隊長たちとの邂逅
――――『竜殺しの刃』
元々は帝国内部に存在する学園都市『プトレマイオス』にて発足した反乱組織であり、同時に第七皇女『モルジアナ・フォン・アルガンディーナ』の私兵集団でもあった。
その内部構造は、団長である天城篝を筆頭とする複数の『部隊』に分かれており、それぞれに個別の役割が与えられている。
少数精鋭から軍団等々、様々な部門に分かれていると言ってもいい。
そんな隊長格のほとんどがエルリィの前に立っていた。
「紹介する。エルリィ・シンシアだ」
「よ、よろしくお願いします」
エルリィは緊張でガチガチのままで頭を下げた。
(な、なんか威圧感がすごい・・・!?)
色々あって素人同然のエルリィですら分かる。
目の前にいる人間たちは今まであったどの者たちより別格だ。
自然体なのだろうが、それだけで溢れ出るオーラに当てられ、更に視線が集中しているものだからその緊張具合は一入だろう。
頭を上げるのは妙に怖かったが、それでは話は前に進まないのでなんとか顔を上げる。
「そんなに緊張しなくてもいいわ」
そんな中で、明らかに身長が低い少女と見紛う白髪の女『ヒナ・イルタジオ』が表情をぴくりとも動かさぬまま声をかけてくる。
「ここにいるみんな、貴方を歓迎している」
(そんな風にはみえないんですけど!?)
「お前の顔じゃあそうは見えないぞ」
(そしてツッコんだ!?)
恐れるエルリィを他所に、篝がそう指摘する。
「・・・・そう」
(あ、見るからに落ち込んでる)
すると雰囲気で分かるほど落ち込むヒナ。
「まあまあ、元気出して~」
そんなヒナに、隣に立つステラが元気づけるように声をかける。
「ヒナちゃん、こんな感じだけど本当はとっても優しいから、仲良くしてね~」
「あ、はい・・・」
(こっちは、なんか聞いてると気が緩む・・・)
なんともあべこべな二人に、エルリィは戸惑いを隠せない。
「もー先輩!新入りの前なんですからもう少ししゃきっとしてください!」
(そしてこの人も『先輩』・・・)
そんなステラに、何故かセラが突っかかった。
「無駄だセラ、先輩がそうそう態度を変える筈がないだろう」
「それはそうですけど・・・!」
そんなセラに篝が声をかけるが、その仲の良さに少し疑問を抱いたエルリィは篝に声をかけようとして、背後から凄まじい悪寒を感じ取った。
「っ!?誰・・・」
その背後にいたのは、全く知らない人物だった。
「やあ」
「・・・・」
明るい橙色のショートカット、グリス塗れの肌を多く露出するタンクトップ姿、そして何やら嫌な予感がするほどきらきらとした眼差し。
エルリィは感じ取った。
(捕まったら何かされる!?)
「君が例の新人だね。早速なんだけど君の体を調べさせてもらっていいかな。ついでに君の腰にあるリンカーも。エーテルが放出出来ない理由だとかそのリンカーの限界性能だろか色々と調べさせてほしんだよ。ねえいいでしょ?ねえねえ」
「何をしているこのバカが」
いきなり目の前で詰め寄ってきていた女が横に蹴っ飛ばされた。
蹴っ飛ばしたのは白衣の男ゼファー。
「いったた・・・何をするのゼファーくん」
「貴様こそ何をしている。大人数で押しかけては緊張するからと隊長格のみで出迎えるとロキシーが通達しただろうが」
「そんなものに縛られる私じゃないよ」
「だから貴様の私室に籠っていろこの武器狂いが」
「エイオスオタクに言われたくないよ」
(一体なんなんだ!?)
奇想天外も良いところである。
そんな状況に唖然としている間に今度はあの軽薄そうな男がエルリィの肩に手を回す。
「まあまあ落ち着け。色々と癖は強いが、みんな良いやつだからな」
「そ、そうですか・・・」
エルリィは引きつった笑みしか浮かべられなかった。
「と言う訳でお近づきの印に・・・」
そうして男―――『グリス』が取り出したのは、誰かのブロマイド。
「マイスウィートハニー『ユノ』ちゅわんのブロマイドを受け取ってくれ」
なんとアイドルのブロマイド写真だった。
(この人も可笑しい人だった!?)
そんなグリスの背後からもう一人の小柄な女による飛び蹴りが炸裂。グリスは吹っ飛ぶ。
「こんな時にまで布教活動してんじゃねえよ」
夕焼け色の短髪を持ったガラの悪そうなスカジャンの女リンであった。
そんなリンの視線がエルリィに向く。
「っ!?」
その眼光と威圧感に、エルリィの体は蛇に睨まれたカエルのように動かなくなる。
「・・・んだよ」
「・・・いえ、なにも」
それしか言えなかった。
(篝さん助けて!)
