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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
19/56

クロスライズ

篝とエルリィが離脱し、その間、ラムの相手は剣太郎が務めていた。

「うざい、うざい!うざい!なんなんだよお前たちはぁあああ!!!」

「姉殺しがいっちょ前に怒りやがる!」

剣太郎は一言でいえば目が良い。

それは、捉えきれない筈の不可視の斬撃を視認する事が出来、尚且つそれらが亀の歩みのように見える。

同時に、その攻撃の嵐を凌ぐ事の出来る技術と判断力が、ここまでの猛攻を凌ぐのに成功していた。

(だがこのまま防戦一方じゃあ何も変わらねえぞ!?)

防御にも使える赤い血と見えない攻撃。

その組み合わせは、まさしく凶悪であり、剣太郎でなければここまで凌ぎ切る事は出来なかっただろう。

だからこそ、彼女が間に合った。

「っ!?」

砂の上に何かが落ちる音が聞こえ、続けて風を切る音が鳴る。

そして、ラムの横から、朝焼け色の輝きを持った剣を抜いたエルリィが襲い掛かった。


「『終穹・抜刀』!」


朝焼け色の剣『終穹』が抜かれ、エルリィが加速する。

対して、ラムは血を壁のように掲げた。

「はぁぁ!!」

だが、エルリィの横薙ぎが、その赤い血の壁を斬り裂く。

「そんな・・・!」

「はぁ!」

驚くラムに、構わずエルリィは剣を振り抜く。

それをラムは後ろに飛んで躱すも、エルリィは追いかけるように返す剣で追撃する。

そのまま、刃がラムに届きそうになった瞬間、エルリィの耳が僅かに斬り裂かれる。

「ぐっ!?」

見えない斬撃だ。慌てていたのか狙いを外したみたいだが、エルリィにはそれを視認するのは出来なかった。

「邪魔!」

ラムが、それをいいことに不可視の刃をエルリィに向かって放つ。

だが、それが届くより早く、剣太郎がエルリィを後ろに引きながらそれらを防いだ。

そのまま一気に後ろへエルリィと共に飛ぶ。

「ううう・・・!」

そんな二人を恨めしそうに睨むラムから視線を外さず、剣太郎はエルリィに尋ねる。

「篝からの指示は?」

それに対して、エルリィは少し戸惑った後に答える。

「仕留める気で戦えって・・・」

「なるほどな」

剣太郎の視線が、エルリィがやってきた方向へ向く。

それにつられて、ラムまた同じ方を向いた。


そこに、ただそこに佇む篝の姿があった。


「お前!」

それを見たラムが、案山子のように立つ篝に向かって攻撃を仕掛けようとする。

だが、それよりも早く、剣太郎の火刀が迫る。

「っ!?」

それを間一髪で赤い刃で防ぐラム。だが、その腕が僅かに焼き切れる。

「余所見してる暇があんのか?」

剣太郎が笑みを浮かべてラムに向かってそう言う。

「この・・・っ!?」

すぐさまその剣太郎に向かって反撃しようとしたが、上から殺気を感じ、上を見上げれば、終穹を掲げて落下してくるエルリィの姿があった。

「オオォ!!!」

その一撃はラムの胴体を確かに斬り裂いた。

(入った・・・!)

「まだだ!」

取ったと確信した。しかし、シモンの叫びがそれを否定する。

どろりと傷口から溢れ出たどろりとした血が波打ったかと思えば、一気にエルリィに襲い掛かってきた。

「うわ!?」

それをエルリィは即座にそれを切り捨ててみせる。

しかし、続く風の刃だけは視認できない故に対応できない。

そこへ割り込んだ剣太郎が風の刃を弾く。

「クソぉ・・・!」

(見えてきた、こいつの攻略法・・・!)

