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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
4/5

篝の正体


―――『要塞』のとある廊下にて。


「全く、なんで男一人能無し一人相手に、ここまで手こずる必要があるのよ」

「仕方ないでしょ。あのバカが逃がしちゃったんだから。お陰で所長に大目玉。いい気味ね」

そんな会話をしながら、二人組の女たちが通り過ぎて行った所で、ダクトの網戸が外れ、そこから一人の男が顔を覗かせ、そのまま廊下に降りる。

「よし、いいぞ」

続いて、エルリィが降りようとする。

しかし、慣れていないのかバランスを崩してしまい、

「あっ!?」

そのまま頭から落下―――とはならず、間一髪で篝が受け止めてみせる。

「大丈夫か?」

「あ・・・はい・・・」

何故か、胸がどきどきと高鳴るエルリィ。

「ここは、地上から八階ぐらいの場所といった所か。山岳地帯に作られた天然物を改造してるとはいえ、流石に『要塞』と呼ばれるだけはあるな」

「ここは、本来であれば、ここの地下にある『あるもの』を調べる為の研究所だそうです。でも、実際は発掘現場みたいな所で、いろんな事に備える為に、頑丈に作ってあるそうです」

「だから外壁ばっか厚くしてんのか。今じゃ戦姫以上の戦力はねえし、まあ打倒と言えば打倒だが」

エルリィは気付く。

篝が、妙にこの状況に慣れている事に。

その証拠に、篝が歩くとき、その足音は一切鳴っていなかった。その上、周囲を気にするように顔を幾度となく左右に振って、視野を広く保っている。

(一体、どんな経験をしてきたんだろう・・・)

エルリィには、とてもではないが、想像出来なかった。

「顔は上げておけ」

いつの間にか俯いていたエルリィに、篝は立ち止まって振り返ってそう言った。

「え?」

「不安なら、他人の顔でも見ていろ。よくカボチャやらジャガイモやらをイメージしろって言うが、俺に言わせればそんなもの、ただの現実逃避に過ぎないな」

「現実逃避、ですか?」

「そうだろ?相手がどんな表情をしているか。それを見るだけでも価値がある。別のものをイメージするっていうのは、それは事実、そいつの顔を覚えないのと同じで、相手の表情から自分がどう見えているのか、推測することすら出来ない。だから、一先ず自分を落ち着かせたい時は、他人の顔をしっかりと見ることにしている。相手がどんな顔をしているのか。その顔から、相手は自分をどう思っているのかを考える。そうすると、自然と心が落ち着いてくる。まあ、俺だけかもしれないがな」

そこまで言って、篝は再び歩き出す。

その後を、エルリィは追いかけた。



そうして、しばらく歩いていると、唐突に篝が足を止めた。

「ん?どうかした・・・」

「やられた」

篝が険しい表情でそう呟いた。

「どうやら、俺の見立てが甘かったようだ」

「え・・・」

その時、通路の奥から、多くの足音が聞こえてきた。

「っ!?」

(そんな、監視カメラに映らないようにしていたのに!?)

「どうやら居場所がバレたらしい。逃げるぞ!」

その足音が逃げるように走り出す篝とエルリィ。

「居場所がバレただなんて、この基地には、そのような戦姫は・・・」

「お前につけられていた発信機は潰した。監視カメラは避けた。ダクトも使って人をやり過ごした。お前も俺もミスはない。考えられるとすれば何か別の方法でこちらを見つけたかだ。今は走る事だけに集中しろ!」

エルリィたちは、来た道を走り抜ける。

(どうして見つかったの!?篝さんが言ったように、発信機も潰してカメラと人目を避けた。なのに、どうしてこちらの位置を―――)

「いたぞ!」

「っ!?」

走り抜ける先に、すでに何人かの女たちが、戦姫形態で待ち構えていた。

「篝さん!」

「止まるな」

言われて気付く。

(この人なんで私の前を走っているの!?)

