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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
31/56

訓練初日


―――『竜殺しの刃』の訓練は苛烈を極めた。


「――――うぎぎぎぎぎぎぎぎ!!?」

「あなた本当に体が硬いわね」

序盤の体操にて、エルリィは柔軟体操で悲鳴を上げていた。

「いだ、ちょっやめっ、いだだだっ、あぁぁああああ!!!」

「このぐらいで悲鳴をあげないで。こっちが恥ずかしくなるわ」

「なら少しぐらい手加減―――ぎゃあぁああああ!!!」

やっている事は至って単純、リーシャがエルリィの足を自らの足で開き、尚且つエルリィの手を引いているだけ。

ただ、エルリィの場合は今まで柔軟体操をしてこなかった影響か、非常に体が硬かった。

しかも追加で背後から誰かに背中を押される。

「筋肉が引き千切れなければ大丈夫よ。むしろ手加減する方が効率悪いわ」

「じゃあもう少し行きましょうか」

「これイジョぴぎぃぃぃいいいい!!?」

「豚みたいな声あげないでちょうだい」

序盤でこれだった。



「走れ走れェ!!!戦場では逃げ足の速さが生死を分ける事だってある!敵前逃亡?状況次第だァ!!!」

その後始まったのはなんと鬼ごっこ。

参加人数をきっちり半分に分けて、鬼はとにかく獲物をタッチすれば良く、反対に逃げる方はある地点まで逃げ切ればいいというルールの下、エルリィは鬼となったのだが、

「ふんぎゃ!?」

エルリィは誰にも追いつくどころか触る事すら出来なかった。

その上、小石に躓いて盛大に転ぶ始末。

「おーい大丈夫?」

「いだい・・・」

女性団員がエルリィに心配そうに声をかける。

「大丈夫そうね。じゃ」

「あ!?」

しかしエルリィが起き上がったのを見るや否やさっさと走っていく。

この鬼ごっこ。逃げる側は捕まったら罰としてグラウンドを全力で一周させられるのだが、捕まえる側は一人も捕まえられなかったら同じくグラウンド全力疾走の刑に処されるのだ。

だから誰もエルリィに構う事はない。

さらに言えば、逃げる側も捕まえる側もフィールドとなっている障害物だらけの場所をまるで意にも介さず走り抜けていくものだから一向に追いつけない。

「だ、誰か、一人でも」

「失礼」

「みぎゃ!?」

そこへ何者かがエルリィの頭を踏んづけ着地。そのまま飛んで行ってさっさと行ってしまう。

「り、リーシャ・・・!?」

「ルールは掌で触れたらアウトだったわね。逆に踏みつけられて情けないわよ」

「ぐっ、このっ、待て・・・って速!?」

すぐさま怒りのままに追いかけようとしたが、リーシャの姿は既に遠くへ消えて行っていた。

エルリィは、呆然とそこで座り込むしかなかった。


そして無事に罰ゲームを受けた。




拳を突き出す。

「ぎゃあ!?」

投げられた。


蹴りを出してみる。

「ふぎゅ!?」

掴まれて捻り倒された。


体当たりでぶつかろうとする。

「ぶべぇ!?」

足を引っかけられて地面を滑る。



格闘訓練、一勝も出来ず惨敗。

「・・・・・」

「・・・おい、完全に落ち込んじまってるぞ」

「膝抱えてらぁ・・・」

「まあ、初めてはこんなものでしょ?」

「いや理由はそれだけじゃねえと思うぞ」

「どういう事?」

「あれ」

「あー」

とある男性団員が指差す先、そこにいるのは、とある団員と対峙しているリーシャである。

「おおお!!」

その男の放つ鋭いストレートを身をかがんで躱し、そのまま懐を飛び込んで、自身の身体に相手の身体を乗せ、そのまま後ろへと投げ飛ばして見せるリーシャ。

「うぉおおお!?」

そのまま男は受け身を取りつつ背中から落下。すぐさま男は立ち上がろうとしたが、それよりも早くリーシャがその肩を片手抑え込み、もう片方の手で手刀を作り、その首元に突き付ける。

「まだやる?」

「・・・・参った」

そこでどよめきが広がった。

「すげえ、十人抜きだ」

「流れるような動きだったわね」

「今度は私よ!勝負なさい!」

リーシャの強さは疑いようもなかった。

「・・・・」

それを見ていたエルリィの負のオーラがその濃度を増した気がした。

「あらら・・・」

「エレンさんとの戦いが嘘のように弱かったよなあいつ」

「おいバカやめろって!たぶん剣持ってる方が戦いやすいんだよ。リンカーも分かりやすく剣だし」

そう話し合う団員たちの会話を聞きながら、エルリィが思っているのはこの一言。

(れ、レベルが全然違う・・・)

今までだって格闘訓練はやった事はあった。

だが、ここにいる団員たちの戦闘技術はエルリィの軍学校時代の教官よりも遥かに上だった。

今の今までまともな訓練を受けてこなかったエルリィでも流石に生身での訓練の一つもこなしている。

しかし、ここ『竜殺しの刃』の戦闘員は、その最下級に位置するであろう者であっても、かつてエルリィがいた場所にいる戦姫たちよりも強かった。

少なくとも生身で勝てるような相手なんて一人もいなかった。

(まともに訓練したとしても、歯が立ったかどうか・・・)

それに比べてリーシャはすごかった。

自分と同い年でありながら、既に『竜殺しの刃』の団員たちとも渡り合っている彼女は、既に頭角を現しているように見えた。

しかしである。

(あれほどの強さがあって、なんで『竜殺しの刃』に入りたいだなんて思ったんだ・・・?)

