第三話『初めての魔術』
異世界で初めて人との交流。
見ず知らずの俺に優しくしてくれて心が温かくなった。
今日は彼女に必ず恩返しをする。今まで何事にも逃げてきた俺が人生で初めて何かを成し遂げようと覚悟を決めた日だ。
「グランデ、ここの宿から勇者様のいる村まで歩いてどのくらいかかる?」
「そうですね...歩いて4時間というところでしょうか」
「歩いて、4時間!?20kmも距離あるのか!?車や自転車で行かないのか!?」
「クロノ、じてんしゃ...って何?」
やはり、自転車や車はこの異世界にないのか。
異世界にそんな科学的なものある訳ないよな。
「あ〜じゃ、あれだ、魔法は使えるんだろ?テレポートとか高速移動とかはできないのか?」
「そんなこと出来たら苦労しないわよ、私にできるのは治癒魔法と光のちょっとした魔法くらい」
「マジかよ....グランデさんは?エレノアの執事なんだし移動系の魔法は使えそうだけど」
「クロノ殿、お恥ずかしながらエレノア様を守るのに特化した自己強化魔法しか使えませぬ」
マジかよ。俺はこの絶望的な状況に唖然としてしまった。
流石に、このまま4時間も勇者のいる村まで歩くって現実的じゃないよな。
正直、弱音や文句を山ほど言いたいけどエレノアには命を救ってくれた恩がある。ここは頑張って乗り切るしかないよな。
ーーー
歩いてどのくらい経っただろうか。異世界の住人であるエレノアとグランデさんは涼しい顔して歩いているが俺は犬みたいに舌を出しながら今にも倒れそうになりながら必死に歩いてた。
正直、体力の限界を感じている。
「皆さん気をつけてください何か来ます」
グランデさんの声が森に響くと同時に森の鳥が一斉に羽ばたく。
いきなりの忠告に俺は心臓のバクバクが止まらない。
何かが来る。
「お前ら、金目のものをたくさん持ってそうじゃねぇか。大人しく金目のものを渡したら命だけは助けてやるよ」
何で、こういう時に限って盗賊と出くわすかね。相手の数は4人だから数はそこまでだが。
グランデさんは自己強化の魔法って言ってたよな。俺とエレノアはグランデさんの後ろで待機して、盾になってもらったほうがグランデさんも俺らのことを気にせず戦えるし俺とエレノアは怪我しなくて済むし一石二鳥じゃね?
「おい、盗賊!俺が何者か分かっていて襲っているんだろうな?」
「何だ、テメェ?」
俺の馬鹿。俺は好きな女の子の前では自分の能力関係なくカッコつけたくなる癖がある。
今回はそのお調子者の性格が裏目に出た。
控えめに言って最悪です。
「何だお前?雑魚そうじゃねぇか。女の子の前だからってカッコつけると痛い目見るぜ?」
「馬鹿が、俺が異世界転生者だって分かって喧嘩売っているんだよな?」
「い、異世界転生者?嘘だろ、チートスキルをギフトされるっていう伝説の?」
盗賊は俺が異世界転生者と知って動揺してやがる。
やはり、この国では異世界転生者=最強って常識が定着しているようだ。
「そうだよ、あの伝説の異世界転生者だ。このままだとお前ら生きて帰れねぇぜ?」
「ま、マジかよ、どうしますか兄貴?」
良いぞ良いぞ!このまま異世界転生者という看板に怯えてこのまま目の前から消えてくれ。
「クロノ、何か魔法やチートスキル使えるって自覚あるの?」
「エレノアさん、そんなのある訳ないじゃないですか。ハッタリですよ」
一番、良いのはこのまま戦闘せずに盗賊がチキって逃げ出すことだ。
しかし、本当に俺にスキルは付与されていないのかな。
異世界転生といえば、この国の伝説にもあるように普通、チートスキルの1つや2つくらいギフトされるよな。
「お前ら、チートスキルだろうと関係ない。どちらにせよ俺らの運命はここで勝つ以外最悪。
ここでコイツのチートスキルに負けたら死ぬ、逃げ出しても警察に人を襲った罪で捕まる。今死ぬか、後で死ぬかの違いだ」