いくら自分が欠陥品とはいえ、身体能力は常人の三~四倍になる。

それなのに、篝はエルリィの前を走っており。

「バカね、カモにしてあげるわ!」

そのまま、集団に向かって、篝は突っ込む。

その一方で、集団の先頭の女が、持っている剣を掲げた。

(だめっ・・・!)

エルリィは、篝より前に出ようとした。

しかし、篝の手が眼前に突き出され、エルリィは思わず速度を緩め―――

「死ねっ!」

剣が振り下ろされ、それをあっさり手の甲で逸らして見せた。

「へ?」

その勢いのまま、女の手首を掴み、その右側へと移動したかと思えば、その首の後ろを掴んで回転。勢いをつけ、そのまま他の女に、掴んだ女を投げつけた。

「うぐっ!?」

「ちょっ!?」

そして、投げた女の顔面に掌底を喰らわせた。すると、その女の顔が真後ろに動き、後ろにいる女の顔面に、その後頭部が激突。

その女の鼻から血が噴き出す。

エーテルを伴わない攻撃では戦姫の体が傷つく事はない。だがエーテルをまとっている戦姫の体であれば話は別だ。

そして、それは武器も同じ。


ざくっ


という音が聞こえてきそうなほどに、ぐっさりと、女の剣が、二人の女の心臓を貫いた。

「・・・へ?」

その光景に、エルリィは思わず言葉を失った。

立て続けて、三人、四人、と赤い血をまき散らす。

それは鼻からの血であったり、もしくは斬られて出来た傷口からだったり、の二つに一つ。

しかし、それによって確かに、自分たちの状況は変わった。

「いやあぁぁああああ!?」

「なによこれ、なんで、こんな!?」

「いたい、いたいっいたい!」

瞬く間に混乱に陥る。まるで、この状況に慣れていない。

(血なんて、いつも見ているくせに・・・)

気付けば、出来上がっていた壁を突破していた。

(全部、この人がやった)

まるで、一瞬のことのようだった。

敵の体や武器を利用し、立ち位置を正確に把握し、そしてあまりにも慣れた動きで、絶望的と思われた状況を切り抜けた。

まるで台本通りとでも言うかのような流れ作業。

「エルリィ、怪我はないか?」

そして、確認するように振り返った篝を見て、エルリィは彼の得体の知れなさを思う。

「貴方は、一体・・・」

その問いに答える事なく、篝は前を向く。

「ッ!?」

その時、篝が息を飲むのを感じた。

一体どういう事なのか。その理由を、エルリィはすぐに分かった。

(隔壁が下りてる!?)

先ほど通り過ぎた壁。そこは、本当は通路があった場所なのだ。

その通路が、隔壁によって閉ざされていたのである。

(誘導されてる・・・!)

