61 番外編15 ぱんぷきん!
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ちょっと短いですが……ぱんぷきん!
「♪ぱ、ぱ、ぱ、ばんぷきーん」
玄関に入ったところでアナの歌声が聞こえて来て、一日の疲労がじんわりと癒されるのを感じながら顔を上げると、エントランスの真ん中にでかでかと鎮座していたかぼちゃと目が合った。
「……」
もう一度言う。かぼちゃと、目が合った。
ゆうに二メートルは超える巨大なオレンジ色のかぼちゃに、三角の黒い目と鼻、そしてギザギザの口が貼りつけてある。その目と、目が合った。
帰宅直後のシリウスの度肝を簡単に抜き取ったそのかぼちゃの後ろから、アナがジェノベーゼと一緒に歌いながら姿を現す。かぼちゃが大き過ぎてアナが完全に隠れていたが、そこにいたらしい。
「♪ぱ、ぱんぷきーん。ぱ、ぱ、ぱ、ぱんぷきーん」
「……これは、一体……?」
ぽつりともれた声は歌うアナに届いたらしく、こちらに気づくと満面の笑みで駆けてきて、いつものように足にしがみついた。
「ぱん、……パパー!」
パパが若干パンプキンに引きずられ、危うくパパをパンプキンと言い間違えるところだった娘を抱き上げて、意を決してかぼちゃへと近寄った。
「このかぼちゃはどうした? オブジェなのか?」
ごつごつした表面に手で触れてみる。それが本物のかぼちゃであることが判明してより驚かされた。噂には聞いたことがあるが、これほど大きなかぼちゃははじめて見る。
「お化けかぼちゃか? こんな大きいかぼちゃ、どうした? 買ったのか?」
「ぷれぜんと!」
なんてはた迷惑なプレゼントだろう。明らかに食用でない、場所を取るだけのかぼちゃを、どうしろというのか。現に二階へと伸びる螺旋階段の端を塞いでしまっている。なぜそこに置いたのか。
「誰からのプレゼントだ?」
「やしゃいやしゃんー」
「野菜屋さん……?」
いつも新鮮な野菜を運んで来てくれる野菜の卸売り業者の荷馬車の大きさを思い起こしてみたが、このかぼちゃを積み込んだらほかの野菜は載らないだろうし、そもそも荷馬車に積み込めるのだろうか。これは重さも相当なものだろう。
そしてなにより気になっていたのは……。
「この目と口はどうした?」
「おかおなのー」
「いや、それはわかっているが、なぜこんな不気味な顔にした?」
「ていばんの、おかおなのー」
アナの中ではこれが定番の顔らしい。もっとかわいい顔にならないだろうかと思ったが、元がお化けかぼちゃなのでどうしたってかわいくはならないことに気づいて思考を止めた。
「おなまえはねー、じゃっく! じゃっく、おー……おらん、うーたん」
ジャック・オラン・ウータン。なぜだ。
「猿っぽく見えるのか……?」
「おしゃるしゃん、やー……」
だったらなぜオランウータンと名づけたのか。
「ていばんの、おなまえなのー……」
だからどこの界隈の定番なのか。
「ぐすたふがー……」
「グスタフの言うことは話半分に聞くようにしなさい」
全部聞き流してもいいくらいだ。
そんなことよりも。
「執事長!」
呼ぶとすぐに執事長が顔を出したが、その腕にはかぼちゃが抱えられており、おかえりなさいませ、と言いながら一歩遅れて姿を見せたサフィニアの持っていたバスケットにも、小ぶりのかぼちゃがごろごろ詰まっていた。
「私が知らないだけで、世間的には今日はかぼちゃの日かなにかだったのか……?」
「今日はかぼちゃパーティーの日です」
サフィニアの言葉にさらにわけがわからなくなったところで、アナが口を挟んだ。
「やしゃいやしゃん、こまったこまったなのー」
「野菜屋さんが、かぼちゃを仕入れ過ぎて困っていたのか?」
頰に手を当てて困った困った言うアナに微笑みながらサフィニアが答えた。
「どこかのお家からかぼちゃ百個の発注を受けて仕入れたそうなのですが、納品の際に相手方の発注ミスで実際必要だったのは十個だったと判明したらしくて。残りの引き取りを拒否されたとあまりに困っていらしたので、こちらで在庫を買い取ることに決めました。なので今日はかぼちゃパーティーの日なのです」
「すいぶん思い切ったな」
シリウスなら発注ミスをした家に乗り込んで行って有無を言わさずすべて買い取らせただろうが、そうなっていたら発注ミスをおかした者は職を失ったかもしれず、かぼちゃも腐って終わったかもしれない。
「とてもいいかぼちゃですし、普段よりもお安く手に入るのならむしろお得かな、と思いまして……。よかったでしょうか?」
躊躇いがちに訊かれ、いいのではないか、とうなずいた。それくらいのことはサフィニアが好きに決めて構わないし、かぼちゃ百個くらいでぐちぐち言うほどのことでもない。それに執事長がなにも言わなかったのなら、消費できる算段があったのだろう。余ったら使用人たちに現物支給してもいいわけで、人に親切にして悪いことなどひとつもない。サフィニアの助け合いの精神は正しい。
「かぼちゃは料理だけでなくお菓子にもなるので、アナは大喜びでした」
「ぷりん! けーき! かんろに!」
甘露煮がお菓子かはさて置き、この娘はお菓子と野菜が好きな変わった子なので、かぼちゃは好物に入るだろう。
「あまいものはほどほどにしなさい」
「しぜんの、あまみー」
確かに砂糖たっぷりのお菓子よりはいいかと、小言はそれだけにしておいた。
ひとまず話を聞いてかぼちゃパーティーまでは概ね納得したが、そこに黙って佇んでいるお化けかぼちゃについてはまだ納得できていない。
「状況は把握したが、これは?」
「あなのなのー」
「アナのなのはわかったが、これは? プレゼントとは聞いたが……」
「ええ。そちらはご厚意で」
「ご厚意?」
「あな、おっきーかぼちゃ、みたかったのー」
見たいと言ったら持ってきてくれるのは、普通のことなのだろうか。特別待遇ではないのだろうか。どこまでもかわいいは正義理論が浸透している。
「♪ぱ、ぱ、ぱ、ぱんぷきーん」
お化けかぼちゃに創作意欲を刺激されて新曲を誕生させたアナは嬉々として歌う。
「食事はこれからか?」
「はい。今日は夕食に間に合うと聞いていたので、アナと一緒にお待ちしておりました」
「かぼちゃくろけっとー」
「それはおいしそうだな」
サフィニアの視線が一度ジェノベーゼへと逸れたが、幸いにもジェノベーゼは気づいていないようなので、くわっとなる前に移動を促した。
「では、みなでいただくか。かぼちゃを」
「うんー!」
アナが元気な返事をして、サフィニアが微笑みながらうなずく。
橙色に染まった食卓は各種かぼちゃ料理が並べられ、あまいかぼちゃに全員で舌鼓を打った。
当然だが、かぼちゃパーティーは一日で終わらず、そのまま一週間続いたのだった。
シリウス→食に特にこだわりなし
サフィニア→食べられるだけで感謝
アナ→おやしゃい、おいしー
一週間かぼちゃ尽くしでも誰からも不満の声があがらない平和なバロウ家
ハロウィーンにも番外編更新予定です!