復讐するのであれば、別に軍に入る必要はない。むしろその立場は逆に足枷になる可能性だってある。

それなのに、何故彼女は『竜殺しの刃』に入ろうとしているのだろうか。

エルリィはそれが気になった。



「は?私が『竜殺しの刃』に入る理由?」

だから尋ねてみた。

時間は格闘訓練中の休憩時間。

人が近くにいない時を見計らって声をかけてみたのである。

「なんであんたなんかに言わなくちゃいけないの」

「だって、復讐なら『竜殺しの刃』に入らなくても出来るだろ?それなら、どうして『竜殺しの刃』に入りたいなんて思ったのかな、って思って」

「別に、その方が都合が良いと思っただけよ。私の復讐相手は、必ず『竜殺しの刃』のいる戦場に出てくるから」

「それってどういう・・・」

「これ以上話すつもりはないわ。それじゃ」

「あ・・・」

そう言って、リーシャはさっさと去って行ってしまう。

その場にぽつんと取り残されたエルリィは、しょんぼりとボトルの水を飲んだ。




そうして再開される格闘訓練。

エルリィはイオと当たっていた。

「はあ!」

拳を繰り出してイオを殴ろうとするが、イオは最小限の動きでエルリィの攻撃を回避する。

「このっ!」

「甘い」

その最中でエルリィが勢いのままイオとすれ違ってしまい、すぐに振り返って再び殴りかかろうとした所を額を指先で小突かれる。

「あう!?」

「自分の特徴を何一つ活かしきれていない」

そう言って、イオは拳を握り締めてエルリィに突き出して見せる。

「くう!?」

それをエルリィは間一髪、その自慢の瞬発力で叩き上げる。

が、たたき上げるのに使った手をいつの間にか掴まれてしまい、すかさずすぐさまもう片方の手で掴んでしまうが、そのまま両手で掴まれて引っ張られたかと思えば、踵から足払いを受けて、地面に倒される。

「ふぎゅ!?」

「驚異的な反応速度と瞬発力。今のお前はそれを一切活かしきれていないぞ」

「は、反応速度と瞬発力・・・」

そうは言われても、エルリィは今までそれを自覚していなかった。

その上、自主的にやっていた事と言えば、剣の素振り。

「こっちから攻撃してきた場合、お前は全部防げるが、お前が攻撃してくる場合だと隙だらけなんだ。だからボコボコにされた。攻撃に関してはド素人なんだよ」

「そ、そうですか・・・」

「まずは攻撃をきちんとできるようになれ。防御は及第点だ。最も、自分の才能ありきではあるんだけどな」

「はあ」

エルリィは立ち上がる。

そしてすぐに拳を握り締めて構える。

(攻撃をきちんとできるようにって言われても・・・)

ただ殴るだけなら誰でも出来る。しかしここの場合の『殴る』はそのレベルが全く違う。

一体どうすればいいだろうか。

(せめて見本がどこかにあれば・・・)

そう思い、視線を左右へと巡らせた。

「あ」

そうして適当な団員の一人に目を付けたエルリィは、その動きを数秒観察して、行動に移す。

(こうかな)

「・・・!?」

まず構えを取った。そこから一息でイオとの距離を詰め、ジャブで左拳を突き出し、続けて右拳を突き出す。

イオは最初のジャブを身を逸らす事で躱し、続けて放たれた右拳の一撃を左掌で逸らす。

問題はそこからだった。

エルリィはそこで一歩下がった。

「?・・・・」

そこから、一歩再び踏み出し、再び右拳。それをイオは体を逸らして躱す。

続けて、左足の蹴りが迫り、イオはそれをさらに後ろに飛んで逃れようとする。

が、その前にエルリィの左手がイオの胸倉をつかんだ。

(フェイント!?)