気付いた時にはもう遅く、二人は敵に指し示された道を走り抜けるしかなかった。

分かっていても、後ろから破滅が迫ってくるのなら、走るしかないからだ。

しかし、その時はやがて訪れる。

「あ・・・」

とうとう、隔壁に閉じられた通路に行きつく篝とエルリィ。

エルリィが唖然と、閉じられた隔壁を見上げている間に、背後からそれは数えるのも億劫なほどの戦姫たちがやってくる。

「鬼ごっこはここまでよ」

その集団の中から、見覚えのある醜悪な女が現れた。

「フルール所長・・・」

エルリィは、左腕を右手で掴んだ。

一方の篝は警戒するように構えを取る。そうしながら、自分の耳元へと右手を近付けていた。

『ダメだ篝』

しかし、それを途中で止めた。

そのエルリィに向かって、ペネトは拍手をした。

「ご苦労様エルリィ、良い遊びだったわ」

「あ、遊び・・・?」

ペネトの言葉に、エルリィは首を傾げた。

「とても楽しませてもらったわ。貴方は期待通りの働きをしてくれた。貴方のお陰で、そこの玩具は想像以上の刺激を与えてくれたわ。ありがとう、エルリィ」

体が冷たくなる。

「また、貴方は・・・」

「いつも通りよ。エルリィ、良くやったわ。貴方のお陰で、私たちはもっと楽しめそうよ」

「待って所長」

そこで、ペネトの傍にいた女が、彼女に物申した。

「あいつのせいで、死人が出たのよ。それなのに、どうしてあいつを褒めるような事を」

「殺したのは彼女ではないわ」

「同じことでしょう!あいつが余計な事をしなければ、彼女は・・・」

「だから、殺したのはあの男なのであって、彼女じゃないでしょう?」

ペネトは、その女に詰め寄った。詰め寄って、言い寄った。

「それは・・・」

「大丈夫、復讐はちゃんとしなさい。そうね、皮を剥いでみるのはどうかしら?そうして剥き出しになった神経を撫でてあげれば、それはそれは良い声で鳴くでしょうね」

嫌な空気だった。少なくとも、エルリィにとっては、吐き気を覚えるようなものだった。

「彼女にはたっぷりお礼をするといいわ」

「っ!?」

そして、ペネトの言葉で、ぞわりとした悪寒がその体に迸った。

「こんな状況にしてくれたお礼を、丁寧に、確実に、二度と忘れられないようにね」

「あ・・・・あ・・・・」

悪意が、愉悦が、恐怖が、エルリィを蝕む。

(こ、殺される・・・)

死ぬ事はないだろう。しかし、心は確実に死ぬ事がエルリィには分かった。

何故なら、いつも見てきたからだ。いつも傍で、彼女たちの残酷な行為を見てきたからだ。

その悪意が、今、自分に向けられている。

それが、堪らなく怖い。

怖くて、たまらない。

そうして、エルリィが俯いてしまった。

「顔を上げろ」

しかし、その時、芯の通った声が聞こえた。

顔を上げた時、そこには、一人の男の背が見えた。

「顔を上げて、あいつらの顔を見ろ」

そう言われて、エルリィは、向かいにいる集団を見る。

その顔は、悪意に満ちた笑顔に染まっている。そう思っていた。

だから、まともに顔を見れなかった。

「どんな顔をしている」

だけど、どうしてか、篝の言葉に従って、向かいにいる女たちの顔を見た。

それで、どうしてか誰もが怪訝そうな顔をしている事に気付いた。

おそらく、篝の行動に、疑問を抱いているのだろう。

(どうして、私の前にいるんだろう)

それにつられるように、エルリィもそう思ってしまっていた。

「見えたか?」

「・・・はい」

エルリィの返事を聞いて、今度は篝が振り返った。

「じゃあ、俺はどんな顔をしている?」

今度は、篝がそう問いかける。

その言葉に、エルリィは篝の顔を見上げた。

その顔に、恐怖の色は無かった。

真っ直ぐにエルリィを見つめ、驕りも謙虚もない、そんな顔だった。

「エルリィ。お前の目に映る世界は、あまりにも残酷に映っているんだろう。もう、世界を美しくないと思っているんだろう。それはその通りで、望んだ日常も、願った未来も、きっと訪れる事はない」

その時、エルリィの視界に、篝の背後から何かを投げようとする戦姫の姿があった。

その顔は、悪意に満ちた笑顔で満ちていた。

「あぶ―――」

声を上げようとした。

しかし、篝は、後ろを見ることなく、エルリィの体を引っ張って、投げられたものを躱して見せた。

「なっ!?」

誰もが驚く。完全な不意打ちの筈だった。

「このっ!」

だからこそ、追撃が来る。

戦姫の腕力で放たれた剛速球。まともに受ければ、体の一部が吹き飛ぶだろう。


それを、篝は掴みとって見せた。


振り返って、矢を掴むように、見事に威力をいなしながら。

「「「なっ!?」」」

今度こそ、彼女たちの動きが止まる。

誰もかれも、ペネトも、エルリィも。篝が行った異常に、誰もが思考を止める。

しかし、それでも篝は、エルリィを見て、言い放つ。

「それでも、諦めるな。何があっても、諦めるな」

思考が戻る。

敵が、その体の一部を発光させ始める。

(コードスキル!?)

