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TS戦姫 黄金のアテナ  作者: 綾波幻在
13/56

灰鉄小隊の実力

爪が飛来する。

腕を振り、その勢いによって飛んできた細長い爪を、篝は背後のエルリィを壁際に蹴っ飛ばしつつ軽い身のこなしで躱す。

「ぐえ!?」

「っ!?」

すかさず、ダリアが爪を伴って篝に襲い掛かる。

それを、篝は落ち着いた様子で軽い足捌きで、素早く振るわれる爪の攻撃を躱す。

その篝の動きは、まるで踊っているようだった。

「てやぁっ!」

すかさず、ダリアが爪を突き出し、篝はそれを、横に大きく体を逸らす事で躱す。

しかし、その時、爪がぐにん、と曲がって篝に向かって伸び始めた。

(曲がった!?)

それを見ていたエルリィは驚愕に目を見開く。

しかし、篝は、それをはじめから見ていたのか、ふっと膝から力を抜いたのか、落ちるようにしゃがむと、その落ちる勢いを利用してか爪を下から潜り抜け、距離を取る。

「情報通り、まずは学生のような恰好の姿でこちらの手札を知ろうとする・・・知っているよ。そのリンカーの能力は『思考を加速させる』だけ。そして、何をとち狂ったのか、戦姫の最大の恩恵である身体能力の向上が存在せず、『起動しても素の身体能力のまま』という欠点を抱えている。それでも躱せているのは、やっぱりその能力のお陰かな?」

「・・・・」

「でもね」

その時、篝の視線が後ろに流れた。

そして篝は素早くその場から離れる。

直後、爪が篝の背後から飛来してくる。

(あれは、最初の・・・!)

