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史的な夜話 その10

作者: 戸倉谷一活

私:あのぉ。

友:はいはい。

私:随分と前の話なんやけどね、夜中にテレビ観とったんですよ。

友:あぁ、寝れんやったんですね。

私:最近の話や無うて、何年か前の話やで。

友:夜中にテレビ観とってどないしたんよ。

私:あれですよ、ヤップ島って言う南の島にさ、石貨って言う、石で造った大きな硬貨があってさ、ビックリしたんよ。

友:あぁ、ヤップ島の石貨言うたら、有名でんがな。

私:知っとったんかいな。

友:ちょっとだけ知ってるって言うだけで、詳しくは知らんし、近所の図書館行ったって、丸々一冊ヤップ島を紹介した本が有るわけで無し、石貨を論じた本が有るわけで無し、プリント一枚分ぐらいの知識しか無いよ。

私:まぁ、知らんねやったらしゃぁないけど、知っとる事ってなにがあるんよ。

友:知っとること言うたら、約千年の歴史があるんやな。単純に千年前言うても具体的な時期ははっきりせんらしいけど、その頃からこつこつと造ってはってんから、偉いよなぁ。

私:でも、石からあないな大きいもん造るって、結構な技術が要るんちゃうんけ。

友:それを石斧とか、簡単な道具だけで造っとったみたいやで。

私:あの、はじめ人間ギャートルズってアニメ、昔あったやないですか。あの世界観そのまんまやないですか。

友:わしに言われても知らんけど、金属の工具とかはなかったみたいやな。

私:仮にな、金属の工具があったとしても、石削って、割って、丸うしよう思たら、結構な時間が必要やで。どないしたんやろうな。

友:毎日こつこつ削ってはってんやろうなぁ。その石貨の価値って言うんが、単に大きさだけや無うて、その制作にかかった手間暇、労力と時間みたいなんが価値に加わるんやな。

私:と、言いますと?

友:だから、ヤップからパラオまで何人で出かけた、制作に何日かかった、運ぶのにどれだけの苦労がかかった、そないな細かい苦労話も混みで、石貨の価値が決まるんやな。

私:今、パラオって出てきたけど、パラオって何?

友:パラオって言うんは、ヤップ島から約五百キロほど離れたところにある、島というか、今はパラオ共和国って言う国になっとるんやけど、幾つかの島でパラオ共和国を構成しとるんやな。

私:そうなんや。でも、五百キロって、間にあるのは海やろ。どないして運ぶねん?

友:筏に乗せて運んだらしいで。

私:筏って、テレビで観た石貨って結構大きかったで。あないなもん、筏で運べるんかいな。

友:最大で直径三メートル、重さ五トンもあったらしいで。

私:そないなもん、筏で運べるけ?

友:そないに言うけどな、大坂城の石垣かて、百トン超すやつもあるんやで。それを小豆島とか、あの辺りから運んではるんやから、ヤップ島の皆さんも運ばはるよ。筏で。

私:小豆島から、百トン超す石運ぶって、凄いよなぁ。感心するわ。

友:感心してくれ。まぁヤップ島の皆さんも、あれこれ頑張って考えはってんやろうなぁ。

私:でもよ、何が嬉しいて、そこまでして石貨を造ろうとか、思わはったんやろうな。

友:そこが、疑問というか最大の謎なんやな。

私:謎なんや。

友:千年ぐらい前に、誰が何をきっかけに石貨を造ろうと言い出したか、そこは記録が無いみたいなんやな。

私:ほな、永遠の謎かいな。

友:ここからは推測なんやけどな、ヤップ島にヨーロッパ人が初めて辿り着いたんは、一五二五年なんやって。

私:大体五百年前やな。

友:単純に思たんは、ヨーロッパ人、この一五二五年にヤップ島へ上陸したんは、ポルトガルの探検隊やったらしいねんけど、その探検隊の人らがさ、自分達が普段使とる硬貨をヤップ島の人達に見せて、こういう形の金属が価値があるんやで、みたいな話をして、ヤップ島の人達がさ、似たようなもん俺たちも造ろうぜ、言うて一致団結して材料の石を探しに行った、パラオに程よい石があった、みたいな話を考えたんやけど、ヤップ島の人達がヨーロッパ人と出会う五百年も前から石貨を造ってはったって言うから、この仮説は捨てなあかんわけと。

私:長々とご苦労さん。

友:ちょっと待ってや。喉渇いたから、お茶を一口……

私:ぃゃ、わざわざ断らんでも、飲んだら宜しいがな……

友:あぁ、ホッとした。

私:よござんしたね。

友:ヨーロッパ人がヤップ島へ行く前に、誰かが硬貨の形を教えたやつが居るんやないか、そない思うんやな。

私:もしかしたら、神様がやな、ヤップ島の少年にやで、丸いもんを造れ言うて、お告げをなさったやもしれへんやんか。

友:そないなことが答えやってみぃな、わし、ここまで長々喋ったんはなんやってん。ただの無駄やんけ。

私:思い付いて言うただけやんけ。

友:今!今、思い付きで物言う場面や無いやろうが!

