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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
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ディア・ヴァイツェン

 エネルヒィに対して、臨時小隊はすぐさま行動を開始する。

「ストーム、ブリーズ、撃て!」

 アリスの指示に従い、ストームとブリーズがアサルトライフルを放つ。

 それをエネルヒィは樹木を動物のように操作して防御。

(コードスキルは明らかに植物を自在に操る能力。そして本人は車椅子故に機動性に優れない。だったら)

「スレイ!」

「分かってる」

 スレイがフレイルを引きずりながら接近する。

「ふふ、どうするのですか?」

「こうすんのよ!」

 スレイがフレイルを振るい、その先にある分銅を勢いよく振り放つ。

 遠心力で威力を増大させた分銅は、その勢いのまま樹木へと叩きつけられる。

 しかし、固い金属音と共に、分銅は弾かれる。

「硬い・・・!?」

「その程度では私の木は揺らぎませんよ」

 その隙を縫うように、エルリィが飛び込む。

「見えていますよ」

 終穹の斬撃が、樹木に切り込むが、受け止められる。

(また!?)

「その剣、強力な力を有しているようですが、どうやら使い手が未熟なよう。脅威ではあれど、防ぐ事は出来るようです」

「くっ!?」

 蔓が伸びてくる。エルリィはすぐさま終穹の能力でその場から離脱し、難を逃れる。

「くそっ、防御が厚い!」

「この戦いにおいて、あっちはこっちを急いで倒す必要がない。だから防御寄りの戦法になるのは仕方がない。とにかく今は攻撃し続けてエーテルを削れ!」

(なんて言ってみたけど)

 トモエに守られながら、アリスは思考を回す。

(仮に相手が二百年以上も生きているのだとしたら、溜め込んだエーテルの総量はおそらくバカにならない。それを差し引いても、おそらくこちらが先にエーテルが切れる・・・!)

 その時、エネルヒィの周囲に、きらきらと煌めく何かが浮遊していた。

「おや?」

「『結晶流儀』―――」

 リーシャがばら撒いた結晶だ。

「『錦鯉』!」

 ばら撒かれた結晶が、一斉にエネルヒィに襲い掛かる。

「ならばこうしましょう」

 だが、それら全ては落ちてきた無数の青葉に包まれて無効化される。

「そんなことまで出来るの・・・」

「お返ししましょう」

 続けて、その青葉たちが突風に吹かれたかのように、リーシャに向かって吹き荒れる。

「っ!?」

 リーシャはすぐさま身を翻して逃走する。

 吹き荒れた青葉たちは、壁に激突しかけた所で壁の四方八方に霧散する。

「さて、次は―――」

 刃が迫る。エレンの剣がエネルヒィの眼前に突き付けられた。

 しかし、それは幹一本を通しての一撃。硬い幹に突き刺さった剣は、その幹の中でプレスされているかのように止まってしまう。

「惜しい」

「チッ」

 エレンが舌打ちする。しかし、その背後から飛び上がる影が一つ。

「ハァアア!!!」

 エイミが後ろ回し蹴りの要領で突き刺さったエレンの剣の柄頭を蹴りつける。

 ずぶっ、とさらに深く剣が突き刺さった。

 しかし、エネルヒィには届かない。

「そんな―――うげ!?」

 驚くエイミを蹴り飛ばし、エレンは剣を放棄して下がる。

 次の瞬間、剣が突き刺さっていた幹から枝葉が飛び出してきた。

 もしあのままであればどうなっていたかは想像に難くない。

「ふふ、惜しい惜しい」

 エネルヒィはまるで子供を相手に遊んでいるかのようだった。

 それほどまでに、彼女のコードスキルは卓越しており、そして堅牢にして堅固だった。

 正直、突破できる気がしない。

「くっ」

 アリスを守っていたトモエが、エネルヒィに近付こうとする。

「待てトモエ、お前の足じゃ捕まる」

「じゃあ他に何か良い案でもあるのか・・・!」

「・・・・」

 アリスはエレンに視線を向ける。

 その視線に気付いたエレンは、まだと言うように首を振った。

(エレンさんのコードスキルなら、なんとかなるかもしれないけれど、まだ、使い時じゃない・・・)

