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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
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竜殺しの悪魔


―――『竜殺しの悪魔』


その名は現在、国際的指名手配とされているほど強大な存在である。


四大国と呼ばれる四つの国の一つ『アルガンディーナ帝国』にて、反乱軍『竜殺しの刃』を立ち上げ、多くの人々を巻き込み、国を相手に戦争を仕掛け、そして見事に革命を成功させた人物。

しかし、その際に多くの血が流れ、多くの人々が戦火に巻き込まれた。

何より、手中に収めた王族である第七姫以外の十一人全ての姫を殺害し、現皇帝すらも殺害。

そうして、見事国をひっくり返して見せた、その人物は、今度は世界を相手に戦争を仕掛けた。



―――というのが、エルリィが聞かされてきた『真実』だ。


しかし、今目の前で、『真実』のうちの一つが否定された。


(竜殺しの悪魔は、男だった・・・?)

エルリィは、目の前に立つ『女』を、信じられないという表情で見つめていた。

「女・・・だったんですか?」

黒の長髪、凛々しい顔立ち、青い瞳、女性として至上の肉体。

そして、黒を基調とした青のドレス―――。

「まあ、そう思うのも無理はない。だが、俺は男でありながら『戦姫』になれる。どういう訳か、体格どころか骨格すら変化するほどの『変身』もしてしまっているがな」

篝は、細い指先を持つ手を覆う黒の手袋を、左手で整える仕草をする。

「そんな事が、あり得るんですか・・・?」

「あそこにいる女、見えるか?」

篝が、突然、肩越しにとある戦姫を見る。

つられて見てみれば、そこには一人の戦姫がいた。

いわゆる、猫耳と呼ばれる三角耳が、頭の上にぴょこぴょこと動いていた。

「あの耳、どうやら人間の耳が変化して出来た特殊なものらしい。ついでに尻尾もある。ヴァリアブルスキンへの肉体の変換は、その者が持つエーテルの性質に左右されるらしい。だから、男である筈の俺が女の姿で戦姫になれるのもおかしくない話なんだ」

