7ー伯爵夫人
「クッキーを焼いてきたのよ」
「おー、マリーのクッキーか」
「ロロ坊ちゃまも一緒に焼いたから美味しいわよ」
「なんだ、ちびっ子はそんな事ができるのか?」
「まりーにおしょわったのら」
教会を通り抜け、裏に出る。小さな庭を挟んで住居らしき建物があった。庭は道に面していて、そこから直接入る事ができるようになっている。
その脇には花壇があって木もある。その前で1人の女性と一緒に、数人の子供達が遊んでいた。
「ハンナ、クッキーを持って来てくれたそうだ!」
「ビオ爺さん、クッキーですか?」
クッキーだって! と、子供達も一緒に寄ってきた。俺より大きい子が多い。その勢いに圧倒されてしまい、思わずマリーのスカートを握ってしまったのだ。
「ひょぇ……」
「大丈夫ですよ」
「うん」
「ハンナは初めてだろう、マリーだ。それにちびっ子がロロだ」
「初めまして、ハンナです」
「マリーです。私は、ビオ爺とは長い付き合いなんですよ」
「そうなんですね!」
ハツラツとした元気そうな女性だ。歳の頃はリア姉より少し上かな? シスターの様な恰好をしているがまだ見習いだろうか? スカートが膝丈だ。
明るいマロンブラウンのふんわりとした髪に、トパーズの様な濃いオレンジのパッチリとした目。ちょっぴり垂れ目なのが優しそうな印象なのだ。
「ロロでしゅ」
ペコリとお辞儀をした俺に、しゃがんで目線を合わせてくれる。
「あたしはここのお手伝いをしてます。ハンナと呼んでね」
「はんな」
「そうよ」
「ボクはロロ」
「はい、ロロね」
ニッコリとしてくれた笑顔が、ひまわりの様だ。
「孤児院の世話をしてくれているんだ」
「あらあら、それは大変ね。やんちゃな子ばかりでしょう」
「まりー、クッキー」
「そうでしたね。ハンナ、クッキーをみんなで食べてちょうだい」
マリーが、持ってきた小さなバスケットをハンナに手渡す。沢山焼いて持って来た。
「まあ、とっても良い匂いだわ。みんな、おやつにしましょう。手を洗ってきなさい」
はーい! と、口々に言って子供達が建物の中に走って入って行く。あそこが孤児院になっているのだろう。
その子供達をよく見ると、頭にケモ耳がありフサフサな尻尾のある子達もいた。まだ小さい子が多い。
「まりー、お耳としっぽ」
「そうですね、獣人の子達ですよ。この国には色んな人がいるんです」
「ひょぉー!」
初めて見た獣人。俺はまだ行動範囲が家の周りに限られる。だから知らなかった。
かなり興味深いのだ。
「マリーさんもロロも一緒にどうぞ」
「まあまあ、ありがとう。ロロ坊ちゃま、行きましょう」
「うん」
俺達が建物の中に入ろうとした時なのだ。その教会の裏側に立派な馬車が横付けされた。
街中を走っている様な荷馬車じゃないぞ。きっと貴族が乗っているんだ。馬車に紋章らしきものが付いている。
「おや、伯爵様の馬車だ」
司祭のビオ爺がそう呟いた。伯爵様?
「この領地を治めている領主様ですよ」
「りょうしゅ?」
「そうですよ、この街で1番偉い人です」
その馬車から、綺麗なドレスを着た女性が降りてきた。ブリムの広い帽子を深めに被り、膨らみを抑えた外出用のドレスを着ている。護衛らしき人達もいる。
優雅に馬車から降りてこちらに歩いてくる。
ビオ爺が頭を下げて迎える横で、マリーも頭を下げている。だから、俺もペコリと頭を下げたのだ。
「これは奥様、ようこそお越し下さいました」
「司祭様、有難う。今日は可愛らしいお客様がいらしているのね」
そう言いながら、奥様と呼ばれた女性がいきなり俺の前にしゃがんだ。
領主の奥様だろうに、しゃがみ込むから俺は少し驚いたのだ。
「驚かせてしまったかしら? お名前は言えるかしら?」
「あ、あい。ロロでしゅ」
びっくりして、ちょっと吃ってしまった。それに、とっても美人さんだ。良い匂いがするのだ。
少しピンクっぽく見えるローズブロンドの髪を纏めていて、帽子から出ている後れ毛までお上品にカールしている。深いローズ色した優しそうな瞳で、俺を正面から見ている。
「まあ、良い子ね。ちゃんと言えるのね」
「母上、そんなところでしゃがみ込むとドレスが汚れますよ」
後ろから男性の声がしたのだ。奥様の後ろからやって来たのは、リア姉とよく似た年頃の青年だった。
見るからに坊ちゃんだ。マリーに坊ちゃまと呼ばれている俺なんかより、ずっと坊ちゃんらしい。キラッキラなのだ。
「あら、平気よ」
「これは、クラウス様」
「ビオ爺、お邪魔するよ」
クラウス様と呼ばれた青年は領主様のご子息なのだろう。
シルバーブロンドの、サラサラとした髪を後ろで1つに結んでいる。瞳はクールなブルーグレーだ。これはモテるだろう。
「ちびっ子なのに、大人しいのだな」
そう言いながら、いきなり俺を抱き上げた。
「ひょぇ……ま、まりー」
思わず、マリーに助けてくれと手を伸ばしてしまったのだ。
「大丈夫だ。ロロと言ったか?」
「あ、あい」
「何歳だ?」
「3しゃいでしゅ」
短い指をぎこちなく3本立てる。
「そうか、一緒に入ろう」
ニコニコしながら俺を抱いて歩いて行く。どうした? 心無しかご満悦に見えるぞ。
「ロロ、クラウス様は領主様のご子息だ。ちびっ子がお好きなんだよ」
と、ビオ爺は言うが。それを言われたからと言って、俺はどんな反応をすれば良いのだ?
「ビオ爺、お好きなどと言うな。ちびっ子は皆で、可愛がって育てるものだと思っているだけだ」
お、そうなのか? それにしては、口元がニマニマしているが。俺のぷにぷにボディにやられちまったか?
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