第五話『ギルド追放』
勇者様のいるギルドに到着すると、ギルドマスターから呼び出しを喰らう。
受付の人はすぐにギルドマスターと勇者様の元へ案内する。
「エレノア様、お久しぶりです。元気しておりましたか?クロノ君、初めまして勇者のアレスです」
「初めまして、クロノ・トリガーです」
この勇者と、エレノアは知り合いなのか。王国の騎士といい、村の勇者様といい大物と人脈ありすぎだろ。そんな凄い彼女に命救って貰ったのか。俺、運良すぎだろ。
「クロノ君、キミは村を襲う盗賊を討伐したとアーサー様から話は聞いてるよ。更にチートスキルをギフトされると伝説の異世界転生者だってのは本当かい?」
「チートスキルをギフトされたかは分かりませんが、一緒にいるエレノアやグランデさんと一緒に盗賊を討伐したのは本当です」
「アレス、クロノはここに来てまだ日が浅いの。分からないことだらけだからギルドに入れて色々教えてあげて?腕があるのは確かなの」
エレノア....。僕を勇者様のギルドに入れてもらえるよう協力してくれている。どこまで良い娘なんだよ。
しかし、浮かれている場合じゃない。アーサーが直々に勇者様に推薦してくれたとは言えギルドに入れてくれるとは限らない。ましてや、俺のスキルは今の所黒い煙を出すことと肉体強化?ってことしかわかっていないのだから。
「そうなんですね。そしたら、クロノ君、いきなりで悪いんだけど君の能力を見せて欲しいんだ」
「能力を見せる?もしかして、アレスさんと練習試合みたいな感じで能力を見せ合うとかですか?」
「あははは、アーサー様から話は聞いてたけど、君面白いね。実は、先ほど魔族の者が村の近くに出現したと報告を受けてね。君に討伐をお願いしたいんだ」
「ま、魔族!?俺1人でってことですか?流石に勇者様かグランデさんと一緒にですよね」
「アレス、いくら能力を見たいからって異世界にきていきなり魔族と戦うなんて危険過ぎる」
「エレノア様、僕もそこまで鬼ではないですよ。出現した魔族はどうやら弱っているそうだ。そこら辺の雑魚モンスターと同じくらいの強さだし、盗賊を討伐した腕があれば容易に倒せるレベルですのでご安心を」
この勇者の言うことは冷酷だが、ごもっともだ。
勇者様のギルドってことは街の治安を守る上でとても重要な戦力組織。
そんな組織に雑魚が入ったら村を守る前に足手まといのことを守りながら戦うことになる。これは避けたいって思うのは普通のこと。
ここで魔族を倒すことができたら念願の勇者様のギルドに入ることができる絶好のチャンス。
前向きに捉えるとしよう。
「分かりました、エレノア安心してくれ!俺は魔族を倒す」
「....でも」
俺のために心配してくれている。
彼女の表情は不安で押しつぶされ引きつっている。彼女の不安を取り除くためにも俺は勝たねばならない。
「いきなり魔族と戦うのではなく、まずはギルドマスターにクロノ君のステータスを鑑定してもらう必要がある。弱いのに魔族と戦えなんてことは言いたくない」
「安心してくれよ、俺は伝説の異世界転生者。最強のスキルが付与されているはず」
俺はギルドマスターの能力を鑑定されている。自分でも、黒い煙を出せることと肉体強化されていることしか分かっていないから、これを機会に自分の力を知れるのはありがたい。
ーーースキルの鑑定終了
「....闇の具現化?」
俺は思わずガッツポーズする。
闇を扱えるスキルってことか?まだ今の状況は呑み込み切れていないが、ゲームやアニメでも闇属性は大体最強だし大当たりと言っても過言ではないはず。
俺はそう考えていると笑い声が聞こえてくる。
「あははは、伝説の異世界転生者が現れたってアーサー様から聞いてたから期待して結果を待っていたら、まさかの魔王の雑魚兵と同じスキル<闇の具現化>だと?滑稽すぎるわ」
ギルドいっぱいに、嘲笑が響き渡る。
俺のスキルは魔王の雑魚兵と同じスキル...?大外れってことか?
