65ーその後 2
(ディさん視点です)
諸々、調べられた結果を知った領主である伯爵は、衝撃を受け真っ青になりながら激怒したらしい。
蟀谷に血管を浮き上がらせながら「何という事をしていたんだ!」と、頭を抱えていたそうだ。
そして、2人と縁を切った。夫人とは離縁し、フォーゲル伯爵家の籍から2人を除籍したんだ。
嫡男もそれを止めなかった。確かに我儘な妹だったが、母が手を貸しているとは夢にも思わなかったのだろう。それだけに、ショックは大きい様だ。
伯爵は常識的な人だった。領地だって健全に経営している。なのに、どうしてあの夫人に騙されていたのか?
伯爵が夜会で、一目惚れして婚姻した相手だったらしい。
熱烈にプロポーズしたのだという。社交界では有名な話なのだそうだ。恋は盲目と言うけれども、盲目過ぎるだろう。
領地に出れば、自分の娘の悪い評判は耳に入った筈だ。全く気付かないなんて事はないだろう。
それを放置していた責任もある。籍を抜いて縁を切ったからと言って、伯爵の罪が無くなる訳ではない。
監督不行届だ。領地や財産を没収はされなかったものの、罰金と伯爵から爵位を下げられ子爵となった。
領主自身も責任を感じ、爵位を返上すると言ったそうだが降爵で留まった。その気持ちを、今後の領民主体の領地経営で償えという事なのだろう。
まだ、嫡男が真っ当に育っているだけマシだ。
夫人が人身売買に加担していた可能性や、ロロの一件、そして平民に対しての仕打ちを重く見た量刑が下された。
夫人と令嬢は貴族籍から除籍され、貴族簿からも抹消される事になった。自分達が虐げていた平民になったんだ。
そして王都だけでなく、フォーゲル伯爵領への立入禁止も言い渡された。追放と同じだ。だが、国外追放になった訳ではない。
伯爵から見放され、離縁され貴族ではなくなった。そんな夫人が、頼ったのは自分の実家だ。
夫人の実家は、兄が継いでいた。その兄は、気骨のある人だった。
人として、やってはいけない事をしたと激怒したらしい。
自分の身内が仕出かした事だから、自分が生涯を懸けて償わせると言い切った。
領民への謝罪と、支援を惜しまないと公言したんだ。
そして夫人と令嬢は、平民になっただけではなくこの実の兄の手によって奴隷に落とされた。犯罪奴隷と同じ扱いだ。なんとも、思い切った事をする。
夫人の兄の奴隷として、生涯兄に監視されながら実家で労働をする事となった。一生身を粉にして働いて償えという事だ。
それでも今迄、貴族として好き勝手をしてきた2人は反発したらしい。夫人は助けてほしいと泣いて縋り付いたそうだ。
だが、兄はそれを一切許さなかった。
2人のプライドや自尊心といったものを、片っ端から壊していった。それまで、足蹴にしていた使用人達よりも下の身分になったんだ。
夫人の兄も真面なのに、夫人はどうしてこうなったのか? 今はもう亡くなっている夫人の両親に問題があったのだろうか? それを知る術はない。
その顛末をレオに話したんだ。
「そうですか……」
「レオは甘いと思う?」
「いえ……まさかあの領主夫人が、一緒になってやっていたとは思いませんでした。それに、あの人達が貴族じゃなくなるなんて、それは辛いことでしょうから」
この子は本当に、なんてできた子なんだろう。
そんなに急いで、大人にならなくても良いものを。
「レオ、まだ子供でいていいんだよ。もっと大人を頼っていいんだ」
「ディさん、有難うございます」
レオはニッコリと微笑んだ。でも、この子達は自分達の力で、生きて行こうとするのだろうな。今迄だってそうして来たんだ。
なんだか、僕は情けなくなるよ。
「ディさん、有難うございました。今回は本当に、ディさんがいなかったらロロを助けられなかったかも知れない」
「そんな事はないさ。ピカがちゃんと守っていた」
「そうですか?」
「そうだよ。僕が駆けつけた時も、もうピカがロロを背負って脱出していたからね」
「ピカは凄いなぁ。僕達はロロを守れなかった」
「そんな事はないさ」
そんな事を思う必要なんて全くないんだ。
家を追い出されてから1年、ずっとレオとリアが守ってきたんだ。ロロは優しい良い子に育っている。
そのロロは、丸2日眠っていた。
意識が戻っても、ポーションは必要だろうと思っていたんだけど、信じられない位とっても元気だった。一応、飲ませたらしいけど。
意識が戻ったと聞いて、僕が会いに行った時もベッドの中にはいたけどいつも通りだった。
もっと痛みや、体の動き辛さが残ると思っていたんだけどなぁ。不思議だ。
「でぃしゃん、こんちは~」
なんて言いながら、いつもの様に小さな手をフリフリしてくれた。
「ロロー!」
「キャハハハ、でぃしゃん」
僕が抱き着くと笑っていた。不思議なくらい元気だった。まあ、でも良かったよ。
「でぃしゃん、たしゅけてくれてありがと」
「違うよ、ピカだよ」
「ピカもらけろ、でぃしゃんもら」
「そうかい?」
「うん、でぃしゃんの顔をみてあんしんしたのら」
「可愛い事を言ってくれるね! もう、スリスリしちゃおう!」
「でぃしゃん、キャハハハ」
こんな可愛い子に、暴力を振るうなんて信じらんない。
あぁ、そうそう。実行犯の男2人だけど、強制労働で鉱山に送られた。
男達も余罪が沢山出て来た事もあって、鉱山で生涯労働する事になったんだ。
「でぃしゃん、コッコちゃんらけろ」
意識が戻ったと思ったら、コッコちゃんって。ロロらしいと言うか、何と言うか。
「フォリコッコかな?」
「しょうしょう。れおにいで登録したいんら」
「ああ、テイムしてるもんね」
「しょう。れも、ぎるどにコッコちゃんちゅれていけないんら」
「アハハハ、そうか。そうだよね」
魔物のフォリコッコを、4羽も連れてギルドには来れないだろう。
そんな事を心配していたのか? 痛い思いをしたというのに。
「僕からギルマスに話しておくよ」
「うん、ありがと。れね」
「どうしたの?」
「また、コッコちゃん、ちゅかまえにいきたいんら」
「えぇッ!? また捕まえるの?」
「しょう。近所のおじしゃんや、びおじいもほしいって」
「アハハハ! 今度は僕も付いて行くよ!」
「でぃしゃん、ププーの実がなっている今じゃなきゃらめ」
「ああ、食べに出て来るんだったね」
「しょう、らからもうおきてもいい?」
なんだ、それが本題なんだね。ふふふ、もうベッドの中は退屈なのかな?
元気になって本当に良かった。
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