それは、最初にダリアが投げ飛ばした爪たちだ。

ダリアは、自身の指先から一本ずつ、即ち、片手五本、合計十本の爪をもって篝に襲い掛かってきていた。

「てやァ!!」

しかし、五つの交錯が起こる事は無かった。

現れたのは巨大な盾―――ではなく、十字架だった。

「え、なにあれ」


「エンゲージ―――『アイトクロイツ』」


黄金色の十字架を掲げ、修道服に身を包み、髪を三つ編みへと変えた篝がそれを掲げ、十の爪を防いでいた。

「アイトクロイツっ・・・!『リーゼロッテ教』屈指の『聖女』が使っていたリコレクトリンカーか!」

篝が動く。

「弾け、十字架」

十字架が衝撃波を発する。

それによって弾かれたダリアに、篝は凄まじく重いであろうその十字架を叩きつけるべく、振り回した。

その一撃が、ダリアに向かって振り下ろされ、それをダリアは後ろに飛んで躱す。

振り下ろされた十字架は、石畳の床をいとも容易く砕いてみせる。

「うっひゃあ、流石は聖女の十字架!伝承によれば、千変万化の姿を持っていると聞いているけど、なんでそんな大雑把な使い方しかしないのかな?」

「使いこなせない、とでも言えばいいか?」

「アハ、それだといいね!」

ダリアは既に仕掛けている。十字架が振り下ろされた瞬間には、既に天井に爪を仕込んでいる。

「行け」

天井から再び飛来する爪。その数、五。

しかしダリアの指には変わらず両手に十本の爪。

それでも篝は対処してみせる。


()を以て。


爪が全て、その槍の穂先によって迎撃される。

しかし弾かれる事は無く、穂先に喰らい付かれたかのようにくっつき、そして、何かしらのオーラが現れたかと思えば、嚙み砕かれたかのように消滅する。


「エンゲージ 『ウルフランス』」


篝の姿は既に変化していた。

鈍色の槍、同じ色の軽装の甲冑、髪型はウルフカットに。

まるでどこかの騎士のような出で立ちへと変化する。

「あらゆるエーテルに関わるものを喰らう『狼顎の槍』・・・残りは、煙霧を作り出す『ミストアサシン』と、万物を創造する『ラーズグリーズ』・・・・素晴らしい」

ダリアは、心底面白そうに、愉しそうに、嘗め回すように、篝を見る。

しかし篝の目は、どこまでも揺らぎは無かった。





その一方で、

ルクスとシムは激しい剣戟を繰り広げていた。

「ハァッ!!」

ルクスが長剣を振り抜けば、シムは双剣でもって防ぎ、後ろに飛ぶ。

そのシムを追撃しようとした時、いつの間にか地面にいたイモムシのような虫が数匹、ルクスの横から飛び掛かる。

それをルクスはすぐさま素早く剣で切り払う。

その時、切れた視線をもって、シムはルクスの背後へと周り、その刃を首に突き立てようとする。

しかし、それをルクスは腕に手甲でもって防いで弾く。

そのまま片手で長剣を振り抜いてシムに反撃しようとするも、再びイモムシが飛び掛かり、それを阻止する。

「くっ!」

「おーおー、ルクス相手によくやるなぁ」

そんな様子を、剣太郎はまるで殺伐とした空間から切り離された高見から見物している様子で見ていた。

「お前もそう思わね?」

そんな剣太郎に、ユシュナが、袖に仕込んだ刃でもって斬りかかる。

しかし、剣太郎はそれらの攻撃を紙一重で躱す。

「貴様、ふざけているのか!?」

「ふざけてる訳じゃねえよ?その証拠にきっちりリンカー起動してお前の相手してる訳だし。生身じゃきついぐらいにお前は強いから」

「ならば、余所見をするなァ!」

「してないさ」

ユシュナが激しく攻撃してくる。袖に仕込んだ刃、靴に仕込んだ刃、懐に隠した投げナイフ。それら全てを以て、剣太郎に攻撃を仕掛けるユシュナ。

しかし、剣太郎に当てるどころか掠めることすら叶わなかった。

それほどまでに、剣太郎の身のこなしは凄まじかった。

「クソッ、何故当たらん!?」

「当たらないって、そりゃあ、見えてるからな」

「見えているだと?」

剣太郎の言葉に、ユシュナはイラつく。

「ならば、これならどうだ!」

ユシュナの体が、黒く染まる。かと思った瞬間には、剣太郎の目の前から姿を消していた。

「・・・影か」

「そうだ。そしてそれを認識した時には、お前は既に死んでいる」

ユシュナのコードスキルは『影に潜む』。

影を持つもの、影のある所、あらゆる影にその身を沈ませ、そして、影と影の間を行き来できる。

そして、影があれば、どこからでも手を伸ばし、あらゆる物質を()()退()()()

故に、篝の心臓を背後から貫いた。

今回もまた、剣太郎の背後の影に潜み、そして、その影から剣太郎の心臓に向かって、腕を伸ばした。

「けどその瞬間には実体化するんだよな?」

「―――ッ!!?」

しかし、伸ばした手に手ごたえは無かった。

確かにあった筈の剣太郎の背はそこには無く、あるのはただ、空のみ。

だが、それよりユシュナが驚いたのは、何故か剣太郎が、自分の背後にいることだった。

「けど、少し悠長が過ぎるぞ?背後を取ったのなら、すぐにでも殺らないと」

「馬鹿な、どうやって・・・」

「いや、実体化した時点で影から出てるんならその時に躱せばいいんじゃねえの?」

「っ・・・!?」

なんでもないかのように言う剣太郎に、ユシュナは戦慄を隠せなかった。

しかし、そこですぐさま攻撃に移ろうとしたのは、戦闘を生業とする戦姫故に流石と言えるだろうか。

だが、剣太郎が一歩早かった。

「影がなければお前は潜れない」

突き立てられたのは、赤い光を放つ刀。

それは、刀の形をした火だった。

その光が、彼女の足元の影を消す。

「なっ・・・」

「気付いたんだが、お前はあくまで壁やら他人に映った影に潜る事は出来るが、自分の体にある影には潜れないようだな」

剣太郎はそう指摘する。

その彼女(かれ)の足には、赤く輝く光のラインが迸っており、その光から、左右二本ずつ、計四本の刀型の火が飛び出し、それをそれぞれの手で掴み、すかさず、ユシュナの四方に突き刺す。

