60ー助けて
(マリー視点です)
ロロ坊ちゃまが攫われた! ピカの背中に乗っていたロロ坊ちゃまが!
一瞬の出来事で、手を出す事もできなかった。直ぐにピカが後を追って走り出した。
こんな街中で、攫うなんて!
そうだわ、衛兵に知らせないと!
何をどうすれば良いのか分からない。気が動転して、あたふたしていた私の目に飛び込んできたのが『うまいルルンデ』の看板だった。
咄嗟に『うまいルルンデ』に駆け込んだ。
「おばあちゃん? どうしたの?」
ああ、エルザだわ。
「エ、エルザ!」
「まあ! どうしたの?」
奥さんも出てきてくれた。助けて……お願い!
「ロロ坊ちゃまが! ロロ坊ちゃまが攫われたの!」
「何ですって!?」
「ちょっと、あんた!」
只事ではないと、奥さんがご主人を呼びに厨房へ入って行った。
ああ、私が抱っこしていれば良かった。手を繋いでいれば! どうしよう! 坊ちゃま!
「おばあちゃん! 落ち着いて! 何で? どこで!?」
「何だ! どうした!?」
ご主人まで出て来てくれたわ。お願い、坊ちゃまを!
「え、衛兵に! ロロ坊ちゃまが攫われたんです!」
「落ち着いて、詳しく話してくれ」
私は、必死で言葉にする。教会へ行った帰り道、ロロ坊ちゃまはピカの背中に乗っていた。
そこを突然、走って来た男に攫われたと必死で話した。
心臓が、破裂しそうな位に激しく波打っている。
鼓動の音は煩い位なのに、周りの音は耳を塞がれた様に籠って遠く聞こえる。駄目よ、しっかりしなきゃ。伝えなきゃ!
「よし、任せな! 衛兵に伝えてくる!」
ご主人が走って店を出て行った。ああ、お願い。お願い……坊ちゃまを!
「マリーさん、座って。お水よ、飲んで」
「あ、有難うございます」
奥さんが水を出してくれたけど、手が震えてコップが持てない。
「おばあちゃん、しっかりして! ロロ坊ちゃまを助けなきゃ!」
「ええ、そうね。エルザ、そうよ。助けなきゃ!」
両手でコップを持って、一気にお水を飲む。やっと、周りの音が耳に入ってきた。
「こんな街中だもの。見ていた人も多い筈だわ」
「ロロが攫われただと!?」
「ギルマス!」
え? ギルマス!? ああ、本当だわ。あの大きな人は、以前ギルドで会ったギルマスだわ。態々来て下さったのね。
「今、オスカーに聞いたんだ。俺はギルドで待機しておくからな! 何か分かったら知らせてくれ!」
さっき来られたばかりなのに、もう走って戻って行かれたわ。
あらあら? オスカーって誰かしら?
「おばあちゃん、ここのご主人よ。ご主人がオスカーさん。奥さんは、メアリーさんよ」
「あらあら、そうなのね」
私ったら、ご主人と奥さんのお名前も知らなかったわ。何度もお会いしているのに。
「衛兵が直ぐに捜索してくれるそうだ。見ていた奴もいるらしい」
そう言いながら、ご主人のオスカーさんが店に戻って来られた。いつも頼ってしまって申し訳ないわ。エルザもお世話になっているのに。
「ピカはどうした?」
「あ、そうそう。ピカが追いかけているの!」
そうだったわ。ピカが追いかけているから大丈夫よ。ピカが見失うなんて事はないもの。きっと坊ちゃまを助けてくれる。ロロ坊ちゃま、どうかご無事で!
「マリー! ギルマスに聞いた!」
「マリー!」
リア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまが『うまいルルンデ』に血相を変えて飛び込んで来た。
「嬢ちゃま、坊ちゃま、私が付いていながら、申し訳ありません!」
私はガバッと頭を下げた。
ああ、涙が出そうだわ。でも、泣いたら駄目よ。本当に泣きたいのは嬢ちゃまと坊ちゃまだもの。自分のエプロンを掴みながら、グッと堪えて頭を下げる。
「こんな街中で堂々と攫うなんて!」
「マリー、頭を上げて。仕方ないよ、どうしようもできなかったんだろう?」
「申し訳ありません! ロロ坊ちゃまにもしもの事があったら……」
もう後悔しても始まらない。分かっているのだけど、悔やまれる。
あの幼いロロ坊ちゃまが、今どんな思いでいるのかと思ったら胸が締め付けられる。
「大丈夫だ。ピカが付いている。マリー、歩ける?」
「は、はい」
「先に帰ってほしい。誰もいなかったらニコが心配するだろうから。僕はギルドにいるよ。ギルマスが衛兵と連絡を取ってくれているんだ」
「レオ坊ちゃま……分かりました」
レオ坊ちゃまは、こんな時でも冷静だわ。まだ15歳だというのに。
私もしっかりしなきゃ。両手でパンパンと自分の頬を叩いた。
「姉上もマリーと一緒に先に帰ってほしい」
「嫌よ! あたしもギルドに残るわ」
「姉上、ニコに話してそばにいて欲しいんだ。ニコも心配だからさ」
「分かったわよ……レオ、必ずロロを助けてよ」
「当たり前だ」
「さ、マリー。帰りましょう」
「はい。レオ坊ちゃま、お願いします」
「大丈夫、ピカがいる。それに現場を見ていた人が何人もいるんだ。大丈夫だよ」
ロロ坊ちゃまは、小さかったからご両親の事を覚えていない。
それでも、傷付いてらっしゃる事は分かっていたの。寂しいと思わない訳がないのよ。まだやっと3歳なのだから。
なのに、寂しがったりなさらない。みんなに心配かけない様にと、気丈にしておられる。
そんな坊ちゃまを、守らなきゃと思っていたのに。
これ以上、辛い思いをさせられないと。幸せになって欲しいと。そう願っていたのに、私は何をしているのよ。
ロロ坊ちゃま、ごめんなさい。マリーがもっと気を付けていたら。
リア嬢ちゃまと一緒に家に帰ると、ニコ坊ちゃまとユーリアがもう帰っていた。
「誰もいないから心配したぞ」
「おばあちゃん、どうしたの? 顔色が悪いわ」
「あれ? ロロは?」
「ニコ、ユーリア」
リア嬢ちゃまが、ロロ坊ちゃまが攫われたと話された。
両手を膝の上に置き、ギュッと握り締めて真剣に聞いてらしたニコ坊ちゃま。
「リア姉、分かった。ピカが付いているなら大丈夫だ」
なんて気丈な事を……まだ、ニコ坊ちゃまは9歳だというのに。
ああ、ピカ。お願い。ロロ坊ちゃまを助けてちょうだい。
どうか、ご無事でいてください。祈らずにはいられなかった。
お読みいただき有難うございます!
いやぁ、驚きました。なろうさんでは、あまり感想を頂けないのですが。^^;
皆様、ロロを心配して下さって有難い事です。
PV数で分かっているものの、沢山の方々に読んで頂けているのだと実感しました。有難うございます!
宜しければ、評価やブクマでも応援して頂けると嬉しいです。
宜しくお願いします!




