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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
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エルリィVSエレン


エレン・スタジア、という女について尋ねた時、『竜殺しの刃』にいる者たちのほとんどはこう言う。


『戦闘センスの塊』、と。



踊るように回り、回りながら斬りかかる。

その嵐のような猛攻を、エルリィは間一髪で防ぎ続ける。

「くっぁっ・・・ぐぅ・・・!?」

驚異的な反応速度と瞬発力でもって辛うじて回避には成功しているが、それでもエレンの攻撃は苛烈であった。

「ぐあ!?」

その最中で飛び込んできた蹴りは、まさに青天の霹靂が如き鋭さでエルリィの腹に直撃する。

(み、みえなかった・・・!?)

否、連撃でエルリィの迎撃を誘い、その最中で出来た隙に初見の攻撃を差し込んだのである。

それで吹っ飛ばされるも地面を転がらなかったのは褒めるべきだろうか。

しかしそれでもエレンの攻撃は止まらない。

「エレン相手によく持つな」

ユーゴがそう呟く。

「手加減はしているからな。本気なら最初の一撃で終わらせている」

と、篝がそう答える。

「その辺り絶妙だよね~。その辺り全部野生の勘で片付いちゃうんだから」

と、ステラがヒナを抱き枕にそう呟く。

「・・・ステラ、私を抱き枕にしないで」

「いいじゃん別に」

「そんな事は置いておいて、一体いつになったらあの剣抜くの」

その一方で観測装置片手に戦いを眺めているタンクトップの女性がそう言いだす。

初日にエルリィに興奮気味に詰め寄ってきた女である。

名前は『リリィ・マクスウェル』。

「俺の予想じゃそろそろだが・・・おいそれと抜くものじゃないぞあれは」

「ふん、報告書だけで満足する私じゃないよ」

「一体いつ報告書の話をした」

リリィの言い分に篝はそうツッコミを入れる。

すると直後に、大きな金属音が鳴り響くとともに、二人の戦いの状況が動く。

見れば、エレンに弾き飛ばされたエルリィが、片膝をついていた。

「この程度?とても篝に見初められた女とは思えないわね」

エレンが嘲笑を浮かべながら、膝をつくエルリィにそう言い放つ。

その言葉に、エルリィは歯噛みする。

(強い・・・!)

自らの腕に自信は無い。勝てるとは最初から思っていない。

けれど、諦める事は出来ない。

(私は、あの人の役に立つんだ・・・!)

その決意のままに、エルリィは左手に持っていた剣を右手に持ち替え、後ろ腰の左に伸びる赤鞘の剣の柄を握った。

そして、そのまま引き抜く。


―――事は出来なかった。


「・・・え!?」

「ん?」

がち、がち、と留め具が擦れる音だけが響くだけで、終穹はエルリィの意思の反して鞘からその刀身を晒す事は無かった。

「なんで、どうして・・・!?」

突然の事に、エルリィの頭を真っ白になる。

「あれ?抜かない?」

「というより、抜けないようですね」

リリィが首を傾げ、ロキシーは険しい顔でエルリィを見る。

「・・・・」

篝は、仏頂面のまま、戦いの行く末を見守る。

(どうしよう・・・!)

一方、エルリィは酷い焦燥に駆られていた。

(見ているのに、篝さんが、見ているのに・・・!なんで抜けないんだ!?)