「アレス、笑い過ぎ!クロノは盗賊を討伐した村の恩人なのよ?失礼すぎじゃない?」
「エレノア様、そうでしたね、大変失礼しました。クロノ殿、君がまだギルドに入ることを希望しているのであれば魔族討伐に成功したら参加を許可しよう」
このまま馬鹿にされたまま終わりたくない。
魔王の雑魚兵と同じスキルと言われて結構ショック受けたけど、自分の為、そしてエレノアの為にも俺は勇者のギルドに入らないと次に進めない。
俺は勇者様に魔族がいる場所まで連れてきてもらった。
観客には勇者様のギルドメンバーに村人、エレノアとグランデさんがいる。
「クロノ君、君にはあまり期待していないからヤバくなったらすぐにSOSサイン出すんだ」
「勇者様?流石に俺をみくびっては困りますよ」
草むらが動く。噂の魔族か!?
異世界に来て初めて魔族の討伐に心臓のバクバクと震えが止まらない。
やはり、内心は恐怖を感じているのだろう。身体って本当に素直だよな。
「魔族だ」
仕方ない。俺に危害を与えていない魔族を人間の都合で命を奪うような真似してごめんな。
ゲームだったら躊躇うことなくレベル上げの為にモンスターを次々倒すが、現実世界でってなると命を奪う罪悪感が半端なかった。
「俺に力を貸してくれ闇の具現化!!!」
俺が全身に魔力を込めている時に草むらから何かが現れた。
魔族だ。しかし、自分が想像していたものとはかけ離れており見た目は完全に人間とほぼ変わらない。
年齢は16歳くらいの青年に見える。
「勇者様、この人、魔族じゃなくて人間じゃないのか?」
「こいつは魔族だ。数々の証拠がある。話によると村人を襲っていたところを目撃されたとか」
本当に魔族なの!?見た目はマジで人間だ。
仮に魔族だったとしても見た目が俺らとあまり変わらないから人間を殺すような錯覚に陥ってしまう。
しかし、この魔族を倒さないと勇者様のギルドに参加はできない。
「許してくれよ、ごめんな」
俺は手にありったけの魔力を込め魔族に不意打ちをかけようとした。
魔族もいきなりの襲撃に驚いていたが、俺の手は魔族の顔まで残り10m付近で手を止めてしまった。
(この魔族を倒せる訳ないじゃん。見た目はマジで青年だし、俺に殺す度胸はない)
俺が攻撃をためらってしまった数秒が仇となった。
魔族もこの隙を見て俺を殴って姿を消した。俺は情けなくも吹っ飛ばされ取り逃した。
「クロノ君、君にはアーサー様からの推薦ってこともあり期待していたのに残念だ」
「お前はクビ、ギルドから追放だ。更に魔族を逃した罪は大きいぞ?」
は?何だよそれ。魔族を取り逃した罪はデカい?
ふざけんのも大概にしろよ。俺は怒りで我を失いそうだった。
周りの観客も俺を嘲笑い、その場を立ち去った。
「クロノ君、君は二度とうちの村には来ないでくれ。アーサー様の顔に泥を塗っただけではなく、魔族を逃し村の治安まで乱した。君はもしかして魔王の使い手なんじゃないかい?」
「テメェ、黙って聞いてたら」
「クロノ!!少し下がって、アレス流石にこれはひどいんじゃないの?」
俺は村人の信頼も失い、勇者様のギルドからも追放された。
俺はエレノアの前でかっこいい男を演じたかった。
情けなくも、この無力な自分に対しての怒りと侮辱された悲しみで涙を流してしまった。
「クロノ殿、あまり気になさらず、他の道が必ずあるはずです」
グランデさんは僕に優しく声をかけてくれた。
行き場のない異世界転生者の僕を救ってくれた優しい彼女がいるからこそ、ここまで頑張れた。
いつか彼女を、守ってあげられるような強い男になりたい。
俺の心の炎は再び燃え上がる。
【ご視聴ありがとうございました。】
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