国境越え
―――トリグラフでの戦いが終わり、篝たち一行は、アルガンディーナ帝国に向かって車を走らせていた。
「ゴライアス、バイクになれるんですね・・・」
「クロスライズのお陰で、ゴライアスに変形形態が追加されたらしいぜ」
篝だけは、セドリックの運転する車の前を走っており、そのバイクはゴライアスが変形したものだった。
ちなみにだが、車もラーズの能力で作った軍用車両である。
『ちなみに、披露したのはラーズだけだけど、僕たちもクロスライズ出来るからね』
そう口を挟んだのは、篝から手渡された髪飾りである。
他にもキーホルダーサイズのナイフ、槍、十字架が何故かエルリィの手元にあった。
「アネットさんたちのクロスライズってどういうものなんですか?」
『それは見てからのお楽しみという事で』
『えっと、私のはね・・・』
『見てからのお楽しみって言ったよね!?』
髪飾りの言葉に続けてナイフが喋り出すが、髪飾りにツッコまれて阻止される。
これらは全て、篝のリンカーである。
髪飾りは『ジャッジ・アクティブ』。『アネット』という名前は、ジャッジ・アクティブというリンカーの自意識の名前であり、フルネームを『アネット・アルチモア』と言う。
他のリンカーも同様に、いわゆる『リンカーネーム』と『本名』の二つがあるらしい。
ナイフのリンカー『ミストアサシン』には『ジャクリーン』という名が。
槍のリンカー『ウルフランス』には『サラ・エクストラ』という名が。
そして十字架のリンカー『アイトクロイツ』にも『クロエ・ベルセリア』という名がそれぞれ存在している。
『ひぃん』
『よしよし、アネットの言う通り、秘密にしよう』
『ああん、泣き顔のジャックちゃんも可愛い』
『親父くさいぞクロエ』
聞こえていたのか篝がヘルメットに仕込んだ通信機越しにツッコむ。
『親父臭いって何!?』
「エルリィ、しばらく無視しようか」
「あ、はい」
騒ぐクロエを他所に、エルリィはふと車外の景色を眺める。
いつの間にか、周囲は再び雪景色へと変わっていた。
「雪か・・・」
ふと、剣太郎が小さく呟く。
「雪に、何か思い入れでも?」
「いや、むしろ嫌な思い出しかなくてな。思えば随分と遠くへ来たもんだよ」
「そういえば、剣太郎さんは極東の『神龍皇国』の出身なんでしたっけ」
「篝もそうだぞ」
篝と剣太郎は同郷の者であり、紆余曲折あって、この海を隔てたアルガンディーナ帝国にいる。
「別名『術式大国』。人体に存在するコードスキルとは別に、奇跡に近い現象を引き起こす事の出来る『術式』に秀でた国です」
セドリックの隣に座るルクスが、そう説明をする。
「『術式』・・・確か、コードスキルとは違って、手間はかかるけど誰もが使えるエーテル技術・・・でしたっけ」
「まあ大体はコードスキルの劣化版で、ほとんどが補助にしかならないが、あの国は独自のやり方で術式を発展させて、コードスキルと遜色のないものを作ってる。だから『術師の国』とも呼ばれてるんだ」
「じゃあ剣太郎さんも?」
「いや、俺はそのあたりはからっきしでな。なんでも『術式適正』って奴が俺は全くないらしくてな。代わりと言ってはなんだが、篝はその辺ずば抜けているみたいだぜ」
「篝さんが・・・?あ、もしかして『バレルアーツ』って」
「篝オリジナルの術式だ」
剣太郎が腕を伸ばす。
「あいつの流派『戦乙女流』の修行中に思いついたらしくてな。全ての攻撃を一段階強化するために開発したもので、結果としてああいうのが出来たらしい」
「篝さん・・・本当にすごい・・・」
そう関心していると、今まで寝ていたシモンが目を開く。
「来た」
そして、そう一言呟いた。
「来た?」
その言葉に、エルリィが首を傾げていると、通信機越しに篝が話しかけてきた。
『迎えが来たぞ』
「迎え?」
「こっちの窓、見てみな」
そこで運転していたセドリックがフロントガラスの方へエルリィを呼び込む。
それに従って、覗いてみると、しんしんとした雪景色の中に、青白い光が一つ見えた。
「あれは・・・」
その光が、だんだんと大きく、一つのシルエットを映し出し、それがじょじょにこちらに近付いてくると―――エルリィはあんぐりと口を開けた。
飛んできたのは、人型のロボットだった。
おおよそ全長六、七メートル程度のそれは、鋼鉄の巨人とも言うべきものであり、それらが飛行して飛んできたのだからその衝撃も一入。
そんな巨大な兵器が、篝たちからやや離れた前方に着地したかと思えば、雪面を滑りながら篝たちと並走し始める。
「・・・・・・」
「紹介します」
ルクスが、唖然とするエルリィに、その機械の巨人を紹介する。
「元素炉搭載型対抗兵器『エイオス』です」
巨大な人型兵器―――『エイオス』を前に、エルリィは開いた口が塞がらなかった。
そんな彼女を他所に、並走するエイオスの肩に、誰か乗っているのが見えた。
それは、緑と白を基調としたメイド服を想起させる装束を身に纏った戦姫だった。
「おかえりなさいませ、篝様。団一同、貴方のご帰還を心よりお待ちしておりました」
「お前たちが来たのか。それにその物言い・・・全員戻っているのか」
「はい。奇跡的にそれぞれの任務が終わり、皆さま既に本部にお戻りになっております」
『ロキシーの奴がカンカンになってるぜ』
エイオスの首が動き、スピーカーからそう言った言葉が届く。
