95ーコッコちゃんはお友達
「ロロはまだ小さいから仕方ないよ」
そんな風に、レオ兄から言われる度に情けなくて胸が締めつけられた。
だけど、みんなの生活リズムが決まり、それが当たり前になると共に俺も落ち着いてきたのだ。
マリーと一緒におやつを作ったり、刺繍をしたり、家の前でピカと日向ぼっこをしたり。俺の夜泣きもだんだんと少なくなった。
……なのにだ。
「うぇ、うぇ……ええーん! うえーん!」
ああ、また泣いている。どうして俺はまた泣いているのだ? 寝惚けた頭で考える。
「ロロ、ロロ。大丈夫だ。僕が抱きしめているからね」
「れ、れおにい……びぇ……ご、ごめんなしゃい……うぇーん」
「大丈夫だよ。謝らなくていいんだ。大丈夫だ。みんな一緒だ」
「……ヒック……れおにいぃ」
俺はまた夜泣きしていたのだ。何がそれ程悲しいのか自分でも分からない。
なのに、泣いてしまうのだ。
攫われた事の後遺症か? と、いうとそうでもないのだ。
なんだか、とても心がキュッとなって寂しくて不安になってしまうのだ。
「よしよし。ロロ、良い子だ。何も不安になる事はないよ。みんな一緒だ」
「くぅ〜ん」
レオ兄が、そう言って抱きしめながら俺の背中を撫でてくれる。ピカまで心配してくれている。でも、レオ兄の体温と匂いで安心するから大丈夫だ。
そんな夜の次の日は、決まってマリーが抱っこしてくれる。もうお決まりになってしまった。
「まりー、ごめんなしゃい」
「あらあら、何を言ってるんですか。マリーの役得ですよ」
何が役得なのか分からないけど。俺はマリーに甘えて、お膝の上に乗り抱っこしてもらう。
レオ兄とは違う、体の感触。フワンフワンしている。それに、ほんのりとさっき食べた朝食のオムレツの匂いがするエプロン。何故か、それがとっても落ち着くのだ。
この世界の俺は、母親の温かさも、父親の力強さも知らない。
中身は大人だというのに、情けない。
前世の俺も、肉親の温かみをあまり知らずに育って、そのまま一人暮らしをしていた。
その分も取り戻そうとしているのだろうか? いや、そんなに寂しく思っていた訳ではない筈なのだ。確かに一人暮らしだったけど、趣味を通じて友達もいた。
それでも、この世界の3歳児の気持ちは正直だ。寂しいと……温かみが欲しいと泣いている。前世よりずっと家族らしい温かい家だというのに。
これ以上望んだら、贅沢というものなのだ。
「まりー、ありがと。らいじょぶら」
「そうですか?」
「うん、ししゅうしゅるのら」
「はいはい、じゃあお道具箱を出しましょうね」
「うん」
ディさんに頼まれた刺繍。頑張るのだ。
「そうそう、坊ちゃま」
マリーがお道具箱を出してくれる。
「ユーリアが言ってたんですけど、最近獣が出るらしいのですよ」
「けもの?」
「はい、見た者はいないんですけどね、野菜が食べられているそうなんです。だから獣じゃないかって話だそうですよ」
「えー、たいへんら」
「それに危ないですからね。暫くは1人でお外に出ないようにして下さいね」
「わかったのら」
獣かぁ。何の獣なのだろう? 獣も魔獣や魔魚も、今は産卵や子育ての時期なのだろうか?
お野菜を食べちゃうという事は、食べ物が足らないのか? 森には魔獣がいるから、魔獣より弱い獣達の居場所が無くなってしまったのかな? 何にしろ、気をつけよう。
俺は小さな手の、短いプクプクとした指で一針一針丁寧に針を刺す。ディさんを、守ってくれる様にと思いを込めながら。んー……今の俺の手の動きは、まだ思い通りという訳ではないのだ。それでも、根気よく少しずつ刺していく。
図面で確認する。今回は、大作なのだ。こんなに大きな刺繍を、今までした事がない。
「ふゅぅ……」
「ロロ坊ちゃま、ゆっくりですよ。根をつめると疲れますよ」
「うん、らいじょぶら。細かいから、しゅうちゅうしなきゃ」
「少しずつ刺していきましょう」
「うん」
俺がソファーに座って刺繍を刺していると、コッコちゃんは足元に集まってくる。
「コッコ?」
「クックック」
「ししゅうなのら」
「ククッ」
「コッコッコ」
「おしょとは、いかないのら。あぶないんらって」
「クック?」
「けものがでるから」
「コッコ」
「クックック」
「え、しょう?」
「ココッ」
本当、誰と話してるんだって感じだよ。コッコちゃんが、普通に話しかけてくるからね。
返事をする俺も俺だけど。コッコちゃん達も、もうお友達なのだ。
何をしてるの? お外に行かないの? 良い天気だから気持ちいいよ〜。なんて、話しかけてくるのだ。
獣が出るらしいから、危ないよ。と、言ったら、そういえば昨夜気配がしたな。と、話している。
コッコちゃんは、弱っちいから獣の気配には敏感らしい。
気付いていたけど、その時に鳴いて知らせたりはしなかった。と、いう事は、獣は家がある方へは近付いて来ていないという事なのかな?
「こっこちゃん、はたけのほう?」
「コッコ」
「ぴか、しょう?」
「わふん」
ピカも、そうだと言っている。ん〜、やっぱ出てきているみたいだ。畑のお野菜が目当てなのだろう。
罠でも仕掛けるか? リア姉とレオ兄に頼んで狩ってもらうか?
「れも、夜なんら?」
「ククッ」
「しょっか」
夜中に気配がしたらしい。そんな話をしながら、手は動かしている。チクチクとね。
お読みいただき有難うございます!
ほんわかな日常が続きます。ロロのお友達はどれだけ増えるのでしょう。^^;
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