「ほ、他にもいるんですか!?戦姫になれる男の人が・・・」

「まあ、いるにはいるが、有象無象の如くいたら、こんな時代になっていない」

そう言って、篝は振り返る。

「なんなんだ・・・なんなんだ、テメェは!」

そう叫んだのは、最初に篝たちを嬲り殺そうとした集団の先頭にした女。

「おい、どこに行くつもりだ」

しかし、篝は無視して、足を踏みしめた。


瞬間、彼女らの集団の背後の通路―――そこに、突然、隔壁が下りた。


「「「な!?」」」

その光景に、篝以外のその場にいる全員が目を見開く。

「そんな・・・あそこ、隔壁なんて・・・」

「今、創った」

エルリィの言葉に、篝が答えを告げる。

その時、篝の背中から、先ほどの銀の少女が、光と共に現れる。

「わっ」

「幽霊みたいに驚かないでください」

そして、少女が抑揚のない声で、感情のこもっていない眼差しでエルリィを見る。

「こんにちは、『ラーズグリーズ』と申します。親しみを込めて『ラーズ』と呼んでください」

「よ、よろしくお願いしま・・・す?」

「ラーズ」

篝が、銀の少女『ラーズグリーズ』に声をかける。

「エルリィを頼む」

「任せてください」

篝が一歩前に出る。

「逃がす気はねえぞ。お前には聞きたい事がある」

「何の話をしてんだてめぇ!」

そこで、先ほどの女が怒鳴りながら篝を指差す。

「なんなんだ・・・なんなんだテメェは!?なんで、男の姿でここに忍び込んだ!?一体、なんの理由があってアタシらを攻撃するんだ・・・お前は、本当になんなんだぁ!?」

「お前、まさか自分より早く動けたのは俺が男に化けてたからと思っていたのか?」

篝は止まらず、そして目の前にいる女に告げる。

「あれはお前がエーテルの使い方を理解出来てないバカだからだ」

と、心底バカにしたトーンの声、そして見下したような表情でもって、篝はそう言い放った。

そして、何かが切れるような音が聞こえた。

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ!」

と、叫んで地面を蹴って篝に襲い掛かった。


「遅い」


轟音。


「・・・・え」

血が飛び散った。

ただただ無造作な一撃だった。

思い切りが良く、手加減する理由もないようなそんな一撃。

振り下ろされたのは、巨大な円錐型の鉄塊のついた、槍のような槌。いわゆる『戦棍(メイス)』にかろうじて分類できる、巨大な武器。

それによって、女は物言わぬ肉塊にすらならないほど潰れた。

「出来れば、目を閉じた方がいいです」

ラーズが、唖然としているエルリィに話しかける。

「ここから先は、一方的な蹂躙となります」

「じゅう・・・りん・・・?」

篝が、槍戦棍(ランスメイス)を引き抜く。血のりがべったりとついた武器を肩に担いで、この閉じ込められた空間に押し込められた敵集団へと近づいていく。

「道を開けろ。死にたくなければ」

警告。それに、彼女たちの取った行動は―――

「仲間を殺されて、黙ってられるか!」

「殺されるのはお前のほうよ!」

一斉に、篝に襲い掛かる事だった。

「そうか」

篝が、槍戦棍を振りかぶる。

その瞬間、敵集団のうちの誰かが、篝に向かって火の玉を飛ばし、それを直撃させた。

「っ!?」

火に飲み込まれる篝の体。

それに、彼女たちはほくそ笑みながら、各々の武器を掲げながら、襲い掛かる。

しかし―――その火の中から飛び出してきた篝が振りぬいた槍戦棍によって、女たちの体が、まとめて通路の壁に叩きつけられる。

壁に叩きつけられただけでは、戦姫の体は傷つく事はない。

だが、それがエーテルで作られた壁であれば、話は別だった。

「な、なんで・・・」

叩きつけられた体は、壁の前に潰れていた。水風船が破裂するかのように飛び散った血が、その壁が、普通の壁ではない事を、その場にいる者たちは思い知らされる。

さらに、質量による攻撃によって、既に骨は砕け、内臓が潰れ、皮膚が破ける様は、まさに無惨の一言に尽きるだろう。

「っ・・・」

(壁を、()()()()・・・?)

いつの間にか、この通路の壁や床、天井が、別のものに変化していた。

外見的には、何も変わっていない。しかし、それは確かに、篝が作ったものだった。


何かを作り出す能力。


それが、篝のコードスキルなのか。

「うっ・・・」

しかし、答えを見つける前に、エルリィは口を押えた。

今、目の前で起こっているのは、命を弄ぶより遥かに単純で惨たらしい光景だった。

まるで、虫を踏み潰すかのような。いや、それよりも無機質な、まな板の上に押さえた鶏の首に刃を下ろすような、まるで作業のような蹂躙。

薙ぐ、振り下ろす、薙ぐ、振り下ろす。

振り回し、振り回し、目の前に立つ敵を無造作に潰していく。その度に、血も涙もない筈の者たちの血が飛び散る。

その惨状を前に、エルリィは膝をつく。

「大丈夫ですか?」

そんなエルリィに、ラーズが声をかけ、介抱するように肩に手を置く。

「ぉえ・・・だ、大丈夫、です・・・」

「とてもそうは見えませんが」

その時、

「死ね裏切者ぉ!」

エルリィたちに向かって、篝の蹂躙の嵐から逃れた者たちが、二人に向かって襲い掛かる。

「っ!?」

決して少なくない数だ。

しかし、篝は気にせず前に進み続けていた。

「ラーズ」

「分かっています」

そして、ラーズもまた、動じることなく対処を始める。


ダァンダァン!


そのような轟音が響き渡り、エルリィが顔を上げれば、そこには、ばたりと倒れる、二人の戦姫の姿があった。

「・・・え?」

それは、エルリィ以外の誰かの声だった。

「ここにいて」

ラーズが短くつぶやく。そして、低い姿勢で駆け出すと、立ち止まっていた戦姫たちに一瞬で接近すると、その手に持っているL字型の武器を向けると、再びダァン!という音と共に、向けられた戦姫が頭を跳ねさせていた。そして、その後、ばたりと倒れ、それっきり動かなくなる。

続けて、ラーズは複数の戦姫の合間を縫いながら、幾度となく音を鳴らしながら、次々と戦姫に攻撃していく。

(あの武器は、何・・・?)