思考が纏まらない。

どれだけ引き抜こうとしても、終穹はうんともすんとも言ってくれない。

初めて抜いた時の感覚が思い出せない。

(どうすれば・・・)

視線が下を向く。混乱し、頭がぐるぐるするような感覚に陥る。

それだけに留まらず、エルリィは思い出してはいけない事を思い出す。

(あ、そうだ。篝さん以外にも、見られてる・・・)

それを意識した途端、先ほどまでの熱が一気に冷めていくのを感じた。

大勢の視線が、かつての出来事と重なる。

戦姫として欠陥品である自分の悉くを否定し、そして嘲笑う者たちの視線。

何もしてこないからと不意を打って抑え込んでくる、憎しみと侮蔑の視線。

針のむしろのように突き刺してくる視線の感覚が、今になって蘇り、体が震えだす。

(や・・・やだ・・・み、見るな・・・みないで、くれ・・・)

顔を上げられない。自分を見る者たちの顔を見る事が出来ない。

このままでは、あの頃に戻ってしまう。

何も出来ない、何もしない、孤独だった頃に戻ってしまう。

(変わってない・・・何も・・・変われてない・・・!)

悔しくて涙が出そうになる。

嗚咽が漏れそうな喉を、歯を食いしばって必死に抑え込むも、すぐにでも崩れて漏れ出してしまいそうになる。

立ち上がりたい。けれど、力が入らない。

(このままじゃ、私は・・・)

「ねえ」

その時、声が聞こえた。

「今から突っ込むわよ」

良く通る、芯のある声にエルリィは顔を上げた。

瞬間、エレンが真っ直ぐこちらに突っ込んでくるのが見えた。

「―――ッ!!?」

それにエルリィの身体は反射で動き、尋常じゃない瞬発力で振り下ろされた二刀の刃を受け止める。

「づ・・・か・・・・!?」

「余所見している暇は無いわよ?」

そのまま、金属同士が擦れ合う音と共に、上から刃を押し付けられる。

その力は斯くも重く、無理な態勢で受け止めたせいでとてもではないが長くはもたないだろう。

その最中で、エルリィとエレンの視線が、触れ合いそうな距離で交わる。

「私の顔を見なさい」

そして、エレンは静かにそう囁いた。

「え・・・・」

その言葉にエルリィは一瞬呆ける。

その反応にエレンは少し安堵したような表情を浮かべると、押し付けていた剣を引き、エルリィを立ち上がらせるように蹴り上げる。

「ぐぅ!?」

よろよろと立ち上がったエルリィは思わずエレンを見た。

そこに立つ、美しい赤髪を持つ女は、そのその獰猛ながらも端正な顔をエルリィへと向けていた。

そこに、嘲笑はあれど言葉以上の意味は無く、侮蔑の色も無かった。

ただそこに、エルリィと対峙する戦姫としてそこに立っている。

その事実に、エルリィは今更ながらに気付いた。

続いて、エルリィは自然と視線を横に向けた。

そこにいるのは、自分を見に来た『竜殺しの刃』の団員たち。

全員が、こちらを興味深そうに見ている。もしくは、こちらを心配しているような顔をしている者もいる。あるいは、ただこちらを見極める為に真っ直ぐに見ている者。もしくは、こちらを安心させるように微笑む者もいた。

その中で、篝はただ只管に、そこに立ってみているだけだった。

変わらない、いつも見ている、不機嫌そうでそうじゃない仏頂面で。


ここはもう、かつて自分がいた場所じゃない。


その事実を、エルリィは今更ながらに理解した。

変われていないと、思い込んでいただけだ。

少なくとも、立っていた場所は変わっている。

(そうだ。私はもう、あの時の何もできない私じゃない)

エルリィは、再びエレンに視線を戻し、もう一度左手で終穹の柄を握る。

(あの人の行きたい場所へ一緒に行く為に、あの人の力になる為に、私はここにいるんだ)

