選んだ未来へ
―――荒野の地に、二つの石碑が刻まれていない墓が建てられる。
その墓を建てた本人―――エルリィは、しばらくその墓の前で膝をついて佇んでいた。
「思いのほかあっさりいったな」
そんなエルリィの後ろ姿を眺めながら、剣太郎が篝に向かってそう言った。
「あの本体が、この時代を代表するようなクズだったのは分かるが、それでも無抵抗の相手に刃振り下ろせるなんて、ありゃ将来有望だな」
「そんな将来に有望などあるか」
剣太郎の言葉に、篝はそう否定する。
古代兵器『エキドナ』は、その性能上、戦闘能力を捨てている代わりにやたらに硬かった。
エルリィの持つ『終穹』でなければ斬れないほどにだ。
だからこそ、彼女に『エキドナ』の本体の破壊の白羽の矢が立たれたのだ。
その結果に、エルリィは少し逡巡した後、意を決したかのように、腰の『終穹』に手をかけた。
『本気か?』
と、篝がそう尋ねた。
その問いかけに、エルリィは回りくどい答えを返した。
『変身を、解いてください』
その言葉に、その場にいる全員が首を傾げるが、篝はそれに応じて変身を解き、男の姿に戻った。
その途端、あの『肉塊』は謎に暴れ出したのだ。
『オォォオ・・・オドゴォ!ゴミィィィっ!!!ジネェエエエ!!!』
それは、その姿に似付かわしいゴミみたいな罵詈雑言だった。
『ゲズノブンザイデワダジヲミグダズナァァアアァァアアアアアア!!!オマエダヂオドゴナンゾワレワレゼンギノドレイニスギナイ!!ダカラジネッ!ジンデワダジニグワレロォォオオオ!!!』
今すぐにでも篝を絞殺さんと肉片を飛ばす『肉塊』。
その肉片を見下ろし、エルリィは呟く。
『こいつは自分がエキドナを自由にできる事を良い事に、女を自分好みの『人形』に、男を餌として『養分』にして、弄んでいた。最後は、この終穹の最後の持ち主に追い詰められて、自分を改造しようとした所を不完全な所で阻止され、それに怒り狂って全ての人形を暴れさせようとしたんです』
『だが、全部倒された挙句、自分はこの有り様・・・私には、彼女を救う気は起きませんし、その方法も分かりません。だから、理由を一つだけに絞ります』
ゆっくりと、朝焼け色の刃が引き抜かれる。
『シムさんは、比較的ではありますが、私に良くしてくれた人でした。そして、妹の為を想い、十年間も耐え続けてきた。こいつは、そんなシムさんの心を踏み躙った。姉妹の絆を、自分の都合のいいように捻じ曲げた』
その剣を高く掲げ、喚く『肉塊』を見下ろし、エルリィは嫌悪の眼差しと共に、告げる。
『永遠に供養しろ。この世で貴様が弄んだ命に』
そして、朝焼け色の刃が、『本体』へと振り下ろされた。
その後、遺跡はラーズが作った爆弾によって崩れ、地の底に沈んだ。
そうして、この事件にまつわる全てが終わった。
死んでしまったシムとラムは同じ地面に埋め、二つの墓を建てた。
その墓をしばらく眺めていたエルリィは、やがて立ち上がって、篝たちの元へと向かった。
「もういいのか?」
「はい、言いたい事は、全部言えた気がします」
篝の言葉に、エルリィは力なく笑う。
「・・・親しい人だったんですか?」
ルクスの言葉に、エルリィは首を横に振った。
「一度だけ、助けてもらったんです。本当に、一度だけ。まだ、軍学校にいた時、酷く虐められてて、沢山暴力も振るわれて、酷い事もされた・・・でも、ある日、シムさんが私がいた軍学校に来てくれた事があって、その時、助けてもらった事がありました。その後、古代兵器文字が読めると分かって、連れていかれたんですが」
「そこが因縁かよ」
昔語りが終わった所で、篝は一度、エルリィと向き合う。
「最終確認だ。これは、一種の宣誓と思ってくれ」
その言葉を言い、篝はどこからともなく取り出した軍帽を被る。
それを見ると、どこか彼の雰囲気がそれっぽく見えた。
「『竜殺しの刃』が団長として、エルリィ・シンシアに問う」
篝はエルリィに向かって右手を伸ばし、その掌を向ける。
「一つ、『竜殺しの刃』の為に戦う事を誓えるか」
「え、あ・・・はい!」
慌てて答えるエルリィに、篝以外の一同が笑みを零す。
「そこは誓いますで良い」
セドリックの言葉に、エルリィは頷く。
「続ける。二つ、『男』でも『女』の為でもなく『人』の為に戦う事を誓えるか」
「・・・誓います」
少し戸惑いつつも、エルリィは真っ直ぐに篝を見て、答える。
「三つ、いかなる困難を前にしても、仲間を見捨てず、戦い抜く事を誓えるか」
「誓います」
今度は、少し自信をもって答えた。
「四つ、この世界を変えるために、命を賭して戦うことを誓えるか」
「っ・・・誓います」
スケールの大きい問いを振られ、少し怖気づいた後、踏みとどまって答える。
「最後だ」
その言葉で、エルリィは気を引き締めた。
「五つ―――仮令、破滅に向かうと分かっていても、この道を選択するか?」
その問いかけに、エルリィは目を見開いた。
だが、すぐに自分の胸に拳を当てて、一呼吸置いてから、答える。
「その答えは既に出ています。大事なのは、結果ではなく、そこへ向かうまでの過程です。過程が、誰にも恥じないものであるなら、私は、この道を選びます」
それが、エルリィに答え。それに篝は笑みを零し、エルリィに向けていた手を少し下ろし、掌を上に向けた。
「ようこそ、『竜殺しの刃』へ」
その手を、エルリィは両手で握り返した。
「はい!」
どこかの街のどこかの場所、人気のない路地裏にて。
「エキドナが破壊された」
白のマントを纏った白髪の女が、手元の装置を眺めながらそう呟いた。
「エキドナ・・・デュークの『終穹』を使うやつが現れたか」
その言葉を聞いた、フードを深く被った女がそう返す。
「終穹を?だが、あの剣は『王冠』の資格を持っている者しか・・・」
「その資格者が現れたんだろう。あれは破壊に特化した古代兵器か終穹でなければ破壊出来ない」
「私たちでもついぞ破壊出来なかったものを・・・」
「お陰で懸念が一つ消えた」
フードの女が歩き出す。
「誰が破壊したのか気にならないのか?」
「それは重要じゃない」
歩きながら、女は懐から一枚の写真を取り出す。
一組の大人の男女と、その前で笑顔を見せる三人の子供が写った写真だ。
「重要なのは、俺たちがどこを目指して進んでいるかだ」
「・・・・貴方は相変わらずだな」
その後を、白髪の女が負う。
「行こう。篝たちが気兼ねなく戦えるように」
その背には、ルクスの持つ長剣と同じ意匠の長剣が背負われていた。