「な、なんなのよぉ!」

そして、一人の戦姫が、ラーズに向かって衝撃波を放った。

しかし、ラーズはそれを飛んで躱し、空中でその武器を使った。

着地するころには、その戦姫すらも、地面に沈む。

(死んでる・・・)

どういう訳か、全員が額に穴をあけて絶命していた。

何かを射出する武器なのか、その威力は見ての通り。

エルリィは、ただその死に様を見る事しか出来なかった。

そうしている間に、篝は、自身が作った壁の元へとたどり着く。

そこに、『牛』はいた。

「いくら試しても開く事はないぞ」

そこに、この場から逃げようとしていたペネトがいた。

「チッ」

「お前に聞きたい事がある」

篝はペネトを壁際に追い詰める。

「まさか、あの『竜殺しの悪魔』が、私を訪ねに来るなんてね・・・」

「『災律武装(さいりつぶそう)』の在り処を吐け」

その言葉を聞いたペネトの目が開かれる。

「・・・知らないわね」

「お前が知っていると聞いた。だからここに来た」

エルリィは、武器を向ける。

「苦しみたくなければ、言え。災律武装『零点停滞』はどこにある?」

篝が、鋭い口調で、ペネトに尋ねた。

しかし、そこでペネトの表情が嫌らしい笑みに変わる。

篝は、ペネトの視線が自分の後ろに向いている事を悟り、振り返って見せる。

そこには、一人の戦姫に捕まったエルリィの姿があった。

「ごめん、なさい・・・」

エルリィは、泣きそうな声で謝る。

「へ、へへ・・・この子を痛めつけられたくなかったら、大人しくしておくことねぇ!」

捕まえた女は、よほど仲間が殺されているのが堪えたのか、血走った目を篝に向けていた。

「あんたも動くんじゃないわよ!」

ラーズも、武器を向けようとした所を釘を刺され、止まる。

「さあ、同志たち・・・この悪魔どもに、鉄槌を下すわよ!」

他の生き残った女たちも立ち上がって、篝とラーズににじり寄ろうとする。

しかし、篝とラーズは至って冷静で、

「エルリィ」

「っ!」

声をかけられ、びくりと震えるエルリィ。

「安心しろ。そいつがお前を傷つけることはない」

篝は、そんな言葉をかけた。

「はあ?この状況を見て分かんないの?私はいつでもこの能無しを殺せるのよ」

「お前こそ、もう少しものを考えてから動け。お前は、不意打ちでそいつを殺すべきだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