 その時、銃声が響く。

 ストームの射撃だ。

 部屋をぐるりと回りながら、機会を伺っていたのだろうが、やはり樹木に、というより枝によって全て叩き落とされる。

「なんで見切れんだよ・・・!?」

「女の子に戯れられるのは悪い気はしませんが、羽虫が群がるのは少々、鬱陶しいですね」

「っ!?ストーム!」

 アリスが叫ぶ。その前にストームは動いていた。

 床や壁、天井を突き破るように、今までのものとは比にならない本気具合でストームに樹木が襲い掛かる。

「う、おぉおあぁあぁああああああ!!?」

 凄まじい勢いで襲い掛かってくる樹木や枝葉からストームは全力で逃げる。

 その逃げ道を塞ぐように樹木が生えて来れば、それを避けるように逃げるが樹木は尚もストームの逃げ道を塞ぐように襲い掛かってくる。

「やべぇ」

「ストーム!!!」

「まずは一匹―――」

 トモエが悲鳴のようにストームの名を上げる。

 しかし、その樹木がストームを覆い隠す前に、赤い軌跡が割り込みその包囲網から飛び出す。

「いけない子ですね。害虫を助けるなど」

「名ばかりとは言え私は隊長だ!」

 エルリィが、ストームを脇に抱えながら、樹木の猛攻から逃げ続ける。

「エルリィ!このままあいつの所へ行けるか!?」

「分かった!」

 ストームの言葉に、エルリィは二つ返事で返す。もはや何をどう考えてる暇はない。

 むしろエルリィは反射で動くタイプの人間だ。だからそこから行動は早かった。

 終穹の能力でエネルヒィに接近していく。

「あら、そちらからいらしてくれるのですか?」

「お前にくれてやるのはこいつだよ!」

 ほぼ寸前まで近付いた所で、ストームが握り締めていた何かをエネルヒィに向かって放り投げた。

「っ!」

 それは、手榴弾。あの講堂を出立する前に確保した武器の一つである。

「爆ぜろ」

 離脱、後、炸裂。

 火薬と鉄片の二重攻撃が、エネルヒィに向かって炸裂する。

 だが、そうなる前に、樹木が盾となって爆発の威力からエネルヒィを完全に守る。

「これでもダメなのか・・・!」

「どうすれば・・・」

 なんとか距離を取って、その鉄壁さに舌を巻く。このままではジリ貧以外の何でもない。

「随分と粘りますね。さて、ではそちらもそろそろ・・・」

「っ!ブリーズ!」

 エネルヒィの言葉に、アリスはすぐさま悪寒を感じて振り返る。

 それまで、アリスの傍で援護を担う為にその場にいたブリーズの背後から枝が壁から迫ってきていた。

 その枝が、ブリーズに絡まる瞬間、

「させるかぁ!」

 トモエが割り込み、代わりに枝に巻き付かれる。

「トモエ!?」

「「「っ!?」」」

 太い枝が幹となり、トモエの身体に纏わりついていく。

「拙い・・・!」

「いや」

 助けに行こうとしたエルリィを、ストームが止める。

「トモエならあの程度、大丈夫だ」

 樹木がトモエに纏わりついていく。

「しばらく、大人しくしていなさい」

 この場にいる全員の攻撃どころか、エルリィの終穹すら止める樹木の幹が絡みつき、トモエはもはや戦闘不能となったとしか言いようが無かった。

 だが―――

「こンな、モの、でぇええええ!!!」

 だが、次の瞬間、堅固だった樹木が、ばりばりと音を立てて引き千切られた。

「「「!?」」」

 凄まじいパワーによって、樹木があっさりと砕け散る。これには今まで余優を貫いていたエネルヒィも目を見開く。

 そうして樹木を引き千切って脱出したトモエ。その振り返った顔の額からは角が一本伸びていた。何故か右寄りにではあるが。

「え、角!?」

「なるほど、名前からもしかしてとは思ったけど、皇国系列の血ね」


 トモエ・ソーンズ。

 コードスキル『鬼人化』。

 怪力無双の力を得る。ただし、暴走の危険性有り。


「トモエ、抑えろよ!」

「分かってイる」

 血走った目と荒い息で本領を発揮するトモエは、その強さの一端を見せつけた事でその存在感を増幅させていた。

「これは厄介」

 故に、エネルヒィの行動はシンプル。ただひたすらにトモエに攻撃を仕掛ける。

「ごっノぉぉやろウがぁぁああぁああああああ!!!」

 バキンドカンととにかくでたらめに力を振り回し、自分に纏わりついてく樹木を破壊していくトモエ。

 これではトモエが動けない。しかし、アリスはこれをチャンスを考える。

(トモエが暴れればその分だけ意識がそっちに割かれる!)