「ぐっ・・・!?」

「難儀なコードスキルを抱えたな。お前が篝の心臓を潰すことが出来たのは、そのコードスキルを最大限に活かせたからだ。だけど、対策されると、そこまで脅威じゃなくなる」

「言っておきますが」

そこで、シムと戦っていたルクスが口を挟む。

「完全に密着状態で心臓が貫かれそうになって、それを躱すことが出来るのは貴方だけです!」

「お、珍しく褒めてくれてる?」

「皮肉を言っているだけです!ぐぅ!?」

シムの剣がルクスの剣を撃つ。

「喋るだけの余裕があるのですか?」

「自慢じゃありませんが、灰鉄小隊の隊長を任されておきながら、私は部隊の中で最も弱い事を知っています」

そんな告白を呟きながらも、ルクスはその手の白銀の長剣をシムに向ける。

「しかし、私は『竜殺しの刃』に名を連ねる者の一人。そして私の手にあるのは竜殺しの剣。その名に恥じぬよう、私は戦い抜くのみです」

その言葉に、シムの目じりがぴくりと動いた気がした。

「限りなき願いをもって、貴方を打ち倒しましょう」

ルクスが、剣を再び両手で構える。

「いいでしょう・・・」

その答えに、シムは手を掲げる事で応じる。

「・・・・ん?」

そこで剣太郎の目は捉える。

無数の芋虫が、一斉にその背を割り、そこから、新たな姿を以て羽ばたく姿を。

それらが群体を成し、シムの背後で聳え立つさまを。

「・・・集合体恐怖症の奴がいたら間違いなく発狂してるな・・・ってか」

その姿を見て、剣太郎はこういわずにはいられなかった。

「なんでイモムシからバッタだよ!?」

その無数の人食い虫たちを、シムはルクスに向かってけしかける。

「行け、『アバドン』」





その一方で、セドリックは押し寄せてくる敵の増援を防いでいた。

セドリックが、そのアサルトライフルの引き金を引く度に、一つ、また一つと命が散り、最初の部屋は、瞬く間に無数の死体で埋め尽くされる。

「くそっ、なんなのよあいつ!?」

「入れない・・・!」

既に何人もの仲間がやられ、流石に入口の遮蔽物に隠れる増援部隊の戦姫たち。

「あたいが行く」

そこで、大盾を持った戦姫がそう言って、入口からその姿を晒す。

「おっと」

「近付いちまえばこっちのもんだ!」

突撃する大盾の戦姫。

「まあ確かに有効な手段だ」

その戦姫に対して、セドリックはアサルトライフルではなく拳銃を引き抜く。

それは愛用の回転式拳銃(リボルバー)ではなく自動拳銃(オートマチック)。名を『ベレッタM9』。

そのベレッタを大盾の戦姫に向け、二発撃つ。

しかし、弾丸はその盾の前に弾かれる。

「はっ、無駄無駄!あたいの盾は無敵さぁ!」

「やはり無理か」

そこでセドリックは、今度はその空間の壁に向かって三発放つ。

当たった所はバラバラで、意味の無いように見える。

「はっ!どこ狙ってんだぁ!?」

「これならなんとか―――」

セドリックの右手が光り出す。


「『強化調整(チューニング)』―――」


その光のラインが、ベレッタにも及び、それに装填された弾丸にも及ぶ。

その状態で、セドリックは再び、遺跡の壁に拳銃を向けた。

「だから無駄だって―――」

そして再び、弾丸が放たれる。

今度は一発。その弾丸は、放たれた時点でもう止まる事はない。進撃する命へと飛ぶ弾丸は、まず、セドリックから見て、右側の壁に当たる。

その壁に当たった弾丸は、()()()()()、そのまま正面の壁に激突。そこで再び弾かれ、今度は左の壁へと飛び、そこでやはり弾かれて、そのまま、狙いすましたかのように大盾の戦姫のこめかみに命中。

