸り声をあげて自らの身体を震わせたハイマート。その直後、ハイマートの身体から、無数の枝が伸び、葉が風に乗って吹き荒れ、木の実のミサイルが一斉にゲニウスの方へと飛翔する。
『げっ』
「こちらを撃墜する事を選びましたか」
襲い掛かる、植物の暴威。しかし、攻める彼らの表情に焦りはない。
「木の実は私が」
「じゃあ葉っぱはこっちで吹っ飛ばすね」
「枝はお任せください」
ゲニウスがスラスターを噴射して回転する。そのゲニウスの手に、ジルと機甲の犬が乗ると、
『投げるぞ』
ゲニウスは回転の勢いのまま、ジルと機械犬を迫る枝の方へ一気に投げ飛ばす。
「『デモンズフレア・煉獄』」
「『風薙ぎ』!」
木の実ミサイルはヒナが、葉の刃はステラがそれぞれいなし、伸びてきた枝にジルが迫る。
「最初から本気で行きましょう、ティルノ」
「ワン!」
ジルが機械犬『ティルノ』の頭を撫で、高らかに叫ぶ。
「『影鉄狼』―――クロスライズ」
ジルの纏う白、緑、黒の衣装が、ジルの放つ輝きと共に変化する。
同時に、ティルノと呼ばれた機械犬もまた、その姿を変えていく。
緑が青に、鉄が氷に。全く関係性のないであろう属性へと変化していくそれは、ジル・リスタルテの持つリコレクトリンカー『影鉄狼』のクロスライズによる変化。
漆黒の身体でもって影に溶け込み敵を斬り裂く番犬が、人の形を成して氷の牢獄へと閉じ込める。
全ての枝が、その芯に至るまで凍り付かせられる。
クロスライズ『氷牢守人』
犬から人型へと変化したティルノと青と白の純白の衣装へと変化したジルが、纏めて砕き散らす。
その勢いはジルの歩みと共にあり、一歩踏み出す度に、足場となった枝が凍り付いていく。
零度下で活動できる生命は、存在しない。
故に、ジルに枝の攻撃は届かない。
そして、そんな彼女によって道を切り拓かれたエイオスは、一気にハイマートへと接近していく。
『全武装射程距離内に侵入、目標を確定。全砲撃ォ!!!』
ゲニウスの持つ武装は両腕の機関砲、肩部の電磁砲とエーテル砲、両脚部の三連装ミサイルポッド、背部の六連装ホーミングミサイル×2、そして、『切り札』が一つ。
その『切り札』以外の全てを、ハイマートへと叩きこむ。
機関砲が枝葉を削り、レールガンが抉り穿ち、エーテル砲が幹を削り、無数のミサイルが焼き尽くす。
そうして、ハイマートの身体が大きく削られていく。
ゲニウスは重武装による大火力をコンセプトに改造されたエイオス。
元々エイオスとは、ゼファー・ゼシスの先祖が古代兵器『ギガース』をリバースエンジニアリングして作った兵器だ。
それ故に、強力な武装エーテル兵器を行使可能な現状唯一の兵器である。
それが―――
『『アヴローラバスター』―――発射ァ!!!』
ストライクゲニウス胸部の装甲が開き、そこから既に武装エーテルの充填を終えた砲門が姿を現す。
放たれるは光の奔流。直線上に存在する全てを飲み込み、消し飛ばす、破壊の一撃。
それが、ゲニウス最強の兵器『アヴローラバスター』。
その直撃を受けたハイマートの身体が、大きく削れていく。そうして、ハイマートの頭部、その奥深くに、サッカーボールサイズの種子のようなものが見えた。
『今回は出力抑えめだ。だが、それだけで十分』
全力で使えばその威力故に、ゲニウスの機体の損傷、エーテル不足による行動不能、そしてパイロットへの負担が大きい。
それ故に、今回はハイマートの硬い体を吹き飛ばすだけにとどめた。
しかし、『竜殺しの刃』であれば、そこまで来れば十分。
抉れたハイマートの傷に、何者かが降り立つ。
全身を黒い重厚な装甲に身を包み、左手には等身サイズの大楯、右腕には装着された人間が扱うには重くごついスピア。
それを、身に纏うパワードスーツで振るう。
その切っ先が、種子に向けられ、パワードスーツを纏った男―――『グリス』がその銃爪を引いた。
『ペネトレイションバーストスピア』。
カートリッジから炸裂する推進剤が、スピアそのものを加速させ対象を貫き、二撃目を推進剤の火薬が対象内部で炸裂、体内から破壊する。
種子が、その兵器によって砕け散り、ハイマートはその活動を完全に停止させた。
「任務完了」
グリスが、ヘルメットのバイザーを押し上げて、そう報告する。
『ご苦労様です。すぐに戻って、生存者の捜索、及び救助活動を行ってください』
「向こうには、流石に行けねえからな」
そこへ、ゲニウスとそれに乗ったジル、ステラ、ヒナがやってくる。
『お疲れ様、グリスさん』
「おう、そっちもな!」
「これで後は、篝の所とあっちね」
ヒナの視線が、未だに燃え盛る炎のある方を見る。
「問題ねえだろ。この程度」
「・・・そうね。彼らなら」
固い信頼の下、彼らは次なる仕事へと向かう。