さらに追撃しようとしたラムの頭部に、何かが撃ち込まれた。

だが、確かに撃ち込まれた筈の弾丸が、その傷口から飛び出す。

それを見ていたセドリックは、冷や汗を流しながら冷静に分析する。

(心臓や頭を損傷しようとも、時間をかけて修復される。どうやら、傷口が小さければ小さいほど治るのが早いらしい。だが―――)

ラムは心臓にまで届く、エルリィがつけた深い傷を抑えながらよろめく。

(あの傷だけは修復が遅い。エルリィのあの赤い剣の所為か?)

それを否定するのは地面からの攻撃を警戒するシモンだった。

(いいや違ェ。あの剣はあくまで()()()()()だけだ。斬撃そのものに効果はない。それは『音』で分かる。だから、再生が遅いのは単純に―――)


(損傷面積が大きいから)


周囲を駆け回りながら、ルクスはそう結論付けた。

(つまり、彼女を倒すには―――)


「再生出来ないほどのダメージを与える必要がある」

それが、ラムを攻略するための条件であると、エルリィは剣太郎と共に答えに辿り着いた。

「正解。だが、問題はある」

血が、刃を形成する。

「なんでも削り喰っちまう血と見えない風の刃。刃の方は位置が分かれば対処は可能だが、赤い血の方はお前じゃないと排除できない。見てみろ」

剣太郎がある場所を指差す。

そこには、赤い血だまりが砂の上に浸み込んでいた。

「お前が斬り飛ばした血だ。考えてみれば血も人体の一部。いくら力があっても、失えば生命に関わる。だからこそ―――」

「失えば、再生させなければならない」

篝が、良く通る声でそう呟いた。

右手の手袋を整え、顔を上げて敵を見据える。

「みんな、良くやってくれた」

そして、真っ直ぐラムに向かって歩き始める。

「もう防戦に徹する必要はない。ここから先は、奴が防戦に徹する時間だ」

シモンがキャノン砲を肩に担ぐ。

セドリックが愛銃を引き抜く。

ルクスが剣を掲げる。

剣太郎が火刀をさらに抜く。

その光景に、エルリィは呆気にとられる。


「決戦の(とき)は来た」


篝の右手首に青白い光の環が現れる。

突然の事に、ラムは目を見開き、エルリィはその現象を見て、いつか読んだ本の内容を思い出した。


『オーソライズリング』

リコレクトリンカーを使う戦姫が、そのリンカーとの意思を通わせ、認め合う事で成す事の出来るとある究極形への許可証のようなもの。


それの発現は、本来の力の回帰であったり、未知への開拓であったりと形は様々であるが、持ち主である戦姫とリンカーの次元を一つ上の段階へ引き上げる。


「ラーズ」

「はい」

篝の隣に、銀の少女が再び立つ。

それと同時に、その背後にラムの攻撃でボロボロとなった機甲の怪物が現れる。

その出現をもって、オーソライズリングの現れた篝の右手とラーズの左手が繋がれる。

そして、繋がった手の輝きが、暗闇の空を照らす。


意思を持つ武器(リコレクトリンカー)』と『保有者(マスタ)』との絆によって成される、進化の形。その名は―――




「―――クロスライズ」




その一瞬、エルリィは青の花畑を幻視した。

青白い光が迸り、篝とラーズ、そしてゴライアスの姿が変化する。

ゴライアスは、その白の顔のない怪物が、ツインアイを持つ青い装甲を持った機甲へと変わる。

ラーズはその身を包んでいた軍服のような衣装から、蝶を想起させる青いドレスへとその身を包む。

そして篝は―――

「綺麗・・・」

その一言でしか表せない、青を基調としたドレスに身を包んだ篝がそこにいた。

本来男である筈の彼。しかし同時に、戦姫となり『女』と成れる今の彼女(かれ)の魅力の全てが、その姿に凝縮されているかのようだった。

例えるのであれば、花畑そのものかのように。

その美女が、目を開く。


クロスライズ『ラーズグリーズ・ヴェルト』


その静かながらも青い炎が灯っているかのような瞳が、ラムを射抜く。

その視線に、ラムはその顔を一層不愉快そうに歪めた。

