53ーロロの知らない事 2
「お気をつけていってらっしゃいまし!」
「いってらっしゃい!」
今日は、ご兄弟とフィーネ様、マティ様が一緒に森へ出掛けられた。
いつも私は、末っ子のロロ坊ちゃまと一緒。まだ3歳になったばかりの、ロロ坊ちゃまをお1人にはできないもの。
その坊ちゃまには、まだ知られたくない事を今日はしようと計画していたの。
どんな結果がでるのか分からない。期待させるといけない。だから、内緒なのよ。
「さあさあ、ユーリア。出掛けるわよ」
「うん、おばあちゃん」
ユーリアと2人、街に向かう。
「おばーちゃん、『うまいルルンデ』に行くの?」
「そうよ、先ずはあそこのご主人が、話を聞いてくださるってエルザが言ってたわ」
「あのご主人、顔が広いものね」
「そうね。良い人に依頼してくれるといいんだけど」
目指すは、長女のエルザが働いている『うまいルルンデ』
そこのご主人が、話を聞いてくれて専門の人に依頼してくださる手筈になっている。
その『うまいルルンデ』に入ると、まだ朝だというのにディさんが特盛サラダを食べていらした。相変わらずだわ。
「おや、マリーじゃない」
「まあまあ、ディさん。おはようございます」
「おはよう。あれ? 今日ロロは一緒じゃないの?」
「今日は、坊ちゃま達は皆さんでお出掛けなんですよ」
「そうなんだ」
『うまいルルンデ』は朝から繁盛していた。朝食をここで食べてから、クエストに向かう冒険者達で一杯だったの。忙しいのに悪いわね。
「おばあちゃん、ちょっと待っててね。そこ、座ってて」
「あらあら、エルザ。忙しいのに申し訳ないわね」
「大丈夫よ、もう少ししたら落ち着くから」
エルザは慣れた手付きで、給仕をしている。奥さんと一緒にどんどん注文を捌いていく。
自分の孫だけど、テキパキと良く働く良い子だわ。
「おばあちゃん、何ニヤけてんの?」
「だってユーリア。エルザは働き者だわ」
「そうね。でも、あたしだって畑でよく働いているのよ」
「あらあら、ふふふ」
私達はディさんが、特盛サラダを食べている隣の席に座って待っていたの。
エルザが言っていたように、少し待つとどんどん客は捌けていった。
冒険者って、みんな食べるのが早いのね。うちのリア嬢ちゃまやレオ坊ちゃまは、ゆっくり食べられるからその速さに驚いてしまったわ。
その内、奥からご主人が出ていらした。
「マリーさん、お待たせしたかな」
「いえいえ、いつもエルザがお世話になってます」
「もう、おばあちゃん。それこの前も言ったじゃない」
「エルザ、何回でも言うわよ」
「ほら、座って」
そう言いながら、エルザがお茶を出してくれた。
エルザも良いお店で働けて良かったわ。自分で見つけてきた仕事だけど、食堂って聞いて少し不安だったのよ。エルザにできるかしら? て、思ったもの。
でも、このお店のご主人や奥様はとってもよくして下さる。こんな相談まで聞いて下さるなんて。
私とユーリアが、坊ちゃま達に内緒でやって来た理由。
それは、あの日いつの間にかいなくなっていた執事さんを探す事。
レーヴェント家先代のご当主様から仕えている執事さんよ。
あの聞いた事もない叔父夫婦が突然やって来て、有無を言わさず家を追い出されてしまった。その時にはもう執事さんの姿はなかったの。
おかしい。どう考えても普通じゃないわ。それに、執事さんなら何か知っているかもと思って探したかったのよ。
やっと生活も安定してきた。特にロロ坊ちゃま。まだ幼いから無理もないわ。この街に越してきた当時は、私のスカートを握って離さなかった。毎日の様に夜泣きをされた。お可哀そうで見ていられなかったわ。
今でも、お1人になる事はない。必ず、誰かの側におられる。
あの、お小さい心がどれだけ傷ついておられるのか。
このままには出来ない。本当の事を知りたい。坊ちゃまや嬢ちゃまには知る権利があるのよ。
そう思って、執事さんを探そうと思ったの。それを『うまいルルンデ』のご主人に頼みに来たの。取り敢えず、人を探しているとお話しする。
「マリー、それってロロ達の家の事?」
ディさんがそう仰った。もしかして、ご存知なのかしら?
「ああ、僕は知ってるよ。前にリアとレオから聞いたんだ」
やはり、ディさんは信用できる人なんだわ。ピカを狙って男が来た時も駆けつけてくださった。
「坊ちゃま達のお邸で執事をしていた人なんです。その人を探しています」
「なるほどな、あの坊ちゃん達は平民にしては所作が綺麗だと思っていたんだ。そうか、貴族か。なら納得だ」
「あたし、似顔絵を描いてきたの」
ユーリアが小さく折りたたんだ紙を出す。自分の孫だけれど、エルザとユーリアは本当に冷静でしっかり者だわ。孫なのに、頼りになるのよ。
「ほう、これは上手に描けている」
「ユーリアは絵が得意なんですよ」
「へぇ~、僕にも見せて」
ディさんまで話を聞いてくださる。有難い事だわ。
執事さんの名前と特徴をお話しする。
「ウォルターさんて仰るんです。先代のレーヴェント家ご当主様に頂いた名前だと言っていたわ。もう私よりお爺ちゃんですけど。短い白髪で中肉中背でしょうか」
「この絵を見ると、口髭が特徴だな」
「そうですね。毎日お手入れなさっていました」
「よし、分かった。人探しが得意な人間に依頼しておくよ」
「お願いします。取り敢えず、これだけ持ってきたのですけど」
と、テーブルにお金の入った袋を出す。
「いや、マリーさん。これは多いぞ。この半分で充分だ」
「あらあら、そうなんですか? 相場が分からなくて」
「ふふふ、マリーも貴族に仕えていた人だね」
「ディさん、揶揄わないでください」
「揶揄ってないよ。でも、僕も気を付けておくね」
「まあまあ、有難うございます」
そうして、ユーリアと家に戻ってきた。
それから、疲れて帰って来られるだろう坊ちゃま達の、お布団を干したりシーツを替えたり。
ずっと思っていた事をやっと相談できて少し気持ちが軽くなった様な気がするわ。
「おばあちゃん、見つかるといいのにね」
「本当ね」
さあさあ、坊ちゃま達がいつお戻りになっても大丈夫なようにパンを仕込んでおきましょう。
今日はロロ坊ちゃま、楽しい1日になっていると良いのだけれど。
お読みいただき有難うございます!
今日はみんながいない日の、マリーの行動でした。
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