「なら急がないとな」
『みんな待ってるぜ・・・ん?』
ふと、『エイオス』の顔が車へと向けられる。
『一人多くねえか?』
「新入りだ」
『マジ?どんな奴?センサーじゃ顔までは分かんねえからさ』
「ついてからのお楽しみでいいだろ」
「楽しみにしています」
そう言って、エイオスの肩に乗る戦姫が進行方向へ指を向ける。
「このまま前進してください。検問には既に話を通しております」
「助かる。聞いたな」
『応、このまま行くぜ』
そうして、彼らはそのまま国境にある検問を通り過ぎる。
その時、エルリィは検問前にいる大量の人々に気が付く。
「あの人たちは・・・」
「難民」
シモンがエルリィの疑問に答えた。
「革命が成功した事を聞いて、ここまで命からがら逃げてきた野郎どもだ」
「やはり、どこの国でも『男』の扱いは・・・」
「ここはマシってだけだぞ。あれ見てみろ」
「え?」
シモンが指差す先を見るエルリィ。
そこには、検問を無理矢理乗り越えようとする男がおり、その男が警備員に引きずり降ろされている様が見えた。
「あれは一体・・・」
「人間にもいろんな奴がいる事においては、男も女も関係ない。ありゃ、犯罪犯して追放された」
「犯罪?」
「当たり前だろ。人間扱いされるってのはそういう事だ。俺たち全員が聖人君子か何か勘違いしてねえだろうな《王国スラング》どもが」
「あの、心臓に悪いのでそれ言わないでもらえます・・・?」
「チッ」
(ずっと機嫌悪い・・・)
エルリィはシモンの機嫌に内心おどおどしていた。
「エルリィさん」
ふと、ルクスがエルリィに話しかける。
「ここで、我が国『アルガンディーナ帝国』についてご説明しておきましょう。今の帝国は、歴史書では説明できない事も多いので」
「あ、よろしくお願いします」
目的地へ辿り着くまでに、エルリィはルクスの説明に耳を傾ける。
現在、アルガンディーナ帝国、通称『帝国』は、革命の影響で未だ混乱期にあり、平定は未だに済んでいない。
その為、『竜殺しの刃』及び、再編した帝国軍は現在、各地に潜む不穏分子の排除に回っている。
特に、最大の問題は男女間の確執。いくら革命が成功したとしても、それだけで男女間の恨みつらみは解消される訳ではない。
むしろ革命の反動によって男の中に増長して女に対して危害を加える者も出てくる可能性もある。
その為、新たな皇帝『モルジアナ・フォン・アルガンディーナ』がとった行動は、法の改正とその執行力の強化だった。
一言でいえば、厳しい法でもって男女間の確執を無理矢理抑え込んでいるのである。
無論、当然反発もあるが、怪我人や死人が出るよりはマシ、という事で皇帝はまず法の執行力の強化を始めた。
その一助、というか要になっているのが、皇帝のみが持つコードスキル『皇帝権限』である。
このコードスキルの能力は『絶対順守』。
対象に自身の言葉を聞かせる事で、その内容を強制執行させる事の出来る強力無比なコードスキルである。
「そんなものが・・・」
「ただし条件があり、自身より身分の低い者、かつ自分がもつ組織や団体以外には効果を発揮しません。その為、皇帝の地位につかなければ、全国民に対して皇帝権限は使えませんでした。ですが、誰彼構わず使えばいいというものでもありません。それではむしろ反感を買い、もし、コードスキルが使えなくなった時の抑止力がなくなってしまいます。ですので、絶対順守のコードスキルは、ある特定の個人にのみ使用している状態となります」
「特定個人?というと・・・」
「簡単に言えば、警察組織のトップや管理職などの人間に対してのみ、コードスキルを行使しているんです。限定する事で管理もしやすくし、尚且つ、優秀な人材をその内面に関係なく扱えるという寸法です」
「でも、それでも・・・」
「多少の反感は免れません」
エルリィの言葉を読んでいたかのように、ルクスは言葉を被せてくる。
「ですので多少の旨味は残しているんです」
「旨味?」
「例えば、我が国では賄賂を受け渡す事を禁止しています。その辺りも厳しく管理しているので。しかし、皇帝権限を受けている人間は、しらばっくれても良いとしています」
「し、しらば・・・・?」
「ようは、賄賂受け取って告発されても、見逃してくれるって話だよ」
思わず目を白黒させたエルリィに、剣太郎がそう例えてみせる。
『ただし、賄賂を受け取っても従わない、という事が大前提だけどね』
そこでアネットが付け加える。
「それって逆に恨み買いません?」
「だから安全が保障されています。賄賂を渡した奴が本人に近付かないように手配したり、殺し屋雇うようならその殺し屋に倍の額提示したりとかして、なるべく手を尽くすようにしているんです。皇帝権限を受けた人間は、定められたルールを決して違う事はありませんから」
「一種の洗脳みたいなもの・・・あ、ごめんなさい」
「気に済んな。事実だ」
謝るエルリィに、シモンがそうフォローを入れる。
「まあ、そういう事で、この国の治安は徹底的に管理されています。しかし、それでも抑えきれない事が多いし、勘違いする者もいます。だからこそ、我々は一刻も早い秩序の形成をしなければならないんです」
「・・・・」
ルクスの言葉に、エルリィはふと思った。
(それでも篝さんはとある『戦姫』の為に、『要塞』いたのか)