「なんなの、一体・・・」

練りこまれるように、彼女の感情を織り込むように、赤い血がうねり、刃を形成する。

「どうしてさっさと消えてくれないの?」

その切っ先が、篝やエルリィ、剣太郎たちへと向けられる。

「早く私に食べられてよ!」

その時、ラムは見た。

篝の視線が、自分を向いていない事を。

「エルリィ」

そして、その視線の先にいる少女に向かって、一言告げた。

「タイミングは任せる」

その行為がラムの怒りを爆ぜさせた。

「死ね!」

放たれる赤い刃。それらが一斉に篝に襲い掛かる。同時に、ラーズが篝の中へと入った。

「篝さ・・・!」

「大丈夫だ」

思わず援護しようとするエルリィを剣太郎が腕で制す。

「でも、あの量の攻撃を、それに、見えない攻撃だって・・・」

「篝なら大丈夫だ」

殺到する無数の赤い刃。

その中には同数の風の刃も仕込まれている。

それら全てを見切り、尚且つ躱し防ぐ事は至難の業である事は明白であろう。


しかし、篝は迎撃を開始した。


『『解析完了(アナライズオン)』―――迎撃準備、整いました』

篝は、流れるような仕草で開いた手を繰り出した。


戦乙女流決闘術『(ムカ)(イワ)


衝突の瞬間、拳を握り込み、赤い斬撃を正面から迎え撃つ篝。

その光景に、エルリィとラムは目を見開く。

しかし、次の瞬間、その衝撃は驚愕へと変わる。

「なんで・・・」

続けて殺到する赤い刃たち。

しかし、それらは全て、篝に傷一つつける事は出来なかった。

篝の拳は赤い刃を打ち砕き、その身のこなしで不可視の刃を躱し、続く猛攻をまるで意に介さず全て凌いでしまった。

続けて、足元から迫った攻撃も、素早い身のこなしでその場から離れる事で回避。まるで分っているかのように、立て続けに襲い掛かる地面からの攻撃、そしてその地面から飛び出てなおも篝に追いすがってくる攻撃も、篝は全て躱し、その拳で叩き落として見せる。

「なんで、どうして・・・!?」

その光景に、ラムは驚きを隠せなかった。

そして、それはエルリィも同じだった。

「どうして・・・あの血に触ったら、削り取られて消えてしまうのに・・・」

「説明してやるよ」

その時、隣にいた剣太郎がその戦いを見ながら話す。

「まず、血の攻撃を迎撃している方法だ。あれはラーズの能力によるものだ」

「ラーズさんの?」

「そっ。ラーズの能力は『再現』。一度見たものの構造を理解し、解明する事で、それと全く同じものを作り出す事が出来る。岩だろうが、例え人体だろうがな」

それを聞いて、エルリィは篝が自身の失った肉体の一部を治したのを思い出した。

「だが、出来るのはあくまで『再現』による複製。同じものしか出来ない。その上、生物に関しては死体(・・)しか作れない。篝曰く、魂って奴が入っていないからだそうだ。意味があるのは、失った部分を補う事の出来る『部品』だけらしい」

「それじゃあ、同じものをぶつけて相殺する事が出来ない・・・いや、そもそも、同じものを作ったら逆に利用される可能性が・・・」

「だからクロスライズなんだ」

剣太郎はそう断言した。

「クロスライズは、リコレクトリンカーの真価を発揮する事の出来る力だ。そして、それによって引き出されたラーズは、その本来の能力を取り戻す」

「本来の、能力・・・?それは一体?」

その答えは、剣太郎は篝の代わりに答える。


「『創造』。無から有を生み出す、この世の理を超える力だ」


「創造・・・!」

エルリィは見た。ラムの攻撃を凌ぐ篝の姿を。

その表情には余裕が見て取れ、その攻撃の全てを躱し迎撃していた。

その際、血の刃を迎撃する瞬間、その接触部に青白い火花のようなものが散っているのが見えた。

「もしかして・・・」

「そう、ラーズの能力を使って血を相殺できるもの作って迎撃してるんだ。接触の瞬間に作ってぶつけるなんて芸当、篝ぐらいしか出来ないだろ。まあ、いつもラーズが『使い方が違う』って文句垂れてるけどな」

