64ーその後 1
(ディさん視点です)
裏口の方に周り、階段を降りて行く。すると、ピカが教えてくれた通り檻の前に転がっていた。
男が2人。こいつ等が実行犯か。さっさと眠ってもらおう。男達に向かって、僕は指をヒョイと動かして眠らせた。
あ、少し位痛い思いをさせた方が良かったかな? まあ、いいや。
そして、領主夫人とその令嬢。
「あ! あなた! 見てないで助けなさいよ!」
令嬢がギャンギャン喚いている。本当に耳が痛い。
地面に転がりながら、なんとか起きようと体を動かしている。
だけど、ピカのバインドから抜け出せる訳がない。
「どうして僕が、君達を助けなきゃいけないんだ?」
「どうしてって、あたしは領主の娘なのよ! 伯爵令嬢なのよ! 早く助けなさいよ!」
「レベッカ、無駄よ。この方はエルフのディディエ・サルトゥルスル様よ」
「お母さま、それがどうしたのよ! 関係ないわ!」
「関係あるのよ。この方にはこの国の王でも命令できないわ」
「お母さま、何を言ってるの!?」
「アハハハ。流石に領主夫人は僕の事を知っているんだね。そうだよ、僕にはこの国の誰であっても命令できない。たとえ、王でもね。先代の王との約束なんだ。僕に命令できるのはエルフの長老夫婦位だよ。ああ、皇帝もだ。僕はエルフの中でも、少し変わり者らしいからね。アハハハ」
さて、どうしてやろうか。このまま城に連れて行こうか。また、有耶無耶にされたら面倒だ。
それに、そんな事になったら任せてくれたレオ達に顔向けできないよ。
「サルトゥルスル様、どうかお助けください!」
「嫌だね」
「お願いします!」
「嫌だ。前に君達が、ピカを狙った時に忠告した筈だよね。2度と手を出すなと言った筈だ。それに、もうあの時に1度助けているんだ。2度目はないね」
「可愛い娘なのです。子供の我儘です。どうか」
「違うだろう。夫人も一緒にやってるじゃないか。我儘の範疇を超えている。これは犯罪だ」
「サルトゥルスル様、どうか今回だけは!」
「嫌だと言っただろう。君達はロロをどうするつもりだったんだ? ピカが手に入ったら、あのまま殺すつもりだったんだろう?」
「そ、そんな事は……」
図星じゃないか。目が物を言うとはこの事だね。
この母親は、人の命を何だと思っているんだよ。なんて、考えるだけ無駄か。
「ああ、言い訳はいいよ。あんな小さな子に酷い事をして、君達はもう終わりだ。覚悟するといいよ」
「何よ、偉そうに! あたしが誰だか知らないの!?」
「知ってるよ。レベッカ・フォーゲル。少し前に、僕の事も連れて帰るとか言っていたよね。興味がなくなったら、もう忘れちゃったかな? 我儘で常識を知らない大馬鹿娘だ」
「何ですって!?」
「レベッカ、黙りなさい!」
「だってお母さま!」
「ああ、もう煩いね」
僕はヒョイと指を振った。もう黙ってもらおう。不愉快だ。レベッカも眠らせたんだ。
この子にも将来があるだろうに。ちゃんと教育されていたら、また違ったかも知れない。
「サルトゥルスル様!」
「殺してないよ。眠ってもらっただけだ。さて、君達だけどね。もう面倒だから、城に直接連れて行く事にするよ。そこで罰を受けるといい」
「そ、そんな!」
僕は魔法杖を出した。エルフなら皆が持っている魔法杖だ。魔法杖を使うと、普段よりも強力な魔法を使う事ができるんだ。
その魔法杖で、夫人と令嬢、男達が入る様に半円を描いて……転移だ。
その後、直ぐに王命が出て彼女達が調べられた。
エルフの僕が、城にいる王の執務室へ突然転移で現れたものだから驚いていた。
何事だと、手に持っていたペンを思わず落としていた位だ。
僕がこれまでの全てを説明をすると、目を吊り上がらせ真っ赤になりながら怒りを露わにしていた。そして、最速で対応してくれたんだ。
調べて直ぐに、余罪が次から次へと出てきた。
外では、善良な領主夫人を装っていた夫人。この夫人がレベッカを増長させていた張本人だった。
猫可愛がりどころの騒ぎじゃなかった。主人である領主の前では「ちゃんと教育しているのだけど」と、話していたらしい。
だが、実際は令嬢の我儘に手を貸し、事実を隠蔽していたんだ。
伯爵令嬢なのだから、領主の娘だから、可愛い娘だからと甘やかし放題だった。令嬢が欲しがるものは何でも与えていたらしい。
あまり家にいない父である領主と兄が厳しく言った所で、いつも側にいる母の夫人が甘やかしまくっていたら、なんの意味もない。甘やかすどころか、手を貸していたのだ。
令嬢は、そんな風に育ったんだ。何が悪い事なのか、理解できない子供に育ったのだろう。
自分の気持ちや、欲望を押さえたり我慢したりできないんだ。別の意味で、被害者なのかも知れない。
「あたしは悪くないわ! あの犬が欲しかっただけよ!」
と、令嬢は性懲りもなく訴えていた。
夫人は諦めたのか、ただただ項垂れていたそうだ。
以前、ピカを狙ってやって来た男も、夫人が手配した者だった。
令嬢付きの侍女も、何人か行方不明になっていた。夫人が、人身売買に加担していた可能性が出てきたんだ。
言う事を聞かない平民を、鞭で打って瀕死の状態にさせていた事まで分かった。
ロロの事件は、街の人達が何人も目撃していた。それを、みんな証言してくれたんだ。余程、嫌われていたんだね。
街を守る衛兵まで、あの娘には手を焼いていたらしくて証言してくれたんだ。
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