 そうなれば、彼女の鉄壁の防御にも隙が生まれるかもしれない。

「エルリィ、突撃しろ!他は全員エルリィの援護だ!」

 そう指示を飛ばす。

 その指示に従い、全員が動き出す。

「スレイ、お前も!」

「分かった―――」

 続けて、アリスの傍にいたスレイにも、そう声をかけ、それに応じてスレイも前に出ようとした時、唐突にスレイは、地面を見た。

「え」

 それに釣られて、アリスも地面を見た。


 そこに、その部屋の床全てを埋め尽くすほどの青い『草』が広がっていた。


(いつの間に―――)

 思考が持っていかれる。その間に、その『草』は、見るからに恐ろしい速度で成長を遂げる。

 成長し、伸び、やがて枝分かれしては伸び、腰の高さを超えた所で、その『草』の正体を理解する。

(え、なんで『麦』・・・?)

『麦』。自分で思考しておいて、なんと間抜けな事だろうか。

(―――麦!?)

 この事件の騒動の発端が『麦』であると知っておきながら、そのど忘れは致命的なミス。

 否、もはやミスとすら言えない、あまりのも周到に用意されていた『切り札』。

 顔を上げた。その時には、目の前にエレンがエイミを連れて走ってきていた。

 同時に、ストームがすごい勢いで投げ飛ばされており、スレイを巻き込んでアリスの後方へ飛んでいく。

『麦』の色が変わる。気付けば、その空間は一面の麦畑へと変貌していた。


「―――『ディア・ヴァイツェン』」


 空間を埋め尽くす、『麦』の嵐が吹き荒れた。




 全身が、軋む様に悲鳴を上げていた。

「う・・・ぐ・・・・」

 痛みが、意識を苛む。今にも暗闇に落ちてしまいそうなほどに、痛みが辛い。

 しかし、アリスは全身に力を込めて、痛みに耐えて起き上がる。

(どれくらい、気絶してた・・・?)

 起き上がったアリスは、ふと視界にぽたぽたと落ちる赤い血に気付いた。

 どうやら、頭を負傷したらしい。

(頭が痛い・・・どこか切ったか擦りむいたか・・・ああ、篝さんに褒めてもらった髪が汚れてしまう・・・)

 思わずどうでもいい事を考えてしまい、自分がいかに拙い状況かを確認する。

「ストーム・・・ストーム・・・!」

 トモエの声がした。

 見ればそこには傷だらけのトモエと、地面に仰向けに倒れるストームの姿だった。

 ストームは、脇腹をやられたのか、血がそこから溢れていた。どうやら防護装備すらも破砕する威力だったようだ。

「ストーム・・・!」

 涙を流して必死にストームに呼びかけるトモエ。そんなトモエに、ストームは震える手をその顔に添えた。

「落ち着け、大丈夫だ。大丈夫・・・この程度で、俺は死なない・・・」

「ストーム・・・!」

「はは、なんて顔してんだよ・・・」

 明らかな痩せ我慢にしか見えない笑顔で、ストームはトモエを宥める。

「そこを、どけ・・・」

 そんな二人の下に、二人と同様にズタボロのブリーズが近寄ってくる。

「止血する。邪魔だ」

 トモエをどかし、なんとか無事だった応急処置セットでストームの止血を始めるブリーズ。

 だが、状況は最悪だ。

「スレイ、エイミ、リーシャ、エルリィ・・・!」

 仲間の状況を確認したい。だが、その一面の麦畑を前に、迂闊な行動が出来ない。

「エレンさん・・・!」

 その名を呼んで気付く。自分たちの周囲にだけ、麦が存在ぜず、全て消えている事に。

「ぐ・・・ぅ・・・」

 エレンが、膝をつくのが見えた。

 その体は、麦の嵐に晒されたのか、切り傷だらけで、明らかに満身創痍だった。

「残念です」

 そんなエレンに、この麦畑を作ったであろうエネルヒィが、柔らかな声音で話しかける。

「もし貴方が万全な状態であったのなら、傷一つつける事は出来なかったでしょう。しかし、結果は見ての通り、もう諦めて、あの素晴らしかった帝国へと戻る様を見届けてはいただけないでしょうか」

