472ー4巻発売記念SS2 お祭りが終わった
ルルウィン祭が終わって、翌日大勢のお客様があった。昨日一緒だった王弟殿下夫妻とララちゃんのお父さんたち、それに領主様だ。
リア姉とレオ兄は、その人たちとお話があるからと家の中だ。俺とニコ兄は、一緒にやってきたリュシィとララちゃんと一緒にお散歩だ。
畑の中を、ララちゃんと一緒にピカに乗って行く。
俺の前に乗っているララちゃんの、ふんわりとした髪がそよそよ~と風に揺れる。リュシィは昨日とは違って普通だった。普通だったって言い方もおかしいのだけど、昨日は高飛車だったもの。
今日はニコニコしながらニコ兄の隣を歩いている。畑の中の道は、歩き慣れていないと歩きにくい。すぐに躓いてしまう。だって道といっても、石がゴロゴロあるし地面自体がデコボコしているから。
案の定、リュシィはよく躓く。その度にニコ兄が手を出して支えてあげている。
おやおや~? なんだか良い雰囲気ではないかな? ん? その辺のところ、どうなんだ? と聞きたいけど、黙っておこう。
「ふふふふ」
俺の前に座っているララちゃんが、可愛らしい笑い声を零した。
「ららちゃん、ろうしたのら?」
「らって、ろろ。きっとりゅしぃちゃまは、にこにいがしゅきなのよ~」
「え、しょう?」
「しょうなのよ~、きっとね。ふふふ」
なんだか楽しそうだ。こんなところは女の子の方がオマセさんだ。
ララちゃんが微笑むだけで、世界がキラキラする。鈴を転がしたような可愛い声が、心地良い。そんなふうに思うのは俺だけなのかな?
「ろろ、ららはかえるのよ~」
「うん、ららちゃん」
「でもね、またらいねんも、ちゅれてきてもらうわ」
来年って丸1年あるじゃないか。それまでララちゃんに会えないのか。それはちょっと寂しいな。
「まいとし、ろろにあいにくるわ~」
「ららちゃん、まいとし?」
「しょうよ、まいとし。ふふふふ」
振り向いて、ニッコリするララちゃん。ララちゃんは、1年会えなくても寂しくないのかな? 俺はとっても寂しいのに。
「ららちゃん、しょれまれ、あえないの?」
「しょうね~、らってとおいもの」
「しょっか」
そうだった。遠いのだ。それに俺たちはまだちびっ子だから、誰かに連れて来てもらわないといけない。だから仕方ない。それは分かっているのだけど。
ララちゃんに気付かれないように、少し顔を伏せる。今日でお別れだと思うと、途端にとっても寂しくなってきた。
「ららね、ひろばでろろをみちゅけたときに、ぽかぽかしたの」
「ぽかぽかなのら?」
「しょうなのよ~。このこのしょばにいれば、らいじょうぶらっておもったの」
だから、俺の服を握りしめていたのだね。俺はあの時驚いた。突然後ろから服を掴まれて、なんだ? て思ったもの。振り向くと妖精さんのように可愛いララちゃんが、目に涙をいっぱい溜めて俺を見つめていた。
「ろろは、ぽかぽかなの」
「ららちゃんもなのら」
「ふふふ、しょう?」
「しょうなのら」
軒下で日向ぼっこしているみたいな、心地良いポカポカだ。
「らいねんは、ららはおねえしゃまになっているのよ~」
ああそうだった。今はお母さんのお腹に弟か妹がいるのだと話していた。だから今年は来られなかったと。
「ロロ、あんまり奥に行ったら駄目だぞ」
「にこにい、ろうして? いちゅもいってるのら」
「今日はララちゃんが一緒だからだ。マンドラゴラがいるかも知れないだろう?」
「あー……」
奴かぁ、どこにでもいるからなぁ。て、ああ! その時俺は気付いた。
「にこにい! たいへんら!」
「どうした! マンドラゴラか!」
「ピコピコハンマー、わしゅれたのら!」
「なんだよ、びっくりするなぁ。ドルフ爺を呼べば良いだろう?」
「え、ばしこーんしないれ、よぶの?」
「そうだぞ」
いつもなら、俺のピコピコハンマーでバシコーンしてから呼ぶのに。
「だから、いつもだってすぐに呼べば良いんだ」
な、な、なんですとぉッ!? 俺はバシコーンして、ピカに乗って走って大きな声で呼ばないといけないと思っていたのだ。
「ロロが今何を考えてるか、俺でも分かったぞ。別にすぐに呼んでもいいんだ」
「わ、わかったのら」
ニコ兄がそんなフラグを立てるものだから、ほらみろ。すぐそこにモソモソッと動く緑の奴を発見してしまった。美味しそうな生き生きとした緑の葉っぱに、むっちりとした白い体と足。お爺さんみたいなお顔をしたあいつだ。今日はピコピコハンマーを持っていないから、すぐにドルフ爺を呼ぶのだった。
「ぴか、どるふじいをしゃがしゅのら!」
「わふッ」
ほら、ピカもすぐにやる気になる。いくぞ! ドルフ爺を探せ!