盗賊は一心不乱に俺らにナイフを向けてくる。
マジかよ、確かに俺も金に余裕ない時はリスクを取ることは怖くなかったし金を稼げるなら何でもやってやると無茶してたし、この盗賊たちは今そういう状況下にいるのだろう。
「エレノア様とクロノ殿に怪我をさせるわけには行かない。限界突破」
グランデさんの肉体は一気に筋肉を何倍も大きくなり魔力が一気に高まるのを感じる。
盗賊のナイフは擦りもせず盗賊の2人を相手にする。
「クソッタレが、ここで終われないんだよ....この雑魚そうな男と女を人質にしてやる」
「怪我しても知らないぜ?俺は異世界転生者、クロノ・トリガー様だ」
いやいや、ここで俺のハッタリが効くような状況じゃない。
しかし、俺が意識失っている時にグランデさんは体内の魔力が尽きているって言ってたよな。
俺にも何かしらのスキルや魔法はあるはずだ。
「死に晒せや」
「クロノ下がって!あまり戦闘は得意じゃないけど私が時間を稼ぐ」
1週間、意識失っている間に看病してもらい人生で初めて手料理を振る舞ってくれた恩をまだ返せてない。自分の大事な探し物より俺の看病を優先してくれた。
ここで盗賊1人や2人倒せなければ俺のプライドが許せない。
「俺は最強のチートスキルでお前らをぶっ飛ばす」
俺は全身全霊で、ありったけの魔力を出すように力んだ。
盗賊の殺気、死ぬかもしれないという恐怖で...恐怖で身体が緊張する。
大丈夫、自分を信じろ。アニメや映画の世界で異世界転生者はチートスキルが与えられるのはお決まりだ。
魔力を放出するのを意識していると何か背中あたりがモゾモゾしてきた、これは。
「何だよこれ」
あたり一面を黒い煙のようなもので視界を奪う。
当然、俺自身も何も見えないがこれで反撃するチャンス。
「エレノア、俺が間違えて攻撃しないように後ろに下がってて」
盗賊は俺の魔術?に動揺している、今が絶好のチャンスだ。
盗賊たちが動くより先にクロノの先制攻撃が入った。
背後を奪い渾身の右ストレート。盗賊の鼻面を見事に直撃。
相手の歯が当たったせいか俺の拳から血が出る。
(喧嘩なんて生まれて初めてだ。人を殴るって意外と痛いんだな)
これは異世界転生して肉体強化されているからなのかは、よく分からない。
殴られた盗賊は地面に倒れて動かない。そのまま勢い任せて、黒い煙で視界を奪われ状況を理解していない混乱した男に前蹴りを入れる。
「これが地元で有名な前蹴りだ」
「がはっ!」
相手は俺の前蹴りが急所に当たり悶絶していた。
体制が崩れたところで背負い投げをして地面に叩きつけた。
死ぬ覚悟で盗賊に立ち向かったが思いの他、圧勝してしまい「俺様、最強」が確信になりつつある。
グランデさんも残りの盗賊の討伐に成功している。
「俺も他の異世界転生者と同様に強い設定か!アドレナリンが止まらないぜ」
「大丈夫でしたか?エレノア様、クロノ殿」
「大丈夫よグランデ、それよりもクロノあんた結構強いのね」
この能力があれば、エレノアに恩返しもできそうだし、このまま一緒に旅をさせてくれるんじゃないか?そんな期待と自分の強さの確信に伴う喜びでクールキャラが崩壊しそうだ。
こうして見事、俺は初めて戦闘で魔術を使い盗賊の討伐に成功。
「君たち、今、黒い煙と何か人の叫び声とか聞こえたけど」
馬に乗った、見た目は何か警察や兵士のような身なりの男が話しかけてきた。
その男は俺たちを警戒し何かしたら返り討ちしてきそうな優しさと残酷さを兼ね備えてる。
緊迫した空気に緊張感が走る。
盗賊を倒し浮かれた俺に更なる試練が襲い掛かる。
【ご視聴ありがとうございました。】
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