エルリィは内心、そう叫んだ。
「みなさん、そこまでです」
そこで、一際凜とした声がその場に響いた。
ライオットシールドを地面に突き立てたミリア・サザビーである。
「新たな仲間に興味を持つことは良い事ではありますが、まずは真っ先に解決しなければならない事があります」
その視線は鋭く、その矛先には、篝がいた。
「篝団長、まずは先日の独断による国境越えについて、どうか説明をしてもらえますか?」
今までの空気が一変する。
「相も変わらずだな。お前のその愚直さは」
「誤魔化さないでください。貴方はもう『竜殺しの刃』団長という立場だけでなく、帝国陸軍の准将の地位も与えられています。その立場における責任については、重々承知の筈。何故、その立場を軽んじるような行為を行ったのか、説明してください」
そう、ミリアは鋭い視線で篝を睨みつける。
それに篝は罰が悪そうに頭を掻きつつ、
「それについては弁明のしようもない。災律武装の情報が手に入ったから、いてもたってもいられなくなった。灰鉄小隊を勝手に動員したのも俺の独断・・・この行為への責任は必ず取る」
「どうやって取るのですか?一歩間違えれば、準備が終わる前に戦争へと発展する可能性があったのに、一体、どうやって責任を負うつもりと?」
「仕事で返す」
篝の答えは簡潔であった。
「人より十倍の書類仕事をやる。人より百倍の戦果をあげる。人より千倍、この国の為に働く。その姿でもって判断してもらいたい」
二人の視線が交錯する。
その緊迫した空気に、誰も声を発する事が出来なかった。
張り詰めた無言の時間はしばらく続いたが、やがて根負けしたようにミリアがため息を吐いた。
「分かりました。それで手を打ちましょう」
「すまないな。本来はロキシーの役割なのに」
「そこで私を指名しないでください否定はできませんが」
「ったく、茶番もいい加減にしろよ」
ふっとほどけた緊張の糸を感じて、エルリィはほっと胸を撫でおろした。
(ここ数日、ずっと気を張り詰めてしまっているな・・・)
「とりあえず、篝さんについてはこれで終わりとしましょう」
しかし、再びミリアの重々しい声が響いたかと思えば、その視線をエルリィへと向けた。
「えっ」
しかし、その視線はすぐにエルリィの背後へと向けたものだと気付いた。
「・・・逃げられましたか」
ミリアの言葉に、一体何のことかと振り向いてみれば、そこには灰鉄小隊の面々がごっそりと消えていた。
(いなくなってる!?ルクスさんまで!?)
「はいはい、そこまでです」
そこでロキシーが手を叩いて一旦注目を集める。
「皆さん、まだ言いたい事はあるかと思いますが、まずはエルリィ・シンシアの審査からです」
それを聞いてエルリィは体を強張らせた。
「審査?何をするんだよ?」
「強いて言うならば体力テストです。戦闘技術はともかく、まずは彼女の身体能力から測りたいと思います」
「そうか・・・」
それを聞いた篝は、エルリィに近付いて、
「がんばれ」
肩に手を置いて、何やら意味深な仏頂面でそう言ってきた。
「・・・・え?」
(何をされるの!?)
「今日はここで寝てね。アンタの部屋は後で作ってあげるから、しばらくはここで我慢してね」
とっぷりと日が暮れた頃、エルリィはセラに案内されて用意された宿舎の一室に案内された。
「ここは本来、客用で掃除は行き届いてる筈だから、安心してね」
「・・・・」
エルリィは、説明してくれるセラを他所に、ベッドに触れる。
「・・・ふかふか」
「そう?スプリングだけど、そんなにいい?」
「ベッドで眠るのなんでいつぶりだったかなぁ・・・」
「・・・あんた、一体どんな生活してたのよ」
エルリィの発言にセラは若干頬をひくひくさせていた。
「あ、ごめんなさい、夢中になって・・・」
「大丈夫よ。長旅で疲れてるだろうし、今日はゆっくり休みなさい。食事は六時からだから、時間になったら迎えに行くわ」
「あ、分かりました」
「それじゃ、ゆっくりね」
そう言って、セラは扉を閉じた。
一人となり、エルリィはそわそわとした様子で部屋を見回した後、そっとベッドに腰かけた。
ふんわりと沈んでいく自らの身とその感触に、エルリィは不思議な感覚を覚え、そのままぽふん、と寝転がってみる。
「柔らかい・・・ふかふか・・・」
(こんなに暖かいベッドで眠るの、いったいどれくらい昔だったかな・・・)
その寝心地の良さにエルリィは抗えず、襲い掛かる睡魔にあっという間に意識を手放した。




