第一話『転生』
何のために生まれてきたのだろうか。
大学を卒業後は、大手証券会社に入社をし充実した日々を送っていた。
どこで人生を踏み外したのだろう。給料は悪くなかったし、仕事にやりがいはあった。ただ、残業時間は月に45時間を超え多い時で、月に100時間を超え会社で泊まり込みの日もザラにあった。同期は1年で半分が辞め3年目には2割も残っていなかった。これは異常な環境だと早く気づけばよかった。
俺の体はブラックな環境に耐えきれなくなり適応障害になり32歳にして無職になった。仕事を辞めて数ヶ月は失業手当をもらいながら求職活動を行いハロワにも定期的に行く姿に親は応援してくれた。
しかし、何とか書類選考を通過するも新卒で入社した会社で上司に怒鳴られたり厳しいノルマに追われていた日々がフラッシュバックして面接になると途端に震えや冷や汗が止まらなくなり何社も落とされ自己肯定感もズタボロになり俺は完全に家に引きこもるようになった。
飯食ってクソして寝るを繰り返す日々。刺激も何もない。
仲良かった友達も招待された結婚式を俺がブッチしてから縁が切れてしまった。彼女すらできたこともない引きこもりニートの俺を結婚式に招待するなんて見せ物にして笑いものにしたいだけだろ?馬鹿馬鹿しい。
こんな強がりしつつも本当は嬉しかったんだ。俺の友達が大切な人ができて結婚して幸せな家庭を築く未来を見ていることが。でも、友達の結婚式に招待されているのは何も俺だけじゃない。俺の知っている同級生や同じ会社の人、俺の知らない友達もいるだろう。その中に社会の歯車から外れた童貞の引きニートなんか場違いすぎるだろう。
現状を変えないと、このままではまずいことになる。頭の中では分かっている。
分かってはいるけど行動できない。
就職活動もトラウマでできなくなっている。
親は後、3年もしない内に定年を迎え年金生活になる。こんなお荷物、親不孝の何者でもないだろう。生活費や食費、光熱費全て親の金に金に寄生している。
兄貴は結婚して、親に仕送りを毎月していて孫の顔も見せており俺とは正反対だ。
俺が輝ける世界は現実世界にはなくFPSの「APEX」でゲーム仲間の女の子をキャリーしてあげている時くらいだろう。APEXをしている時は無敵になれている気がする。俺は毎シーズン、プレデターだ。
あ、でも、シーズン13と16の時だけは調子が悪くてマスター止まりだったな。
俺はいつも通りゲーム仲間とフルパでAPEXのランクマに潜り2時間くらいした時に小腹が空き
「わり、俺ちょっと小腹空いたから一旦抜けるわ」
「あいよ!お前が俺らのパーティで1番強いんだから早く戻ってこいよ」
現実世界では腫れ物扱いだけど、ゲームの中では英雄なんだよな。
プロゲーマー目指すのもアリだよな。
いや、そんな簡単な世界ではないか。
昔からよく好きなことは仕事にするなって言うもんな。
早く、コンビニで買い物済ませて家に帰ってパーティーに戻らないと。
アイツらは俺がいないと何もできないんだから。
「うわ、最悪だ。雨も土砂降りだし風も強い。」
こう言う時に限って天気が悪い。
傘を差しても壊れるだけだから差さずに走ってコンビニまで行くか。
子供が土砂降りの中、チャリを全速力で漕いでいる。
俺も子供の頃はあれくらい雨とか気にせず外で歩いてたりチャリを漕いでたっけ。
俺も人生を小学生までやり直せてたら、この未来を変えることができるだろうか。
子供は雨の中、早く家に帰りたかったのだろう。
赤信号を無視して漕ぎ続けていた。
(流石に危なくないか?あの子の親はどんな教育してんだよ)
そんな、人のことを言えないようなことを考えているとトラックの大きなクラクションが鳴る。
子供が轢かれそうになっている。
俺が助けなければこの子は死ぬのは確実だろう。
しかし、ゲーム仲間にすぐ家に帰ってAPEXやる約束をしている。
今、死ぬ訳にはいかない。
いや、ここで自業自得とはいえ、この子供を見殺しにするのは後味悪い。
何もこの子を助けたからって俺が死ぬとは限らない。
そうこう考えている内にどんどんトラックは子供に接近する。
後悔が残る選択肢はもうしたくない。
俺は気づいたら走り出していた。
引きこもってまともに運動していないのがここで裏目に出た。
足がミシミシいって肉離れしそうだ。
子供まで50mもない、人助けなんか楽勝じゃねぇか。
俺は子供を車道から歩道まで突き飛ばした。
人助けをして清々しい気持ちで俺の好きなAPEXをしよう。
そんなこと考えていると強い車の光が俺の視界を奪う。
「お兄ちゃん」
子供が俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺のこれまでの人生が脳裏を駆け巡る。
よりによって何で新卒で入社したブラック企業の証券マン時代が蘇るんだよ。
本当に数十秒の出来事だった。
これが走馬灯ってヤツなのか。
俺は大型トラックに轢かれ地面に叩きつけられ数メートル轢きづられた。
左腕は潰され頭は割れるような痛み。
血で視界が奪われ何も見えない。
まだ意識はあるようだが俺の人生はこれで終わりなんだろうなと悟った。
「おい、兄ちゃん大丈夫か?こりゃ最悪だよ。」
「お兄ちゃん僕が信号無視したせいでごめんなさい」
「チッ!とにかく警察と救急車だ、会社の上司にも連絡しないと」
俺のおかげで子供の未来は守られたようだな。
引きニートの俺が生き残るより若いこの子が生き残った方が日本の未来は明るいもんな。
意識が遠くなっていく。
俺は死んだと思ったが何故か生きていた。
どれだけ眠っていただろうか、目が覚めると白髪の女の子がこちらを見つめている。
絶世の美女が強張った顔から俺の意識が戻ったことに気づき、表情が緩み笑顔になった。
(え!?てか誰??)
女の子の隣には明らかに人間じゃない獣の2足歩行する生き物がいる。
これってもしかして噂に聞く異世界転生!?
【新連載です!ご視聴ありがとうございました。】
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