次の瞬間、エルリィの背後で、何かが迸った。

そして数秒の後、エルリィの背後にいた女が、ばかりと倒れた。

どういうことか、と後ろを振り返ってみれば、そこには見知らぬ女が立っていた。

篝のものより短い肩甲骨までの長い黒髪、炎のような紅蓮色の瞳、赤色のマフラーと黒を基調とした戦闘装束。

そして、右手に一本の刀。

その、紅蓮と黒の、篝とは別方向で綺麗な女は、篝の方を見て、快活そうな笑顔を浮かべて声をかけた。

「よお篝、これで良かったか?」

「ああ。いいタイミングで来てくれた」

ここにきての援軍。既に、味方が壊滅状態のこの状況で追い打ちをかけるような事態に、彼女たちの戦意はますます落ちていく。

「それで?そいつが例の『所長』サンか?」

「ああ、これから尋問する所だ」

「ぎっ・・・」

ぎりり、と歯ぎしりするペネト。

「さあ、答えてもらおうか。『零点停滞』の在り処を」

篝が、槍戦棍を向けた。

それを向けられ、ペネトの目に初めて怯えの色が見えた時、

「・・・ぎっ」

「・・・・?」

ペネトの様子が、一変した。

そして、胸を抑えて苦しみだす。

「こ、ごぉれは・・・!?」

「・・・」

篝は、一歩下がって、様子を見る。

苦しみだしたペネトは、胸を抑え、苦しむようなうめき声を上げ始めた。

「が、ああぁああ・・・お、おのれっ、よくも、わだじにっうめごんだな、レ―――」

何かを言いかけた所で、喉を抑え始めた。

「お・・・ご・・・ごぼぇ・・・!?」

そして、大量の血を吐いて、ペネトは倒れた。

篝は、そこでペネトに近付いて、その顔を見る。

「・・・死んでいる」

そして、視線を喉へと移動させた。

「・・・何かを仕込まれたか」

その様子を見ていた、周囲の人々は、

「しょ、所長が、死んだ?」

「う、うそ・・・」

「っ・・・くっ、ちくしょう!」

死んでいない、もしくは動けない者、それ以外の、まだ五体満足でいる女たちが、一斉に逃げ出し始めた。

そんな彼女たちが、ほとんど逃げていく中で、エルリィは唖然と、赤い目の女は呆れた様子で見送った。

「どうする?追撃するか?」

赤い目の女が尋ねる。

「いや、もういい」

篝は、その女の方を見ず、何か、ぐちゃり、ぐちゃりと言った音を立てて何かをしていた。

「あの、何を・・・」

エルリィが尋ねようとすると、ラーズがそれを止める。

「おそらく、見ない方がいいかと」

そういうラーズに首を傾げ、一方の篝は、立ち上がる。

その時、篝の足の間から見えたペネトの体に、エルリィは小さく悲鳴を上げた。

「ひっ」

喉が、抉られていた。

そのあまりにも酷い惨状に、エルリィは口元を抑える。

「それ、虫か?」

赤い目の女が尋ねる。

篝の手には、イモムシのようで、ミミズのような、いわゆる『ワーム』と呼ばれるような掌サイズの虫がいた。

「ああ、こいつが『所長』の喉と心臓を食い破ったらしい」

うねうねと蠢く血塗れのその虫を、篝は手のひらの中で握りつぶす。

「うえっ、よく平気で触れるなぁ・・・」

「心臓にも一匹いた」

そう言って、篝の手には虫かごがあり、同じような虫がうねうねと蠢き、幾度となく透明の壁にぶつかっていた。

「こいつを解析に回す。ラーズ、ゴライアスを出してくれ」

「分かりました」

ラーズがそう応じると、再び、機甲の怪物が姿を現す。

そして、虫かごをラーズが受け取ると、それをゴライアスの胸部分に格納する。

「解析を始めます」

「よし」

「ここで収集した情報はどうしますか?」

「ここから脱出した後で聞く。脱出経路は?」

「確保出来てるぜ」

会話を進めていく篝たちを他所に、エルリィは、周囲を見回した。

真っ赤な血の海に沈む、多くの死体。

エルリィにとって、彼女たちは、そうなって当然の者たちだった。

数多くの『玩具』を嬲り、いたぶり、虐めつくして殺してきた彼女たちに、相応しい末路だと、疑う余地はなかった。

だが、それでも死んでしまえば―――

(死んでしまえば、みんな同じ・・・)

エルリィは右手で左腕を掴んで、唇を引き結んだ。

(酷い・・・!)

「エルリィ」

篝が、エルリィに声をかけた。

「あ、篝、さん・・・」

「俺たちはこれからここを脱出する。お前はどうする?」

「どう・・・する・・・?」

「ここに残るか、俺たちと一緒に脱出するか。その後の事は、これから考える事になるが、俺の経験上、ここに残れば確実に殺されるだろう」

「あの、ここにいる男の人たちは、どうなるんですか・・・?」

「どうなっている?」

篝が赤い目の女に尋ねる。

「セドリックがもう解放している筈だぜ。あとはあいつら次第だが・・・」

「奴らの事は、グレンツェ将軍に任せよう。最も、辿り着けるかどうかは分からないが」

「手助け、しないんですか・・・?」

エルリィは、恐る恐る尋ねる。

「俺たちの目的は、あくまでこの女の持つ情報を入手する事だった」

そう言って、篝は地面に横たわるペネトの死体を見た。

「だが、情報を入手する前に死なれた以上、ここにもう用は無い。一旦脱出して、ラーズが手に入れた情報を確認して、次の目的地を決める。お前に関しても、脱出してからになるだろう。少なくとも、お前がここに残って無事で済むとは思えないが」

その言葉に、エルリィはそれ以上、何も言えなくなってしまう。

「・・・まあ、とりあえず外に出ようぜ」

赤い目の女が、エルリィの背中を叩く。

「俺は『雨依(あまより)剣太郎(けんたろう)』。篝の部下だ。まずは考えるより、行動を起こそう。な」

赤い目の女―――剣太郎の言葉に、篝は頷く。

「そうだな。行こう」

その篝の言葉に従い、剣太郎、ラーズは進み出す。

エルリィも、流されるままについていくが、一度、通路の惨状を振り返って、再び篝たちを追いかけ始めた。

ラーズグリーズ

年齢 不明

性別 女

誕生日 不明

身長147㎝

容姿のイメージ 『崩壊3rd』の『ブローニャ・ザイチク』

『好きな食べ物』ボルシチ 『嫌いな食べ物』特になし

『特技』ゲーム(特にアクションゲーム)

実はとあるネットゲームの上位ランカー

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