蹴り出されようとしていた左足はブラフ。

本命は、掴んだ状態で逃げられないようにした状態での右拳の一撃―――。

「セイッ!」

「おごっ!?」

だが、その前にイオの拳がエルリィの腹に突き刺さった。

「はあ!」

「ごぉ!?」

続けて顎を打ち据える飛び膝蹴り。

「セイヤ!!」

「ぐはーっ!?」

そして止めの踵落としがエルリィを地面に叩きつけた。

「・・・・は!?」

そのような三連撃を喰らったエルリィは、完全に気絶してしまった。

「・・・・何やってるのよ」

それを見ていたセラが、イオに向かってそう言った。

「す、すまない、エルリィ・・・!」

「きゅう・・・・」

謝罪しつつ、邪魔にならないようエルリィを訓練場の隅へと移動させるイオ。

しかし、

(さっきの動き・・・)

思わず危機感を感じて反撃してしまった。

先ほどまでド素人丸出しの動きしかしていなかったのに、いきなり手慣れたような動きをし出したのに驚いてしまった。

その直前に、何かを見ていたようだが、

(まさか、見て真似したのか?)

ただそれだけで、あれほどまでに変わるのだろうか。

(素人だからこそ、か・・・)

白目をむいて気絶しているエルリィに、イオはほんの少し微笑んだ。





「・・・やはりどこの国も平常運転に近いな」

報告書を読み、篝はそう呟く。

「はい。新生文明歴の千年間の歴史において、男を伴った革命は一度も成功した事はありませんから」

「アクトレスの情報統制で、どこの国の一般市民に帝国で革命が起こった事が分かっても、男も協力しているうえに、戦姫を殺せる道具を手に入れたという情報は入らないようにしているんだよな」

ロキシーの言葉に、篝はそう返した。

「あくまで、帝国内部のみで話を抑えようって躍起になっていますね」

そう、ラーズが呆れたように言い出す。

「何故、ここまで男が何かをすることを隠したがるのでしょうか・・・」

「男はあくまで『役立たず』でいてほしいってことだろ。ついでに千年間、国同士の戦争も起こる事も無かったから、そう言った意味でもなんとしてでも『戦争』を回避したいんだろうな」

「国内で起きている『内部工作』もどんどん激化していっているという情報が総司令部から伝わっています。幸い、『赤夜』が対処しつつ、『皇帝権限(エンペラーオーダー)』も行使して致命的なダメージには至っておりませんが・・・」

「敵の工作もそう長続きはしない。この一年の奮闘は無駄じゃなかった」

内乱の混乱が収まらない中、革命軍側であった『竜殺しの刃』を複数の勢力は、この国内部で巻き起こるであろうあらゆる問題にあらゆる手段で対処してきた。

時には、闇に葬られるべき事も行ってきた。

しかし、その甲斐もあって、帝国は凄まじい速度で平定され、戦争の準備にも着手出来た。

「既に、敵の工作は、こちらの暗部で対処可能なレベルにまで抑制されました。あとは、いつ銃爪(ひきがね)を引くか」

「撃鉄は起こされてるんだ。必ず始まる」

篝は、立ち上がって、窓に手を当てる。

「それまで、出来る限りの準備をしておいてくれ。練兵や兵器開発は他の団員達が行う」

「いつも通り、という事ですね。任せてください」

そうして、ロキシーは執務室から退室した。

それを見送って、篝は肩を落とした。

「はあ・・・」

「ここの最近、気を張り詰めすぎですよ」

「気が緩まねえんだよクソったれ〈ワルキューレスラング〉」

「これは重症です」

ばたりと頭から突っ伏す篝。

「いつ戦争が始まるかわかったもんじゃねえし、ここ一年心休まる日なんて無かったし、なんで毎度の如き間髪入れずに襲い掛かってくるんだよあのクソ女優どもがっ・・・」

『アクトレスの事を意味の方で言うなよ』

そこでアネットが口を挟んでくる。

『君が十三歳の頃から戦い続けているのは知ってる。僕たちは、あの余裕の無い少年だった君に救われているし、幾度もの苦悩に晒されて、ここに立っている事を知ってる。気が緩まなくても、せめて体だけは休めておいた方がきっと良いよ』

「それは分かっているんだがなぁ・・・」

篝はまるで年相応な仕草で頭を掻く。

『・・・もしかして』

そこで、ジャクリーン―――ジャックがその気弱な声で尋ねる。

『エルリィちゃんが原因だったりする?』

『何?そうなのか?』

そのジャックの言葉にサラが反応し、篝にそう聞いてくる。

「別にエルリィだけって訳でもねえよ。余裕がないのはいつもの事だ。失う事が怖いのも変わらない。・・・でも、そうだな」

上体を起こし、天井を見上げて、篝は吐露する。

「少し、かっこつけてるのかもしれないな」

『篝・・・』

サラの心配そうな声が届く。

『やっぱり、まだまだ男の子ね』

そんな中で、クロエの納得したような声が届く。

「そうだな」

その言葉に、篝は頷いて、執務机の上にあるいくつかの写真立てを見る。

そこに映るのは、いつかの青春の一頁(ブルー・ワン)

「子供心は忘れたくないな」

そこで、扉がノックされる。

「団長、お時間よろしいでしょうか」

「入れ」

篝の表情が戻る。

そこに、もう子供心を抱えた少年はいなかった。

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