だから、と柄を握る手に、力を入れる。

「・・・其は憤怒の剣。何ものをも貫き押し通す、不朽の一振り」

かつて読み取った言葉を、エルリィは呟いた。

そして、ゆっくりと、その赤い刀身を引き抜く。


重い金属音と共に、『終穹』の刃が、日の下に晒される。


「抜いた!」

「なんて輝き・・・」

その光景に、その場にいる者たちが一斉にざわめく。

朝焼けの太陽のように赤く輝く刀身は、昼間であってもその輝きを損なう事なくその存在を主張する。

「刀身が抜けた途端にあふれるこのエーテル周波数・・・この数値、間違いなくカテゴリーVII!」

リリィが興奮した様子で観測装置をフル稼働させる。

そうしている間に、エルリィは引き抜いた終穹をエレンへと向ける。

「勝負だ」

そして短くそう言い、腰を低くして剣を引き絞った。

それを見たエレンは表情を崩して構える。


「『終穹・抜刀』!」


そして、そのままエルリィは、数メートルの距離があるにも関わらず、剣を突き出した。

瞬間、凄まじい突風と共に、赤い光が刀身の切っ先から放たれた。

放たれた光はそのまま飛翔し、エレンへと迫る。

それをエレンは、剣を交差させて受け止める。

「づっ!?」

そしてそのまま、横へと弾き飛ばされた。

「斬撃を飛ばした!?」

その光景に、ロキシーが驚く。

「まだ情報がいるけど、それで間違いない」

観測装置を眺めていたリリィが、ロキシーの呟きに応じる。

「斬撃状のエーテルを飛ばしているのか、それとも斬撃そのものを飛ばしているのか、どっちかなぁ、どっちだろぉ・・・?」

「解説は後にしろ」

暴走しかかっていたリリィを咎め、篝はエルリィを見る。

(元々、自分に自信のないやつだった。それが終穹を引き抜けなかった上に、この衆人環視という環境で過去のトラウマが蘇った。だが、自信はなくても芯のある人間でもある。それを見抜いたエレンが、エルリィに助言をした事で、立ち直らせる事が出来た)

篝は内心、安堵していた。

(世話をかけて悪いな。そして・・・)

一度、エレンへ視線を向け、再びエルリィに視線を戻した。

(お前も、その精神力・・・いや、立ち直りの速さはいっそ不屈と言える)

篝は少し、憐憫を含めた眼差しで、エルリィを見ていた。

(俺とエレンの関係で、動揺していたにも関わらず・・・)



エルリィが動く。


「『終穹・絶影』!」


終穹の能力は剣とその持ち主の持つ運動ベクトルの操作。

その能力で、剣ごと自らを加速。それによって、エーテル放出以上の速度でエルリィは動く事が出来る。

赤い軌跡と残像を以て、エレンへと一気に接近し、斬りかかる。

しかし、エレンの顔は、一層、楽しそうな笑みを浮かべていた。

「っ!?」

瞬間、エレンはエルリィの攻撃を弾いて防いでいた。

(躱された!?)

それに驚くも、すぐに切り替えてエルリィは、態勢を変えて、再び加速。返す軌跡で再びエレンに攻撃を仕掛けるも、これもまた、振り抜かれた刃で防がれ、流される。

「このっ!」

であるならば、とエルリィは再び突撃。しかし、今度は突進するのではなく、正面から連撃を繰り出す事でエレンに攻撃を仕掛ける。

右手に持ったリンカーの剣はともかく、ベクトル操作で加速した終穹であれば、押し切る事が出来る筈。

そう思い、正面から斬りかかってみる。だが、

「馬鹿正直ね」

突然、エレンの姿が目の前から消えた。

それにエルリィは視線を左右させる。

(どこに―――)

「ここよ」

声は頭上から聞こえてきた。

エレンは、空中で新体操よろしく体を上下入れ替えながらエルリィの頭上へ飛んでいた。

そのまま体をきりもみのように回転し、エルリィの背後を取る。

それに気付いたエルリィはすぐに振り返るも、あっという間に攻勢が入れ替わり、再びエレンが猛攻を仕掛ける形に。

「さあさあもう終わり!?」

「くっそ・・・!」

最初の頃より遥かに激しい連撃に、エルリィは目を見開く。

(まだ、加速する!?)