そのまま、その戦姫は絶命する。

「な、なにが起こったの!?」

「くっ、だが、これで奴の弱点は分かった!」

今度は別の戦姫が動く。

地面に手を置き、光のラインを迸らせる。

すると、床が我、そこから土の壁のようなものが出現する。それも、セドリックの視界を遮るように、いくつもである。

「この間を縫っていけば、必ず奴の元へ向かえる!」

「よし、それならこのまま行こう!」

そうして、後続の増援部隊が次々と無数の土壁の中へと入っていく。

しかし―――

「そりゃ悪手だろ」

セドリックは、既にそこにいた。

「え?」

壁と壁の間を行こうとした一人が頭を撃ち抜かれる。

「うわ!?」

また一人が何かに足を引っかけて転んだ所で死ぬ。

「あれ?あいつはどこに―――」

なんとか抜けた先で、いる筈の敵がいない事に困惑している間に死ぬ。

「な、なにが起きてるんだ・・・?」

気付けば、その土壁を作った戦姫一人になってしまう。

「ど、どうして、こんなに死んでいるんだ・・・!?」

目の前にあるのは、先ほどまで一緒にいた筈の仲間たち。

全員、正確に急所を撃ち抜かれて絶命しており、その視線はあらぬ方向へ向いていた。

ただ分かるのは、誰も訳の分からない状態で殺されているという事だった。

「何故だ・・・どうして、こんな・・・」

「戦姫の身体能力舐めてるだろお前」

それが、その戦姫が最後に聞いた言葉だった。

背後からその頭を弾丸で撃ち抜き、セドリックは愛銃の『S&W M29』をホルスターに納める。

「悪いな。こういうフィールドは俺の得意な所なんだ。森なら特にな」


セドリック・フェンネル。

コードスキル『強化』

触れている道具の性能を強化可能。複雑な構造の道具でも強化可能。

強化する内容を調整可能。

手元を離れる、もしくは射出された場合、三秒間、効果持続。ただし離れた場合は強化の調整が出来なくなる。


また、彼の両親は狩人であり『森林監視員(フォレストレンジャー)』であるが故に、複雑な地形における機動戦闘を得意とする。






その一方、シモンは、尚も顎で襲い掛かってくるペディの相手をしていた。

その歯がガチン、と鳴る度、遺跡のあらゆるものがその口の中に消えていく。

「クソがっ、どこまで腹減ってんだテメェはァ!?」

「バウバウバウ!」

逃げ惑うシモンに、ペディの口角は上がっていた。

顎に存在する万物を噛み砕くコードスキルと、今回の侵入者を迎撃するという任務を達成できる事は、生まれながらに精神に異常を抱えている彼女にとっては至高の褒美である。

ご褒美として、褒められ、頭を撫でられ、そして豪華になる夕飯に思いを馳せて、ペディはシモンを噛み砕くべく、その歯を向ける。

「ばう!」

全ては、ご主人様の為に。


―――最もそのご主人様はルクスの『砲撃』で消し飛んでいるのだが。


そうして、ついにペディは人肉を喰らった歯応えを迎えた。

「ばうっ!」

あとはそのまま噛み千切るだけ―――の筈だが、何故か、妙に硬かった。

「ばう?」

がじがじ。妙に感じて、何度も噛んでみる。

しかし、やはり硬くて、ペディは違和感を覚えた。

いつもであれば、たった一噛みで、肉と骨を噛み千切れる。

いつもそうであった為に、ペディは首を傾げ―――首根っこを掴まれた。

「おい」

燃え盛るような、炎のような声が聞こえた。

「調子に乗ってんじゃあねえぞ三下以下のゴミ犬野郎が」

瞬間、体が浮いたかと思えば、体が地面に叩きつけられていた。

「ぎゃあうぅうぅううううぅううう!!?」

否、叩きつけられたのは、()()()()

「ぎゃううっ!?ぎゅあああああぁあああ!!?」

更に、ペディの口が、何故か焼け爛れてしまっていた。

何が起きたのか、ペディには理解できない。

ただ分かるのは、自分が窮地に立っているという事だった。

「何喚いてんだ」

その最中でそんな声が聞こえ、ペディが顔をあげれば、そこには底冷えするような眼差しを自身へ向ける、獲物だった筈の戦姫。

それを見た瞬間、ペディがとった行動はとてもシンプルだった。

「くぅ~ん」

命乞いであった。

言葉を学ばず、喋れない彼女に出来る、精一杯の白旗は、その情けない鳴き声であった。

彼女は知っている。生き延びれば、いずれ良い事はあるのだと。生きてさえいれば、次があるのだと。

次さえあれば、いずれ仕返しが出来るという事を。

「ふざけてんのか」

しかし、目の前に立つ戦姫の返答は、無慈悲な言葉であり、光だった。

「散々、人間を食い散らかしてきたテメェが、命乞い如きで助けてもらえると、本当に思っていたのか?」

その戦姫の胸の中央が輝き出す。

それは、いわゆる心臓に位置する部分であり、そこから烈日を想起させる輝きが溢れ出す。

「ふざけてんじゃねえぞ・・・テメェのようなゴミがいるから、クソみたいな理不尽が蔓延るんだ」

シモンの眼差しは、自身を助けてくれるものではない。

確実に自分を殺すという、意思が宿っている。

「くぅ~ん・・・・!」

「聞こえてるぞ。不意打ちする気満々だってことがな。所詮テメェもクズの一人。そんな命乞い、聞く気はサラサラねえ」

光が一層強くなる。

「そんな奴は俺の目の前から―――」

それらが一気に放たれ、ペディを飲み込む。

「あおぉぉぉぉおおぉお――――!!?」

その悲鳴は光に飲み込まれ、瞬く間にその身を真っ黒に焦がし、炭から灰へ、塵となって燃え尽きた。


「―――塵になって消え失せな」


光が収まった時、そこには、赤く溶けた遺跡の残骸が、シモンを中心に残っていた。


シモン・リンクス。

コードスキル『陽炉心臓(ソルブライトハート)

莫大な熱を広範囲にわたって放出する能力。彼の持つキャノン砲『ハウル』はその熱を吸収、放出する機能が与えられている。

また、その能力故に体が非常に頑丈である。


「クソ、時間かかった」

シモンはそう吐き捨て、その場に座り込む。

そうして噛まれた左腕を見る。

「きっちり歯形残していきやがって・・・!」

そう悪態をつきつつ、()()()()()()傷を少し眺めた後、篝たちの元へと走り出した。

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