「それでも・・・」

エルリィは、篝が起こしているもう一つの現象に注目していた。

「地面からの攻撃や、見えない攻撃の迎撃は、どうやって・・・」

「それが、篝が『悪魔』と呼ばれる所以だ」



攻撃が当たらない。

その事実に苛立ちを隠せないラム。

まるでこちらの思惑が見透かされているようで、自分を見ても全く揺らがない眼差しに、ラムの苛立ちはさらに募っていく。

「いい加減に死ね!」

再び放たれる血の刃と不可視の刃の攻撃。

しかし、篝はそれを軽いステップと共に、まるでラムの放つ刃たちと踊るように躱して見せる。

「なんで、どうして当たらないの!?」

「理由と言えるか分からないが」

ふと、ラムの放つ猛攻の最中で篝が呟く。

「左から首めがけて風の刃」

「っ!?」

篝が突如として呟いた予測。そしてその予測通りに、ラムはその風の刃を準備していた。

「当たった場合、お前はすぐさま地面からの攻撃に切り替え、俺を囲うように仕掛ける」

篝が滑るように横に移動すると、先ほどまで篝がいた場所に血が花弁のように現れ、閉じる。

「続けて」

篝は後ろに向かって、背後に立つ敵の顎を打ち据える要領で裏拳を放った。

その結果、背後から襲い掛かってきていた血の刃を粉砕してしまう。

「背後から奇襲を仕掛け、尚且つ足に向かって不可視の刃」

直後、爆発。

いきなり出現したのはなんと手榴弾。それを踵で蹴っ飛ばしてある程度離れた所で炸裂。襲い掛かってきていた風の刃を二つ、無効化する。

「そして動揺したお前は焦って、無差別に攻撃しようとする―――」

一体、何が起こっているのか。

先ほどから、この戦姫の言う通りになっている。

その事実は、ラムを混乱させ、同時に足元から何かが這い上がっていくかのような悪寒が上ってくる。

だから、自身の力の限り、その力をまき散らそうとした。


しかし、それよりも早く、篝の拳がラムの顔面に突き刺さった。


戦乙女流決闘術『祓石火(ハライセッカ)


そのままラムが吹っ飛んでいく。

「ど、どうして・・・」

倒れ伏したラムが、鼻から血を流しながら信じられないという顔で篝を見上げる。



「篝曰く、人の行動は全て『何故』で片付くらしい」

「『何故』?」

剣太郎の言葉に、エルリィを首を傾げる。

「対峙した相手の攻撃は、ある程度戦えば分かるものだ。威力はもちろん、その速さや技の質とかな。だが、篝はそれだけに留まらない」

剣太郎がラムを指差す。

「攻撃の威力から距離を、角度から方角を、手順から癖を。それだけに留まらず、言葉からは性格を、仕草から生活を、そして体の傷から、そいつの人生すらも見通しちまう」

「人生も・・・?」

「すまん人生は言い過ぎた。だが、それだけあれば、あいつはあらゆる人間の『本質』を見抜く事が出来る」

ラムが反撃するも、篝にはやはり当たらない。

「今、篝は『ラム・ペル』という人間の本質を捉えた。そうなった以上、もう篝に勝つ事は絶対にありえない。思考を予測され、攻撃を躱され、何もかもが通用しない。あいつに本性を見抜かれた敵は、全てあいつの掌で踊るピエロに成り下がる」

その言葉に、エルリィは思わず自分の左腕を掴む。

「安心しろ、篝は基本的に全ての人間と『対等』に接する」

そんなエルリィを見て、剣太郎はそうフォローを入れる。

「それに、あいつは殊の外『人間』らしく欠点も多いんだぜ」

その言葉の直後、状況が動いた。

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