戦姫が一人一つ持つ異能『コードスキル』。

その体の一部が、まるで機械の基盤のような光のラインを輝かせ、それぞれが現実に引き起こす超常現象を発現させる。

「死ね!」

誰かが、そう叫んだ。

しかし、その最中で、ペネトの額には汗が流れていた。

「彼は―――」

放たれた、殺戮の嵐。

炎、水、風、雷。もしくは念力、もしくは石―――もしくは、エーテルそのもの。

それら全てが、篝とエルリィに向かって殺到する。

(避けられない!)

逃げ道のない袋小路。袋の中に水を入れるかのような絶望的な状況。

しかし、エルリィは走馬灯を見ることはなかった。


背後の隔壁が砕ける。鋼鉄の壁が引き裂かれ、そこから巨大な何かが、篝たちの前に立ちはだかる。


それが、殺到した、暴威を全て防いだ。

立ち込める煙幕の中、姿を現したのは、鋼の怪物。

恐ろしい頭部、上半身のさらに上半分しかない胴体、アンバランスな巨大な腕。

まさしく、『機甲の怪物』とでも言うべき存在が、突如としてそこに現れた。

「これは、ある人から送られた言葉だ」

篝の傍に、見知らぬ少女が立っていた。

銀の縦ロールのツインテール、小柄な体躯、そして、人形のような綺麗な顔立ちをした少女。


「この、不完全で残酷な世界を、俺たちの思い通りに変えるんだ。この、美しい世界を変える為に」


その機甲の怪物を見たペネトは、その悪寒を的中させた事を嘆いた。

「あれは、あの、()は―――!」


奪われた宝石が、篝の元へと戻った。


「随分早かったな」

「警備とセキュリティがザル過ぎて、拍子抜けしてしまいました。お陰でそれを取り戻す余裕もあったので、タイミングよく出られました」

「合図は?」

「既に」

篝の右手と少女の左手が繋がる。

そして―――男は奇跡を引き起こす。


「エンゲージ―――『ラーズグリーズ』」


青白い光が淡く迸る。



『男が戦姫になることは出来ない』


それは、この世界における絶対の(ルール)だ。

誰もがそう信じ、誰にとっても当たり前であった。


だが、りんごが木から落下するほど絶対ではない。


「ああ、なんてこと・・・」

ペネトは、自身の失態を今更ながらに思い知る。

「そりゃそうよね。だって、()()()()姿()()()()()()()()()()()()ものね」

光が収まり、そこに立っているのは、たった一人の『女』。

「アルガンディーナ帝国で結成された反乱軍『竜殺しの刃』を従え、帝国での反乱を先導し、数多くの姫君を殺し、国をひっくり返してみせた『戦姫』・・・与えられた通り名は『竜殺しの悪魔』・・・!」


黒の長髪、美しく凛々しい顔立ち、丸みを帯びた、誰もが羨むような肉体、立ち振る舞い全てが気品に満ち溢れ、そして何より、絶対的な『規格外』を感じさせる雰囲気。

しかし、その女は、本来、存在することはあり得なかった。


「貴方は・・・」

エルリィは、自分の目を疑っていた。

それは当然だ。何故なら、先ほどまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「エルリィ」

全く違う声が、その『女』の口から紡がれる。

「改めて、名乗ろう」

振り返って、その美しい顔を、透き通るような青い瞳を向けて、名乗る。


「俺はアルガンディーナ帝国陸軍特別遊撃団『竜殺しの刃』団長、准将『天城(あまぎ)(かがり)』だ」


エルリィは、その時、本当の篝と出会った。

天城篝 

年齢 十八歳

性別 男

誕生日 七月七日

身長182㎝ 女性Ver174㎝

容姿のイメージ 男性Ver『未定』女性Ver『崩壊3rdのエデン』。

『好きな食べ物』甘いもの全般 『嫌いな食べ物』トマト

『特技』演技

実は髪フェチ


エルリィ・シンシア

年齢 十四歳

性別 女

誕生日 七月七日

身長 160㎝

容姿のイメージ『アークナイツのチェン』

『好きな食べ物』皇国のツナ缶 『嫌いな食べ物』虫

『特技』神経衰弱、スピード(トランプ)

実は私服は全て手作り

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