「ららちゃん、しっかりもってて」
「なにしゅるの?」
「どるふじいを、しゃがしゅのら」
「わかったのよ!」
ララちゃんがギュッと手綱を握るのを見てから、ピカに声を掛ける。
「ぴか、いくのら!」
「わふッ」
いつもみたいにシュタッと走り出すのではなく、ゆっくりと走り出したピカ。スピードだっていつもほど出していない。
「ロロ! 話を聞いてたか!?」
「にこにい! どるふじいをしゃがしゅのら!」
「だから、ここから呼べば良いって……あー、走って行っちゃったぞ」
「ふふふ、ロロったら分かっていなかったのね」
「ララちゃんが怪我したらどうすんだよ」
「大丈夫でしょう? 楽しそうだわ」
「まあな、めっちゃ笑顔だもんな」
「ええ」
ゆっくりと走るピカの背中で、ララちゃんを身体で支える。長い髪が風に靡いて、俺のお顔をそよそよ~ってするからくすぐったい。
「ろろ、きもちいいのよ! ぴかちゃん、はやいのよ!」
「ちゃんともってるのら!」
「もってるわ!」
いつもみたいに一人で颯爽とピカに乗るのも良いのだけど、ララちゃんと一緒に乗るのも楽しい。ピカったら気を遣っちゃって、揺れないようにゆっくりと走っている。お利口さんだ。
そろそろ呼ぶぞ。どこにいるのかな?
「ららちゃん、どるふじいをよぶのら」
「どるふじい?」
「しょうなのら。しぇーの!」
「「どるふじいーッ!!」」
一緒に大きな声で呼ぶと、少し先のお野菜の中からドルフ爺がヒョッコリと顔を出した。
「なんだ!? どうした!?」
「どるふじい、またいたのら!」
「またか!?」
ほら、ドルフ爺がダッシュでやって来る。手には愛用の鉈を持って。
「キャハハハ!」
ララちゃんったら大ウケだ。楽しそうで良かった。
「ロロ! しゅごいのよ! どるふじいってしゅごいのね!」
「しょうなのら、めっちゃはやいのら」
そしてドルフ爺にバシコーンされて抜かれ、ブスッと鉈で刺されてしまうマンドラゴラ。
「きゃー! キャハハハ!」
「ばしこーんしてから、ぶっしゃしゅのら」
「しょうなのね~!」
ピカの背中から見ていると、家の方から声が聞こえてきた。
「ロロー! 走ったら駄目だって言っただろう!」
あ、やばやばだ。レオ兄が叫んでる。お話は終わったのかな?
クリスさんと一緒に走ってくるレオ兄。いかんよ、いかん。魔王を背負っているじゃないか。これは激オコな証拠なのだ。
「ロロ、だから走ったら駄目だって」
「らって、にこにい。どるふじいをしゃがしゃないと」
「ここから呼べばいいんだよ」
「えー、しょうなの?」
「そうだな」
これはしまったのだ。俺はてっきりいつもみたいに、ドルフ爺を探して走らないとと思っていた。
「ロロ、レオが怒ってるぞ」
「どるふじい、こわこわなのら」
「アハハハ! 本当に怖がってるか?」
当然だ。だってレオ兄のお説教は長いから。
「ロロ! ララちゃんを乗せてるのに走ったりして! ピカもだよ、走る必要はないだろう!?」
「クゥ~ン」
「ごめんなしゃい」
いつもかっちょよくクリンと上を向いているピカの尻尾が、情けなく身体に巻き付いている。レオ兄には敵わない。俺もピカの背中の上で、小さくなっておこう。元々小さいのだけど。ララちゃんはニコニコしてる。
「アハハハ! ララ、楽しかったか!?」
「ええ、おとうしゃま! たのしかったのよ!」
ほら、ララちゃんだって楽しかったと言っているし。
「ロロ、そういう問題じゃないんだ。もしララちゃんが、ピカから落ちたりしたらどうするんだ?」
「わふ」
「ピカ、だからそういう問題じゃないって言ったよね」
落とさないのに。なんて言ってしまったピカに、レオ兄がお説教だ。俺は黙っておこう。こわこわだから。
「ララ、帰ろうか」
「おとうしゃま、もうかえるの?」
「ああ。母上が待っているよ」
「わかったのよ~」
ああ、もう帰るのだって。楽しい時間はあっという間に過ぎる。すぐそこにあったララちゃんの髪が、離れていく。風に靡かせながら、ふんわりとしたリボンも優しく揺れている。
「ろろ、またくるのよ。やくしょくよ」
「やくしょく?」
「しょうよ~。おおきくなっても、ろろにあいにくるわ」
そう言って、クリスさんの腕の中から手を伸ばすララちゃん。その小さな手を取る。ふわふわで温かい手をキュッと握りしめる。
「やくしょくなのら。まってるのら」
「ええ、やくしょくね!」
ララちゃんの手が離れていく。追いかけるように、俺は手を伸ばす。手が離れると、ララちゃんはその手を、フリフリと振った。もうバイバイだ。
ゆっくりと家の方へ戻る。みんなが待っていて、リュシィも王弟殿下の側に行った。
「ニコ、私もまた来てもいい?」
「おう、またな」
「ええ、また来年来るわ!」
ほらほら、この二人ったら良い感じだろう? きっとリュシィはニコ兄のことが好きなんだと、ララちゃんが言ってたし。ニコ兄に命を助けられちゃったし。あれかな? 吊り橋効果じゃなければ良いのだけど。
家の前でお見送りをした。ララちゃんはずっと手を振ってくれていた。俺も振り返した。
本当にお祭りが終わってしまったと思ったのだ。
俺の初めてのルルウィン祭は、今日終わった。




