458ー責任と意識
エルは魔法操作はできていないものの、魔力量の多かった母さまの家系だ。名付けには問題のない魔力量だった。
レオ兄が、こうして手を出して魔力を意識しながらだよ。て、アシストはしていたけど。
エルは素直だから、そのまんまレオ兄を真似して名付けも成功だ。
エルの前にチョコンと並んでいる、オーちゃんとドランちゃん。これから長く生きるのだろう。エルの子供や、そのまた子供にも可愛がってもらうんだよ。この家も守ってほしい。
「キャン!」
「アンアン!」
早速、特訓だ! なんてイッチーたちが張り切っている。
ピューッと走って行くプチゴーレムたちを、エルが追いかけて走る。危ないなぁ、エルはまだ3歳だから危なっかしい。
「れおにい、あぶないのら」
「大丈夫だよ。エルはすばしっこいから」
ニッコリとするレオ兄。俺があれだけ走ったら絶対に、危ないよ。転んじゃうよ。て言うのに。解せないのだ。
「むむむ」
「ロロ、どうしたの?」
「らって、れおにい。ボクなら、じぇったいにいうのら。ころぶよって」
「アハハハ、そうだねぇ」
笑いながらレオ兄が俺の髪を撫でる。笑ってごまかそうとしてないか?
「ロロもピカに乗ってばかりじゃなくて、ニコが朝にしている運動を一緒にすればいいよ」
「にこにいの?」
「そう、毎朝しているだろう?」
レオ兄は『運動』と言うけど、ニコ兄はドルフ爺と一緒に毎朝鍛錬をしている。俺からみると『運動』じゃなくて『鍛錬』だ。いつも終わるとニコ兄は肩で息をしながら地面に寝そべっている。それくらいにハードな鍛錬なんだ。それを俺にもしろと? それは無茶だ。
「ええー、ボクはむりなのら」
「そうかな? 完璧にじゃなくても一緒に体を動かすといいよ」
それって俺は、どんくさいと言っているよね? ね? そうだよね?
「わふん」
そんなのしなくてもずっと僕が乗せるよ。なんてとっても嬉しいことを言ってくれるピカ。でもピカさん、それってピカも俺はどんくさいと思っているということだよね?
「ぴか、しょう? ボクってしょうなの?」
「わふう」
エルよりはね。なんて言われちゃった。これは、一念発起すべきか? エルに負けていられないぞ。
エルとプチゴーレムを見ていたのは俺たちだけではない。マリーもずっと一緒にいるし、いつの間にかお祖父様とお祖母様、エルの両親も出てきて見ていた。
「ロロ、ありがとう。皆で大事にするぞ」
「おじいしゃま、かわいがってやってほしいのら」
「ああ、もちろんだ」
「本当ね、ずっと長い間いてくれるのでしょう? みんなで可愛がるわよ」
「うん、おばあしゃま」
母さまの家族だもの、心配はしていないよ。きっと可愛がってくれるだろう。ただ可愛がるだけじゃなくて、色々教えてやってほしい。
「しばらくエルと一緒に教育だな」
「あら、あなたったら」
ふふふ、ニコの両親もよく分かっている。今は何も知らないからね。
「こんなことを聞いても良いのかしら、レオ」
「はい、なんですか?」
お祖母様が聞きにくそうに、でも真剣にレオ兄に聞いてきた。今いるみんながいなくなったらどうするのか? 今はエルの魔力で動いている。だけど、将来エルがいなくなったら?
「その時に一番魔力量の多い人が、魔力を与えてあげてほしいです」
「そう、そうね。分かったわ」
「もしも、あの子たちが必要な魔力量を与えられない場合は……クリスティー先生に相談してもらえると良いかと思います」
「そうならないようにしよう」
「ええ、せっかくロロが作ってくれたエルのお友達ですもの」
フィンさんとティーナさんが、ちゃんと考えてくれている。走り回るエルとオーちゃん、ドランちゃんを眩しそうな目で見つめながら。
この先、俺たちが見ない景色もあの子たちは見ることになる。平和な世界であってほしい。あの子たちが戦うことのない世界であってほしい。
土で作ったプチゴーレムだけど、でも今はもうあの子たちには意思がある。この家を守っていくんだと思ってくれている。エルと一緒にって。
これは俺たちの責任なのだ。命と向き合う責任。
「じゅっといっしょなのら」
「ロロ、そうだね。ロロもイッチーたちとずっと一緒だね」
「しょうなのら」
あの子たちはディさんに頼んであるから大丈夫だ。一緒にエルフの国に連れて行ってくれるだろう。それまでは、俺がずっと一緒だ。もしかして、俺に子供ができて魔力量があったら子供に託してもいい。
最終的にディさんと一緒にいてくれればと思う。イッチーたちを見て、時々でいいから俺たちを思い出してほしいって思うから。
「ロロ、何考えてんの?」
考え込んでしまった俺を、レオ兄が心配そうな顔をして見てきた。そんな顔をさせたかったのではないのに。
「なんれもないのら」
「そう? ロロは時々すごく先まで考えている時があるからね」
あれれ、バレちゃってるかな? でも俺は笑って言う。
「しょんなことないのら。なんれもない」
あとはお祖母様と一緒に作っているサシェだ。レオ兄が、ルルンデに帰りますと言ってからみんなの意識が変わった。俺たちもそうだ。気持ちが帰る準備に入っている。
できるだけのことをやって帰ろうって。思い出をたくさん持って帰ろうって。
いつでもまた来られるから大丈夫なのだ。