「この程度で本当に篝に届くと思っているのかしらぁ!?ええ!?」

「っ!」

エレンが猛攻を仕掛け、その嵐に晒される中でエルリィは見た。

その剣の振り方、角度、勢い、威力。

それを全て視線に納め、脳裏に焼き付ける。

猛攻によって既に全身に刃が掠めた事による切り傷が出来ているが、その痛みはまだ我慢できる。

だからこそ、手はまだ動く。

「―――ッァアア!!!」

エルリィの両腕が閃く。左右続けて振り抜かれた二つの刃を、それぞれの手に持った剣で、それぞれ弾いて見せた。

「まだだぁ!!!」

エレンの態勢が崩れる。その隙を見逃さず、エルリィは終穹を左から薙ぐ。

それを見たエレンの顔が、魔女らしい笑みを浮かべた。

渾身の横薙ぎは、わざと膝を追って、地面に倒れたエレンの真上を空振ってしまう。

(これを、避けるのか・・・!?)

避けたエレンはそのまま地面に手を着き、がら空きとなったエルリィの左脇腹に右足の蹴りを叩きこむ。

「ぐぅっ!?」

今度はエルリィの態勢が崩れる。しかし、その無理な態勢で、再び終穹の能力を発動。

力の入らない態勢から繰り出される、完全に不意打ちの攻撃が、エレンの右足に迫る。

この時、エルリィはこれが試験であるという事を忘れ、完全にエレンの右足を斬り飛ばす気であった。

しかし、終穹がエレンの右足を斬り飛ばす事は無かった。

何故なら、エレンが右手に持っていた剣を自身の足と終穹の間に差し込んだ事で、防いだのだ。

更に、エレンの剣が弾かれ、やや離れた所に飛ぶも、終穹の一撃による勢いを利用して回転したエレンの左手の剣がエルリィへ向かって振り抜かれる。

それを神懸かった反射神経で防いだが、勢いをほぼ殺さずに振り抜かれたのか、今度はエルリィが吹っ飛ぶ。

「ぐあぁ!?」

そのままエルリィが地面に倒れている間、エレンは自分の剣を回収する。

飛ぶ位置まで調整していたのか、エルリィが起き上がった頃には既に自分の剣を回収し、その両腕を顎のすぐ近くで交差させていた。

「ふ・・・ふふ・・・」

「っ!?」

警戒するエルリィを他所に、エレンは尚も笑っていた。

「想像以上ね・・・剣の扱いはド素人なのに、この短時間でここまで食らい付いてこれるなんて」

エルリィは右手の剣を鞘に納め、終穹を両手で握った。

「視野と記憶力が想像いいのねぇ」

血のように赤い瞳、血が固まって結晶化したかのように美しい赤髪、そして、人を食ったような美しい顔から作り出される笑みは、まさに『魔女』。

「どこまでいけるのかしら?どこまで強くなるのかしら?」

気付いた時には、エレンの足には黒い光のラインが迸っていた。

(コードスキル・・・!?)

終穹を握り締めた両手に力が入る。

「あは、あはは!もっと見せなさい。もっと貴方の可能性を示しなさい!私が見てあげる。篝に選ばれるに相応しいかどうか、私が試してあげるわ!」

その言葉に、エルリィは何故かイラっとした。

「・・・ふざけるな」

どうしてか、彼女がその名を告げる事に、どうしようもない不快感を覚える。

そしてそれが、どれだけ最低な事なのかを、考えてもしまう。

それでも、今のエルリィはこの戦いでかなりハイになっていた。

「ぶった斬るのは私だ!」

だから脈絡のない言葉が吐き出てしまう。

「いいわ、来なさい!」

エルリィが駆け出す。


『終穹・絶影』


『絶影』によって影を絶つほどの動きを以て、エレンへ突撃。対してエレンは迎撃の構え。

振り下ろされる刃と迎え撃つ刃。

二つの斬光が迸り、試験という名の決闘は、決着を迎えた。


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