492ー命を守る
今から約300年前に本当に起こったことだ。
「あの時は辺境伯領にあるダンジョンでも、スタンピードが起こったそうだ。その後、連鎖するようにルルンデのダンジョンでもスタンピードが発生した。同時に王都が襲われたんだ」
当時の、辺境伯家の嫡男が四英雄の一人だったという。辺境伯領のダンジョンがスタンピードだと知らせを受けて、すぐに領地に戻り収めたと言い伝えられている。その後すぐにルルンデのダンジョンでスタンピードが起こったと。
王都では幸い魔族はいなかったらしくて、騎士団が守りきっている。
「あの時、数人の魔族と戦ったそうだ。それはもう、とんでもない強さだったと言い伝わっている」
「お祖父様、この領地は無事だったのでしょう?」
「リア、そうだな。無事だった。他国のことだから、この国で詳しく知っている者はあまりいないだろう。だが、私たちはフリード殿と交流がある。ずっと昔から代々懇意にしている」
辺境伯家のフリード爺、前辺境伯だ。姉上の持っている剣を、父上に譲ったのがフリード爺だ。四英雄の子孫なのだから、詳しい話も残っているのだろう。
その魔族が現れた。これはディさん案件じゃないか? 僕たちだけで、どうにかできるものじゃないだろう?
「約300年前の辺境伯家のご先祖様は、王都に出没した魔族を撃破されたと言い伝わっているそうだ」
「ええッ!? 魔族をですか?」
「ああ、スタンピードが始まる少し前だそうだ。城を支配しようとしていた魔族を偶々発見して、撃破されたそうだ」
四英雄でなくて、辺境伯家のご先祖様が? 一体どんな猛者なんだ?
「たしか、あの当時の末っ子の令嬢だと聞いたぞ」
「令嬢ですかッ!? もう、フリード爺にもっと詳しく聞いておくんだったわ!」
「姉上、それ何だよ」
「だって令嬢よ、令嬢! 凄いわよ! 聞きたいじゃない!」
ああ、もう変なスイッチが入ってないか? きっと姉上は令嬢ってとこに食いついたのだろうけどさ。
問題はそこじゃない。魔族を撃退したってとこだ。なら僕たちでも可能性があるのじゃないか?
「リア、レオ。私も直接対峙したことはない。レオはさっきの気配で分かっただろう? 想像を絶する強さだと。とにかく刺激しないで逃げる! 自分の命を守るんだ!」
「お祖父様、そんなにですか?」
「ああ、全身の毛穴から冷気が出ているかと思ったぞ」
お祖父様の表現はよく分かる。冷や汗じゃないんだ。それを通り越して冷気だ。それほど未知の力を感じだ。
「ねえ、ピカはどう思う?」
「わふわふ」
「そっか、やっぱそうなんだ」
ピカが恐ろしく強いと言った。だってあの時、ピカだって今までに見たことがないくらいに警戒していた。とにかく今は消えてくれて良かった。
「これはクリスティー先生に、すぐに連絡をしなければならない」
お祖父様がそう呟き、馬をお邸に向けて走らせた。とにかく戻ろう。魔鳥の巣は退治したけど、お邸が心配だ。あんなに数がいたんだ。魔鳥が飛んで行っていないとは限らないのだから。
俄かにみんなが心配になって、僕たちも急いで馬を走らせた。
ロロがまた無茶をしていなければ良いのだけど。それが一番心配だった。
◇◇◇
(ロロ視点に戻ります)
呑気にクッキーを食べて、ジュースを飲んでいた。魔鳥のことなんて頭の隅っこに行っちゃってた。これを油断というのだね。
本当に、俺はいつもいつも忘れっぽい。今日ばかりはとっても反省した。
何故なら、お祖父様とリア姉とレオ兄が討伐に行った魔鳥さんがお邸を襲ってきたからだ。それも、警備をしている兵士さんの声で気付いた。
なんて呑気だったのだろう。せっかく女神がわざわざ知らせてくれたというのに。
「ロロ坊ちゃま! エル坊ちゃま! ニコ坊ちゃま! 窓から離れましょう!」
マリーが大きな声で俺たちを呼んだ。その時、まだ俺は手にクッキーを持っていた。だって美味しかったのだもの。
「マリーとウォルターも早く!」
ニコ兄がいち早く気付いて、マリーに声を掛ける。俺はニコ兄に、エルはウォルターさんに抱きかかえられた。部屋のドアの方へ、窓から少しでも離れようと移動する。
「にこにい、ボクのちゅえ!」
「ロロ、危ないから駄目だ!」
そう言いながら、ニコ兄は手にピコピコハンマーを握りしめている。俺は油断しまくっていて、テーブルに魔法杖もピコピコハンマーも置いたままだ。
なんてこったい。せっかく取りに来たのに、持っていないと意味がないじゃないか。
「なんら!?」
「魔鳥ですよ!」
部屋のバルコニーに出られる大きな窓から外を見ると、空に無数の大きな魔鳥が飛んでいた。これから攻撃するぞと、羽を畳んでいる。
お祖母様とテオさんたちが外にいるはずだ。大丈夫なのか?
「にこにい、おばあしゃまと、ておしゃんが!」
「大丈夫だ! テオさんもお祖母様も強い!」
お祖母様も強いのか? ええ? 強いの?
こんな時に俺は、はて? と頭をコテンと傾けた。
だからこういうところなのだ。俺ってば、それどころじゃないって。とにかく魔法杖を取りに行こう。
「にこにい、おろして! ボクのちゅえ、とるのら!」
「ロロ、危ないって!」
「らいじょぶなのら!」
ニコ兄の腕から身体を捩ってすり抜ける。トコトコと走って窓際にあるテーブルを目指す。




