8ー孤児院
「まあ! このクッキーをロロが焼いたの!? お上手だわ!」
ハンナが孤児院のみんなに出しているクッキーを見て、夫人が驚いている。大げさだ。
形もバラバラだし、飾り気のない素朴なクッキーなのだ。
「まりーのお手伝いしたらけら」
「それでも偉いわ」
「母上、バザーに出したら売れそうですね」
「本当ね、可愛くラッピングしたら必ず売れるわよ。そうそう、今日はそのバザーのお話で来たのよ」
マリーが話していたバザーの事だ。
この孤児院を援助しているのが、領主の伯爵夫人だ。孤児院にもマメに顔を出しているらしい。その嫡男のクラウス様も一緒によく来るそうなのだ。
地域の住民との交流と、孤児院の資金集めも兼ねて年2回のバザーが開催される。勿論、孤児院の子供達も色々売ったりする。
畑で採れた野菜や花、自分達で作った小物等を売ったりするそうだ。
そのバザーには、夫人の好意で食べ物の屋台が出たりする。
孤児院にいる子供達だけでなく、地域の住民も色々持ち合いバザーに出す。其々のちょっとしたお小遣いになるそうなのだ。
「ロロ坊ちゃま、だから気負いする事ないですからね」
「まりー、しょう?」
「はい、そうですよ。それにロロぼっちゃまの刺繍は綺麗ですから」
「まあ! そんなに小さいのに刺繍ができるの!?」
「あい。まりーにおしょわったのら」
「ほんの手習いなんですよ」
「それでも凄いわ! 是非、見てみたいわ!」
「母上、ちょっと落ち着きましょう」
奥様の横に座っていたクラウスが口を挟んだ。伯爵夫人のフロレンツィアは、テーブルに身を乗り出して俺にググッと迫ってきていた。
ちょっと俺、引いちゃうよ。なんだか良い匂いがしたのだ。
「だって、クラウス。凄いと思わない!?」
「まあ、確かに凄い事だとは思いますが」
「そうでしょう? だってレベッカなんて9歳だけど、刺繍なんて全然できないのよ!」
「母上、それを言ってはいけません」
「あら、ごめんなさい」
レベッカ? と、俺は分からなくて首を傾けた。
「レベッカというのは私の妹なんだよ。ロロには兄弟はいないのかい?」
「りあねえと、れおにいと、にこにいがいるのら」
「四人兄弟なのか?」
「うん。みんなだいしゅきら」
「仲が良いんだな」
クラウスさんは、そう言いながら視線を逸らした。お? 妹と仲が良くないのか?
「とってもわがままに育っちゃったのよ。私達が悪いのだけれど」
ああ、甘やかしたのか。ダメダメだな。それは、本人がこれから大変だ。いや、貴族の令嬢ならそれでも大丈夫なのかも知れない。俺はよく分からないのだ。
孤児院で一緒にクッキーを食べた。1番小さな子が俺に話しかけてきた。猫さんみたいな耳がある。触ってみたくてウズウズするのだ。
「おまえ、何歳?」
「3しゃいら」
「おれ、5歳。一緒に遊んでやるよ」
「ありあと」
「おう、ほら、これも食べな」
「うん」
世話を焼いてくれる。自分より小さな子が珍しいのかな?
「ねえ、ロロ。あなたが刺繍したものを見せてほしいわ」
「うん」
「今持っているの?」
「うん」
俺は肩から斜めに掛けていた小さなポシェットを探る。ハンカチを入れて持ってきていたのだ。
このポシェットは俺のお出掛けセットだ。ハンカチと、念の為小さな小瓶に入れたポーションも入っている。
マリーが心配性で、『転けたら使いましょう』と言っていつも入れている。
それだけ俺の歩みは危なっかしいのだろう。
「あい」
一枚のハンカチを夫人に手渡す。少し前に俺が刺繍した物だ。マリーに教わって、小さな葉っぱを幾つか刺繍したのだ。
まだ手が小さいし思うように動かなくて、俺的には出来栄えに納得できていない。なので、自分用に持っていたのだ。
これには大した付与はしていない。怪我をしたら早く治りますようにというおまじない程度だ。気休めなのだ。
「まあ、上手なのね」
「母上、私にも見せてください」
伯爵夫人の手から、クラウス坊ちゃんの手に俺のハンカチが渡される。
「これを本当にロロが刺繍したのかい?」
「うん、まりーにおしょわったのら」
「凄いな。これはバザーで売れるぞ」
「ほんちょ?」
「ああ、本当だ。上手だな、ロロ」
「えへへ」
そうか、売れるのなら生活費の足しになるな。俺も役に立てるかも知れないのだ。
「ロロ坊ちゃまはお上手なのですよ。リボンにも刺繍なさるのです」
「まあ、リボンに?」
「はい、小さな手で一針ずつ丁寧に刺繍なさるのですよ」
「素晴らしいわ」
「マリー、坊ちゃまって呼んでいるのか?」
ビオ爺がマリーに聞いてきた。そりゃそう思うだろう。全然、坊ちゃまて感じではないのだから。そこら辺にいる普通のちびっ子だ。
「ロロ坊ちゃま、ビオ爺や奥様も信用できる人達です。お話しますね」
と、言われても俺には判断できない。だから、マリーに任せるのだ。
マリーが俺達の事情を話した。両親が亡くなった事。その時一緒にマリーの息子夫婦も亡くなった事。そして、突然やって来た叔父夫婦に家を追い出されてこの街にやって来た事。
「な、なんて酷い事を……!」
伯爵夫人が涙を流している。その涙を俺が渡したハンカチで拭くのは止めてほしいのだ。ちゃんと返してね。
「そんな事、まかり通るのか!?」
クラウス様が怒っている。俺はまだこの世界の事、貴族の事はよく分からない。
それでもあの叔父夫婦がした事は、普通ではないのだろうと思ったのだ。
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