私:すんまへんなぁ……

友:まぁ、宜しいけどな。でも、ヤップ島の位置がフィリピンの東で、うんと遠いわけよ。

私:実際の距離はなんぼやねん。

友:測る気ぃも無いよ。

私:ぃゃ、測れよ。

友:思い出してんけど、昔、中国に徐福って言う人が居ってんけど、この人は秦の始皇帝の時代に船乗って、蓬莱を目指したという話が有るんやな。

私:待てや。秦の始皇帝って、それこそ遠い昔の話やろ。三国志よりも前の時代やろ。

友:紀元前何年やったか、それぐらい古い話やで。

私:ほな、話し合わへんのとちゃうんけ。

友:もう一人、鄭和って言う人が居って、一四〇五年から一四三三年までの間に合わせて七回、海外へ出かけとるんやな。

私:それでも、千年前にはならへんやん。

友:鄭和の遠征って、船をたくさん引き連れて、インドからアフリカの方へと行ってるんやな。貿易が主な目的やったらしいねんけど、Wikipediaで鄭和のところ読んどったらさ、東アフリカで唐の時代の硬貨が見付かってたりするらしいし、中国の人達って思ってるよりも早くから海外へ行ってたんやろうな。

私:シルクロード、海のシルクロードって言うんを聞いたことが有ったよな。

友:唐の時代、宋の時代って海を使た貿易も重視してみたいで、南アジア、東南アジへ商人が出かけとったみたいなんやな。

私:結構遠くまで行ってはってんやな。

友:さっきあんたが言うとった、海のシルクロード、遠くまで中国の人は旅してはってんけど、今と違て、陸地に沿って船を進めてはってんけど、そういう商人の中には、未知の国とか島とか、そういうのを探して全くとんちんかんな方向へ船を進めた人も居ったかもしれへんし、台風とかなんかに巻き込まれて、ヤップ島へ辿り着いた人も居ったやもしれへんよな。

私:はいっ!お茶の時間です!

友:ぃゃ、大丈夫やし……

私:言い出したら、なんぼでも仮説立てられるやん。

友:これ以上、思い付かんよ。

私:でも、ヤップ島でその辺の地面掘り返したら、千年以上前の、それこそ唐やら宋やらの硬貨が出てきたら面白いやろうな。

友:世界史の教科書、ちょっとだけ書き換えることになるやろうな。

私:わしは知らんし。

友:まぁ、でも、もうちょい図書館とかにヤップ島とか、パラオ共和国に関する本があってもいいようには思たよ。

私:あんたの注文ばっかし聞いとったら、図書館、歴史の本だけで棚一杯になるで。

友:そやから、図書館にはなんにも言うてへんし、欲しい本有ったら古本屋で探して買うとるがな。

私:あんたの枕元、積ん読状態になっとるし。

友:でもよ、誰がヤップ島の人達に石貨を造るきっかけを持って行ったんか、気にはなるよなぁ。

私:そう言えば、ヤップ島の石貨って真ん中に穴が開いてますやん。今で言うたら、五円玉や五十円玉みたいに、あれはなんでよ。

友:あれは単に、運びやすいように、あの穴にやな、棒を通して転がしたり、担いだりしとったみたいやで。

私:五トンの石貨を担ぐんかいな。

友:五トン言うんは、あくまでも最大の石貨であって、基本は一メートルぐらいの大きさとか、確かそれぐらいや無かったかな。

私:それでも一人で運ばれへんやろ。

友:島の人達で、わっしょい、わっしょい言うて運んどったんちゃうんか。

私:賑やかで宜しいがな。

友:ヤップ島の人がな、わっしょいわっしょい言うとったら問題あるやろ!突っ込めや!

私:無茶苦茶言うし。

友:さっき、パラオ共和国の話、出たやないですか。

私:石貨の材料が有る島やったっけ。

友:あそこには戦前、日本人が移住して、今でも日系の人が居るんやで。

私:へぇ~。

友:そいでもって、日系二世の政治家やら、大統領やらがいて、活躍してはるんやな。

私:わし、寒いん嫌いやから、今からパラオでも行こうかな。

友:行くんはかってやけど、まず、パラオの言葉を勉強してから行きなはれや。それに地球温暖化が進んどるから、赤道に近いところ行ったら、あんた、溶けてまうだけやで。

私:ほな、やめとこ。

友:まぁ、あれやで、世界は広いし、まだまだ謎はあるし、その謎にも多くの歴史があるってことで、どうや、あんたもちょっと歴史に興味、持ったやろがぃ?

私:無理無理、わしは漫画で充分や。

友:ほな、面白い歴史の漫画紹介したろか?

私:やめてぇ~。

友:あかん、逃げてもうたし……

 それにしても四角でも無ければ小判型でもなく何故、ヤップ島の石貨は硬貨と大差ない形状となったのでしょうか?

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