 エネルヒィの言葉はどこまでいっても穏やかで、気が安らぐようだった。

 現にアリスも、その声に体の力が抜けていくような感覚を覚えていた。

 だが―――

「冗談じゃない」

 エレンが、剣を地面に突き刺して立ち上がろうとしていた。

「貴方がどれだけの虚言妄言を並べ立てようと、うちの旦那が私の髪を褒めてくれた殺し文句に比べたらドブに捨てた方がマシなくらい下らないものよ」

 立ち上がって、人を喰らってしまいそうなほどの眼差しをもって、エネルヒィを睨み返す。

「何より私の髪を斬ってくれた貴方なんかに従うくらいなら逆に叩き潰した方がマシよ!」

「残念です」

 エネルヒィが再び麦畑にエーテルを流し込む。

 だが、その背後から飛び掛かる影が一つあった。

「おぉぉおおお!!!」

 エルリィが終穹を以て斬りかかる。

 反射神経と広い視界。そして終穹の能力でもって襲い掛かってきた麦の嵐を捌き切ったのだ。

 そのまま赤い軌跡を伴って振り抜かれた一撃。しかし、やはり残っていた樹木に防がれる。

「クソっ!」

「それはもう見ました」

 後ろに飛ぼうとしたエルリィの逃げ道を塞ぐように、天井から樹木が生えてくる。

「しまっ―――」

「エルっ・・・ぐぅっ!?」

 助けに行こうと駆け出そうとしたエレンはダメージによって思わず膝をつく。

「その剣は、没収いたしましょう」

 樹木が、エルリィの身体に絡みつく。

(こいつ・・・!)

 分かってきていたが、この老婆は初めから女を殺すつもりがない。

 拘束して捉える事が目的のように感じる。

「貴方がたは優秀です。故に、きちんと教育し直せば、きっと正しい道へと導けることでしょう」

 終穹に、樹木が巻き付いていく。

(奪われる・・・・!)

「故に、まずはそこの害虫二匹を見せしめとしましょう」


 ―――どごぉーん・・・


 ふと、音が聞こえた気がした。

「ん?」

 その音に、エネルヒィは思わず手を止めた。

 立て続けに、どぉーん、どぉーん、と言う音が鳴り続け、部屋が僅かに震える。

「外が随分と騒がしい・・・」

 エネルヒィはそれを最初は、外で暴れている、自らが生み出した怪物が派手に暴れている音と断じた。

 だが、やがてそれが間違いだと判断する。

「近付いている・・・?」

 音が、その数を重ねるごとに大きくなってきているのだ。まるで、こちらに向かって近づいてきているかのように。

「・・・ふふ」

 その音に、エレンが笑い声を零す。

「案外、早かったわね」

 音は、もうすぐそこまで来ている。


 真上(・・)から。


 ドゴォォォオオォオオン!!!


 凄まじい音を立てて、壁の中で張り巡らされていた根ごと砕いて、一人の戦姫が突入してくる。

「っ!?」

 それを見て、エネルヒィは車椅子の車輪を回転させ、後ろへと一気に走り出そうとする。

 そのエネルヒィに向かって、その戦姫は拳を握り締めて、勢いよく振り下ろす。

「バレルアーツ・戦乙女流決闘術―――」

 その拳に、術式の光を灯らせて。


「――――『火鳶廻(ヒエンカイ)(ツイ)』ドイッチュラント」


 攻撃は当たらず、地面に叩きつけられる。

 しかし、その威力は絶大。地面が砕け散り、麦畑がまとめて吹っ飛ぶ。

「・・・貴方は、招いていませんが」

 初めて、エネルヒィがその笑顔をやめた。

「そうか、俺はお前に用がある」

 その戦姫は、樹木に拘束されていたエルリィを助け出し、エネルヒィを睨みつける。

「もう老木は土に帰る時間だ」


 天城篝、現着。

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